「落下の解剖学」を見ました

公開初日が祝日ということで
お友達をお誘いして行って参りました。
なかなかこういう頭を使うような、しかも日本の映画じゃない作品を
気軽に誘えるような友達って改めて貴重だなと思いました。

さて、こちら見てきた感想をつらつらと語りたいので
盛大なネタバレとなります。ご注意ください。



あらすじ

これが長編4作目となるフランスのジュスティーヌ・トリエ監督が手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞したヒューマンサスペンス。視覚障がいをもつ少年以外は誰も居合わせていなかった雪山の山荘で起きた転落事故を引き金に、死亡した夫と夫殺しの疑惑をかけられた妻のあいだの秘密や嘘が暴かれていき、登場人物の数だけ真実が表れていく様を描いた。

人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見し、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。

女性監督による史上3作目のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。主人公サンドラ役は「さようなら、トニー・エルドマン」などで知られるドイツ出身のサンドラ・ヒュラー。第96回アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされた。
2023年製作/152分/G/フランス
原題:Anatomie d'une chute
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年2月23日

映画.com


想像との違い

SNSでこの映画が公開される、おすすめというのを見たのがきっかけで
普段は日本作品しか見ないけれど、
ミステリーっぽい感じなのもあり見に行った。

勝手に登場人物やそれをとりまく環境、時代背景etcを
簡単に理解した辺りで事件が起こり、
謎を紐解いてって解決するという流れだと思っていたけれど
本当に最初から謎。世界観を理解する時間を与えられずに事件が起きた。
というよりも徐々に、情報を小出しにされていって
自分たちでパズルのピースはめてねって感じ。
しかも一番驚いたのは半分以上が裁判所のシーン。
謎を解くとかじゃない、現実と一緒で誰も真実を知らない。
ある意味映画っぽくない、いい意味で作り物感が薄い作品だなと思った。


興味深かった場面

妻はドイツ出身、旦那はフランス出身という
主要言語が異なる国の生まれ。
当初はイギリスのロンドン、英語圏で暮らしていたが
旦那さん側の希望によりフランスに移住したという背景。
殺人の容疑がかけられた妻は
検察官や裁判長からの質疑に応えようとするが
フランス語があまり得意ではなく、自分の思ったことをうまく伝えられない
その葛藤は、経験することがないだろう感情だなと思った。
また、弁護人ではなく被告人の口から直接発言することが原則というのも、
この葛藤をより際立たせているのではと推測。
とはいえ、一応通訳的な人もいたので終盤のほうでは被告人から
「英語で話しても?」と許可を仰いだ上で証言していた。


旦那が亡くなる前日に、大喧嘩をしていたことが明らかになり
法廷でその録音と書き起こしが公開された。
今までは比較的、裁判員も傍聴人も
妻側に同情していたように見えたが一変。
見ている私も、妻がやったのでは…?と思うような
荒々しい怒号やガラス製の何かが割れるような音が聞こえた。
作品を見ている側では映像が切り替わり
その喧嘩の一部始終を"見る"ことができた。
誰がどこでどんな様子でどのように話しているか。
目から得る情報というものはこんなにも多いのかと実感した。
が、実際の作品の中ではそのすべてが録音、
また文字の書き起こしによるものである為、
感じ方も違うだろうなと思った。
書き起こした文字をきちんと見れるほどの描写はなかったが
おそらく「フランス語」で書かれており
その録音での夫婦の会話は「英語」だったと思われる。
書き起こしに悪意がないとは言い切れないのが
この証拠のミソであると考える。

ホッとした場面

今回、妻の弁護を担当したのは、昔からの友人の男性。
現場検証もかねて、夫婦が暮らしていたコテージを訪ね
いろいろな話を聞いていく。
この時点で私は、"ただの友人"ではないだろうと踏んでいた。
話が進むにつれ彼は過去、彼女に対して好意を持っていたことを伝える。
それも火を囲み、お酒を飲みながら、
今後の弁護展開を話している最中にだ。

やっぱりね~~~~!!!!!


私が一番嫌いなタイプの男である。
・旦那を亡くして間もない
・その上自分に容疑をかけられている
そんな時にそんな事言う奴、信用なりません。
弁護士という立場を利用した心の搾取です(言い過ぎ)
仕事としての信頼を男性としての頼りがいに変換できそうな
そのワンチャン感がとても気持ち悪い()
が、彼女もおそらく彼の魂胆というかそういう
完全なる弁護士、友人としての対応ではないことを
気づいているからこそ、適度な距離を保っていたように思う。

そして、おそらく目が不自由な息子の証言が
最後の一押しとなり、裁判に勝って無事無罪になる。
その帰り弁護側の人たちと無罪を祝って夜ご飯を食べに行く。
途中で喫煙するため女性2人が席を外し、
彼と彼女の2人きりになる。
彼女は

無罪になったらもっと何か見返りがあるものだと思った。
でも実際は何もなく終わるだけなのね

的なニュアンスの言葉をこぼす。
彼女は初めて彼の肩にもたれるという形で
ほんのわずかの好意を見せる。
少し経ってから起き上がりお互いに見つめあう。
そこで大声を上げ始めた私の心。

あ~だめだこれキスしそう、やだやだ!!
絶対やめて!!!!


彼が彼女の頬を優しく手で撫でる。
(ヤメテー!!ソノジカン イヤー!!)
そのあと彼女も応えるように彼の頬を包むように撫でる。
(アーッ ダメダ コッチモソノキッポイ)

が、しかし!!!


彼女はそのまま手を離した。
心の私はスタンディングオベーションです。
そう、そう。もし好きだったとしても。
好意を持ち始めていたとしても。
それを確認し、明確にし、安堵を手に入れるのは
今この瞬間ではないのです。
ここの描写がとにかく自分の中で
ホッとしながらも強く印象に残った場面でした。


最後に

とにかくこれは言葉では魅力を伝えにくい作品で
百聞は一見に如かず。見てくれとしかいいようがない。
個人的にはとても考えさせられる、好きな映画になった。
が、普段あまり映画を見ない人や、
作品としてはっきりとしたオチが欲しい人は、
煮え切らない感じがモヤモヤして物足りなくなるかもしれない。
ので一概にめちゃくちゃおすすめ!とはいい難いけれど
そういう作品に触れてみたいというのであれば
とても素敵な作品だと思う。

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