1ccから100Aを生む!革新的な物質を発見 【29】
MRIやリニアモーターカーなど、まだ少し特別感のある超伝導の技術。
それがもっともっと利用されるようになるかも⁉
そんな将来への期待高まる、名古屋大学と明治大学の成果です!
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突然ですが、「ゼーベック効果」という言葉をご存知ですか?
ゼーベック効果は、金属や半導体などの物質の両端に温度差をつけると、温度差に比例した電圧が発生するという興味深い現象です。では、なぜそうなるのか説明しましょう。
物質中には、電子と呼ばれる負の電荷を運ぶ多数の粒子が存在します。それらは温度が高いほど大きな熱速度と運動エネルギーを持つため、物質の両端に温度差があると、より大きな熱速度を持つ高温側の電子の方が低温側に多く移動します。その結果、電子の密度が両端で偏り、電圧が発生するという仕組みです。
この効果を利用すれば、工場などから排出されてしまった熱エネルギーを使って発電することができます。持続可能な開発目標の達成に向けて、世界中でより大きな電流を生み出す物質の探索が行われています。
では、より大きな電流を生み出すにはどのような物質が適しているでしょうか。
まず、ゼーベック効果が大きい物質ほど大きな電圧を作り出せます。そして、その物質の電気抵抗が小さければ小さいほど、大きな電流が発生します。ただ、この二つの要素を両立するのは困難と考えられてきました。
ところが今回、そのような物質が見つかりました。
遷移金属カルコゲナイトと呼ばれる物質の単結晶です。「単結晶」とは、原子や分子が全て同じ向きを向いている結晶のことです。研究グループが発見したその物質は、−260℃の低温状態で金属並に電気抵抗が低いにもかかわらず、金属の数十倍もの電圧を生み出します。先ほどお話しした、温度差で移動する負の電荷を運ぶ電子と、正の電荷を運ぶ粒子であるホールを併せ持つ「半金属状態」になっていることが要因だそうです。
この物質を利用すると、体積1ccの物質の両端にわずか1Kの温度差をつけるだけで、100Aもの電流を生み出せます。一般家庭のコンセントで流せる電流は15Aなので、かなりパワフルな電流源になりますね。
これをうまく応用すれば、大きな電流源が不可欠な超伝導磁石を小型化できます。医療や工学、基礎科学などの幅広い分野での活用が期待できるそうです。
研究を行った中埜彰俊助教からのコメントです。
「半金属物質は、これまでの熱電材料研究では深堀りされてこなかった物質群です。ゆえに、私たちの想像をはるかに超える機能性が隠れている可能性がある点は魅力的で、今後も物質探索を続けていきたいと考えています。」
詳しくは、2021年9月28日発表の名古屋大学研究プレスリリースもご覧ください。
画像提供:中埜彰俊助教
制作協力:小川詩織(理学部4年)
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