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79. 土壌の養分キープ力、カギは「落ち根」? それとも…?

こんにちは。経済学研究科修士2年の堀内愛歩です。

最近はだんだんと寒くなり、秋も深まってきましたね。秋といえば紅葉が挙げられますが、色づいた葉っぱは枯れて落ち葉となり、土の中にいる微生物たちに分解され、植物の養分になります。実は葉っぱだけでなく、根っこも枯れた後は落ち根と呼ばれ土に還ります。

今回は、普段見えない落ち根の研究を紹介します。

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落ち根は土を肥やす?

落ち葉や落ち根などが土壌に還ると、それを微生物たちが分解して、土壌有機物が生まれます。これらは、マイナスの電気を帯びているので、カルシウムイオンのようなプラスの電気を持つ養分を保つ機能を持っています。この「土の中に養分を蓄える力」を、「陽イオン交換容量(ここでは、英語名のCation Exchange Capacity の頭文字を取り ”CEC” とします)」といい、土壌有機物が多ければCECが高いことが多く、そのような土はたくさんの養分を蓄えることができます。

今回のテーマである落ち根は、落ち葉に比べて分解されにくく、土壌有機物のもとになると考えられています。ところがやせた土壌のスギ林では、スギは少ない養分を採ろうとがんばるのか、細根と呼ばれる細かい根の量を増やす一方、落ち根(=土の有機物の量)は増えず、CECも高まらないことがこれまでの研究でわかっています。

落ち根が増えても、CECが高まらない…なぜ?

名古屋大学生命農学研究科・環境学研究科の研究グループは、落ち根が増えてもCECが高まらない謎の解明に挑みました。サンプルは、スギ林の痩せた土と肥沃な土です。それぞれから、2種類の有機物①最近、土に入った有機物、②土に長く留まっている有機物を取り出しました。

土壌有機物サンプルは全部で4パターン

ちなみに、①は分解が比較的進んでいない、つまり、元の植物体に近い状態の有機物です。一方②は、分解が進んで鉱物と親和している、つまり鉱物と仲良くなった有機物です。一般的に、落ち葉や落ち根は微生物にある程度分解してもらって、形を変えることで鉱物にくっつきやすくなります。鉱物と仲良くなった有機物は分解されにくくなり、土に長く留まれます。

土壌有機物×核磁気共鳴かくじききょうめい分析

研究グループは、上の4パターンの土壌有機物に対し、核磁気共鳴分析を行いました。核磁気共鳴分析、というと難しく聞こえるかもしれませんが、MRIと言われれば聞いたことがあるのではないでしょうか。MRIは磁場を使って信号を画像化する医療診断装置で、核磁気共鳴を利用しています。
 
今回グループが行った核磁気共鳴分析では、それぞれの有機物が持つ官能基がわかります。有機物の中の官能基がわかると、その有機物の分解がどの程度進んでいるのか、CECを発揮する官能基は居るのかなど、その有機物がどのような特徴を持っているかがわかるのです。

分析で見えた2つの事実

  1. 「土に長く留まっている有機物」では、カルボキシ基(酸性でマイナスの電気を帯びた親水性の官能基)が多いほどCECが高かった。

  2. 「土に長く留まっている有機物」の量は、痩せた土と肥沃な土で同じだった。落ち根が増えて、土壌有機物全体の量が増えても、「土に長く留まっている有機物」の量が変わらなければ、CECは高くならなかった。

これらから、やせて酸性化した土壌では、リグニンなどを分解する微生物の働きが活発になることや、有機物と鉱物がくっつきにくくなることで、土壌有機物の分解が進むのではないか、と考えられます。ちなみに、細根は葉よりリグニンを多く含むために、分解しにくいことがわかっています。
 
たくさんの発見をまとめます。まず、土壌有機物の中でも「土に長く留まっている有機物」が増えると、土のCECは高くなります。つまり、落ち根が多い森林では、土壌有機物が多くCECが高くなるはずです。しかし、土壌生態系も一緒に動いてしまい、CECを高める有機物がそれほど増えなかったのです。それはそれで、森林だけを見ると損なようですが、森林をとりまく環境を俯瞰すれば、森林―河川―海の養分の流れを変化させないために必要なのかもしれません。

研究を行った谷川東子たにかわとうこ准教授に伺いました


──  成果の一番のポイントは? 

私たちの調査地では、”土壌有機物が増えているのに土壌の機能が変わらない”ということは、樹木にとっては炭素の無駄遣いのようにも見えます。しかし、生態系の営みの中で、物質の流れを司るような重要な機能が上がったり下がったりしないということが、森林生態系の持つ“動的平行を維持する神秘の力”なのではないでしょうか?それを垣間見られたことが、一番の成果だと思います。
 
── 研究の面白さ、苦労を教えてください。

一連の研究は、植物が土壌を変え、土壌が植物に影響を与えるという相互作用を、圃場ではなく実際の森林を相手に、複数の森林を比較することで描いてきています。そこが、面白く苦労の多いところだと思います。統一した条件がなかなか整わない実際の森林では、偶然出てくる荒れた数値に悩まされるため、試料の数は多く必要です。このために多くの森林に行き、共同研究者や学生さんとともに、体にへばりつくのは雨なのか汗なのか泥なのか、もうわからないものにまみれ、羽虫の飛び交う中で作業しています。室内に戻った後も、耐久型のスポーツのように分析する必要があります。

今回、当研究室の林君はじめ多くのチームメイトが、丁寧な調査と分析を数多くこなし、異質性の高い土壌を材料に、綺麗な結果を出してくれたと思っています。
 
── 「分解が進んでプラスの電気を持つ養分と結びつき土に長く留まっている有機物」は、どのようにすると増えますか?

「分解が進んで土に長く留まっている有機物」と「比較的若い有機物」を分けたことで、前者、つまり、よくかもされた土壌有機物は機能が高いことがわかりました。土壌は、時間をかけて醸されないと効力が低いのであれば、変化する世界の中で、大事に守られるべきものなのだということをお伝えしたいです。

技術的には、鉱物と仲良くなることで有機物は土壌における寿命(滞留時間)を延ばしますので、鉱物と植物(土壌有機物の素)の仲良しのセット(相性のいい組み合わせ)を考えることも、一助になるかもしれません。
 
── 痩せた土が時間とともにますます痩せて酸性になる現象は「正のフィードバック現象」というそうですが、「負のフィードバック現象」も、植物の研究の中で見られますか?

はい、多くの生態系で、負のフィードバック現象は見られます。正のフィードバックは状態変化をますます促進することですが、負のフィードバックは、状態変化を打ち消す作用です。その作用が、穏やかな生態系の維持に関わっていると考えられます。そうした穏やかな森林生態系の活動は、地球を廻る水を浄化する、養分の流れをコントロールして海の豊かさを守るといった、数限りない生態系サービスを通して、私たちの穏やかな生活を下支えしてくれていると思います。 

おわりに

今回、この研究を取り上げて、初めて「落ち根」という言葉を知りました。植物と土の関係や、専門的な分析方法など、知らないことを知ることができ興味が増しました。最近、持続可能な社会のためにバイオマスの利用が推進されていたり、将来の食糧危機が懸念されていますよね。今回の研究成果が、土を元気にしながら持続的に森林を管理していくことに役立って、さまざまな問題解決に貢献してくれることを期待したいです。
 
この研究について詳しくは、2022年10月25日発表のプレスリリースもご覧ください。

(文:堀内愛歩/トップ画像:Photo-pot

関連リンク

◯谷川東子准教授(大学院生命農学研究科/植物土壌システム研究室
名古屋大学研究者総覧
研究室HP内のプロフィール
◯共同研究者
平野恭弘准教授 (大学院環境学研究科/地球環境システム学講座


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