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64. “見る”ことのできない宇宙の始まり。重力波でその証拠をつかめ!

これは宇宙誕生直後のお話。

10のマイナス34乗秒の間に、宇宙は数十桁も膨張したと考えられています。これをインフレーションと呼びます。まさに瞬きも追いつかないほどの瞬間的な出来事でした。その後、超高温・超高密度の”火の玉”宇宙となり、やがて今の宇宙へと姿を変えていきました。

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インフレーションを始めとした初期宇宙の姿は、理論やいくつかの観測情報をもとにその存在が強く示唆されるようになってきました。一方で、これが正しいとする決定的な証拠はまだ得られていません。

その理由の一つが、観測の難しさにあります。宇宙観測にはよく光(電磁波)が使われます。しかし、初期宇宙はエネルギーが非常に高く、電子や原子核が飛び回っており、光がまっすぐ進むのもままならない状態でした。やっと宇宙が落ち着いて、光が進みやすくなったのが宇宙誕生約38万年後。これより前の様子を直接知るためには、光以外の観測方法が必要です。

そこで誕生するのが重力波の存在。重力波は、たとえば2つのブラックホールが合体するといったような、質量が大きい物体が大きく加速する際に発せられます。時空が歪み、その歪みが波のように高速で伝わっていきます。インフレーションが起こっていたとすると、初期宇宙の劇的な膨張の際、この重力波が出ていたのではないか、と考えられています。重力波は飛び回る電子や原子核にも邪魔されずに進むことができます。そのため、初期宇宙に発生した原始重力波を捉えることができれば、インフレーションの存在を確かめることができるのです。

重い物体が大きく加速、というと、きっと巨大な変化で、わかりやすい信号として重力波を受信できるのでは、と思う方もいるかもしれません。しかし実際、この観測自体とても難しいものでした。2015年、アメリカの重力波検出器LIGOらいご(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)が重力波の初観測を成し遂げました。地球から13億光年離れた場所で起きた2つのブラックホールの衝突により発せられた重力波です。このときの時空の歪みはとても小さく、地球と太陽の間の距離においてわずか水素原子一個分です。ちなみに、この成果は2017年ノーベル物理学賞の受賞につながりました。

現在、新たな重力波検出装置に関する研究を行っているのが、名古屋大学大学院理学研究科の川村静児かわむらせいじ教授率いる研究室です。

川村静児教授

川村先生はLIGOの開発チームにも以前在籍していたことがあり、装置の感度を飛躍的に高めた「ノイズハンター」として大きな功績を残しました。とても小さな時空の歪みを検出する重力波検出器。これを改良するため、地面の振動や電子信号の不具合など、わずかなノイズをいかにして取り除くか、試行錯誤の連続です。こうしたノイズを取り除くスキルを活かし、日本国内においても大型低温重力波観測装置KAGRAかぐら(Kamioka Gravitational wave detector, Large-scale Cryogenic Gravitational wave Telescope)の開発などにも関わってきました。

こちらの研究室が現在力を入れている計画が原始重力波の検出を主目的とするDECIGOでぃさいご(DECi-hertz Interferometer Gravitational wave Observatory)の開発です。なんと、装置全体を宇宙空間に浮かせてしまおう、という計画です。これにより、地上では常に悩まされる地球活動による振動を除去することができ、さらには装置を巨大化することもできます。

将来この装置が開発され、実運用に成功すれば、原始重力波の検出により、宇宙誕生の謎に迫ることができる日もそう遠くないのかもしれません。

(文:綾塚達郎)

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