ヨルダン遺跡調査チーム、石器の声を聴いてみたら…
700万年の人類の歴史で、何種類もの人類が現れ、消え、現れ、消え、、、私たちホモ・サピエンスだけが残りました。
なぜ私たちだけが残ったか議論される中、2022年のノーベル生理学医学賞の「古代DNA解析」は大きな話題になりました。化石中のDNA分析を可能にした技術で、絶滅した人類の遺伝情報が現代人に残ることをひもときました。
「ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が交雑していたことはすごい発見です。でもなぜ交雑までしていたのにホモ・サピエンスだけ生き延びたのかは、逆に謎が深まっているんです。」
そう話すのは、門脇誠二さん。遺跡発掘を通じ、人類進化を読み解こうとしています。
「古代DNA解析は、交替劇があったことは示しても、その現場で何が起こったかまでは教えてくれない。これを明らかにできるのは、遺跡発掘でわかる歴史なんです。」
門脇さんの研究グループが着目するのは、中近東ヨルダンの旧石器時代(7~3万年前)の遺跡群です。
「なぜ中近東かって、アフリカで進化したホモ・サピエンスと、ヨーロッパで進化したネアンデルタール人が交雑した第一候補の地なんですよ。」
中近東でも地中海に近い地域は、気候もよく食べ物も豊富。ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が同時期に同じような環境で存在した世界でも珍しい場所で、遺跡もたくさんあります。
「ヨルダンでは、2016年の調査開始から、多くの石器を発掘してきました。実は、ホモ・サピエンスもネアンデルタール人も似たような石器をつくっていたんですよ。」
でも、上部旧石器時代前期(4~3万年前)頃、ホモ・サピエンスが定着するにつれ、小型の石器が増えていきます。しかも小型石器には、キメ細かくてツルツルの石(チャート)を使うことが多いことも、グループの調査でわかっています。
「じゃあなんでツルツルの石を小型石器に使うかっていうと…。ツルツルの石材の方が割りやすくて石器を作りやすいって、肌感覚はあるんです。でもそれって印象に過ぎなくて、科学的ではないんですよね…」
そう投げかけるのは、地質学・材料工学の視点で石器に向き合う須賀永帰さん(環境学研究科 博士後期課程)。石材の硬さを測定し、割れやすさ(=石器の作りやすさ)の数値化に挑みました。
「原石は重くて持ち帰れないので、シュミットハンマーを使いました。発掘したその場で測れる便利モノです!」
まるで一つ一つの原石に尋ねまわるような根気強い手法で、須賀さんは数多くのサンプルを測定し、石材の割れやすさの「肌感覚」を数値化することに成功。ホモ・サピエンスは、つくる石器の種類によって石材を使い分けていたとする研究を発表しました。
ここで重要なのは、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の単純比較でなく、石器技術に対する行動とひも付けて考えること、と門脇さんは言います。
「小型石器を使いこなすって簡単ではありません。幾つもの小型石器を柄につけ、その組み合わせ方によって多様で複雑な道具が作られたと考えられています。そうした知識や技術は社会ネットワークの発達とともに普及して、改善されていったと思うんですね。でもそのネットワークに、ネアンデルタール人は入っていないんですよ…。」
当時の人類のこういった技術行動がいつ変化しどのように広がったかというプロセスを詳しく調べることが、ホモ・サピエンスだけが生き延びた謎を解明する一つの要素になるかもしれません。
「人類は多様性に富んでいたのに、今はホモ・サピエンスだけ。人類史でもかなりの極限状態です。ダイバーシティやインクルージョンといった概念を意識し始めている今、人類にとって根本的に何が大切か、という点を考える科学的根拠を人類進化史から提供できたらいいなと思います。」
祖先たちへの興味はつきませんね。続きはぜひ名古屋大学博物館へ↓😉
インタビュー・文:
丸山恵、飯田綱規(名古屋大学サイエンスコミュニケーター)
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◯関連リンク
プレスリリース(2023/11/10 )「旧石器時代の人類は石器の材料を使い分けていた?~石材の硬さから加工しやすさを評価~」
英文プレスリリース(2023/11/30)”Paleolithic humans may have understood the properties of rocks for making stone tools”(EurekAlert!)
論文(2023/11/8)Spring Nature社の科学誌「Journal of Paleolithic Archaeology」に掲載
門脇誠二研究室(名古屋大学大学院 環境学研究科)