「自閉スペクトラム傾向と白黒思考」に学ぶ、誰もが生きやすい社会へのヒント
自閉スペクトラム傾向の強い人は、ある心理状態を介して、ものごとを白か黒か二分的に捉える傾向がある──。以前からの仮説が、最近の認知心理学の研究で実証されました。
「自閉スペクトラムの傾向があるのは、自閉スペクトラム症の診断を受けている方だけじゃないんです。『スペクトラム』なので、診断を受けていない方も多かれ少なかれ自閉の傾向を持っていることもあるんですよ。」
そう話すのは、研究を行った平井真洋さん(情報学研究科 准教授)。人の社会性の広がりを理解する研究の一端として、自閉スペクトラム症がある方の社会性に着目しています。
自閉スペクトラム傾向の強い人が白黒思考に至る背景に、どんな心理プロセスがあるのか、詳しくお話を聞きました。
<インタビュー概要>
── 自閉スペクトラム症が「特別ではない」とは?
自閉スペクトラム症は、診断基準に基づいて医師が診断します。
診断では「自閉スペクトラム症か、そうではないか」という捉え方をしますが、自閉スペクトラムの傾向としては、「その傾向が強いか、弱いか」という捉え方をします。つまり、診断がなくてもその傾向を持っている方はおられます。
── なぜ白黒思考との関連を調べたのですか?
自閉スペクトラム症の方は二分的思考に至りやすいとか、その心理背景に不安があるとか、さまざまな研究で報告されていて、それらピースをつなげた自閉スペクトラム症の不安に関する理論モデルが提唱されているんですね。
でもまだ完全に実証されていないんですよ。そこで今回、「自閉スペクトラム傾向のある方が、不確実さ不耐性を介して二分的思考に至る」という仮説にアプローチして、それを実証しました。
── なるほど、モヤっとした状況に耐えられなくて白黒思考に至る、という仮説ですね。どのようにして調べたのですか?
非臨床群の大学生・一般成人(自閉スペクトラム症がある方ではないと想定される方)の20〜22歳の男女に、アンケートに答えてもらいました。その回答から、自閉スペクトラム指数、不確実な状況への耐えにくさ、二分法的思考尺度を一人ひとり評価して、それぞれの関係性を解析しました。
── 二分的思考って、時と場合によって必要なときも、はっきりしない方がいいときもありますよね。この結果を平井さんはどう捉えていますか?
「良いか悪いか」って捉えると価値判断が入ってきますよね。しかも、ある行動が良いか悪いかは、時代背景やコンテクストでも変わりますし。研究者としては、ある状況に適応するための結果として二分的思考に至る、という「事実」として捉えています。
── 今回のように、提唱された理論モデルを検証することは、社会にとってどんなメリットがありますか?
自閉スペクトラム症がある方と定型発達者(多数派)の相互理解が進むといいな、と思います。自閉スペクトラム症がある方に「どういった知覚や感覚特性があるか」科学的に評価することで、その背後に「どんな心理プロセスや神経メカニズム」があるのか、明らかにできます。そうすると、定型発達者には理解できない行動も、自閉スペクトラム症がある方にとっては不安を和らげる適応的な行動だと理解できるかもしれません。その結果、表面的なアプローチではなく、心理プロセスや神経メカニズムに直接介入するような、より深いところで支援できる可能性はあるかな、と。そのためにも、もっと詳しいモデルを作って、理解していく必要があると思います。
── 自閉スペクトラム症の方だけでなく、誰もが生きやすい社会について考えさせられます。
介護されている方も、僕のように子育て中の人も、万人が相互理解ができて、うまく援助できるような社会になればいいと思います。いろんな事情を抱え、生きづらさを感じている人も多いですよね…この社会はマジョリティーが生活しやすいようにデザインされているから。コスト面を考えると難しいことですが、今、テクノロジーでハードルが徐々に下がってきています。例えばテーラーメイド教育も可能になりつつありますよね。個々の事情にフィットする環境をデザインできるとすごくいいのかなって思います。だいぶ先の将来像ですけどね。
── 外見からは分かりにくい特性への理解が進むことで、多数派・少数派間でのかかわり方が少しずつでも変わっていけば…と感じました。「人間をとらえる認識が変わる」のは、基礎研究ならではの強みですね。研究の詳細から今みんなで考えたい大切なことまで、お話をありがとうございました。
インタビュー・文:
丸山恵、飯田綱規(名古屋大学サイエンスコミュニケーター)
◯関連リンク
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?