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がん治療の副作用が、アミノ酸でやわらぐかもしれない 【21】

今回は、がん治療の副作用に関する研究をご紹介します。

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今、日本でどのくらいの方ががんで亡くなっているか、ご存知ですか? なんと、約3人に1人といわれていて、がん治療やその副作用は今ホットな研究分野です。

治療効果の高い放射線治療として注目される「重粒子線じゅうりゅうしせん治療」は、がん細胞にねらいを定めて治療でき、特に鼻や口の内側にできる頭頸部とうけいぶがんの治療に効果的といわれています。

その一方で、唾液が出にくくなるなど、日常生活に支障をきたす副作用がでることもあるそうです。重粒子線治療は、従来の放射線治療より副作用は少ないとはいえ、がんではない正常な細胞にも放射線があたってしまうのです。副作用を抑えるために放射線量を制限すれば、十分な治療効果が得られません。

重粒子線治療の副作用を軽くする薬が求められる中、アミノ酸に効果があることが知られていました。マウスに「D体メチオニン」というアミノ酸を飲ませると、重粒子線で唾液が減る副作用が抑えられるのです。

そのメカニズムについて、2020年、名古屋大学などの共同研究グループは、DNA電気泳動法という方法で明らかにしました。具体的にはどのようなメカニズムでしょうか。

放射線治療を受けると、体内で活性酸素の一種の「ヒドロキシラジカル」が発生します。ヒドロキシラジカルは、正常な細胞のDNAを傷つけます。唾液を出す細胞のDNAが傷つくと、唾液は出にくくなります。

D体メチオニンは、この有害なヒドロキシラジカルを消去することで、DNAが傷つくのを抑えていたのです。そして今回、「システイン」と「トリプトファン」というアミノ酸も、同じように作用することを発表しました。

では、「アミノ酸を飲めば重粒子線治療の副作用が抑えられるのか」というと、それはまだわかりません。ヒトで効果があるかどうかを調べる臨床研究に進むには、このあとに細胞での研究、さらにマウスでの研究、と長い道のりが待っています。ただ、その最初の一步が踏み出されているということです。

研究を行なった余語克紀よごかつのり助教からのコメントです。

「頭頸部がんの放射線治療は、抗がん剤と併用することもあり、特に辛い副作用を伴うことがあります。薬で副作用を完全になくすことは不可能かもしれませんが、今回DNAレベルで効果を確かめたアミノ酸はサプリメントにもなっており、薬の開発の一番の問題点である副作用が少ないと予想されます。サプリメントの服用で、患者さんの辛い症状を少しでも緩和できたらという思いで研究をしています。」

研究が進んで実用化した場合、身近なアミノ酸なら、患者さんもそれほど抵抗なく服用できそうです。

詳しくは、2021/07/05発表の名古屋大学 研究プレスリリースもご覧ください!

制作協力:遠山祥史とおやまよしふみ(名古屋大学大学院 理学研究科 修士1年)

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◯ 関連リンク

2020/4/16発表の成果「がん放射線治療の副作用低減に向け前進〜D体メチオニンの重粒子線誘発DNA損傷の保護効果〜」


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