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素粒子宇宙円卓会議#3 |「本当の」重力理論を目指して

KMI素粒子宇宙起源研究所の研究者と、KMIサイエンスコミュニケーションチームと名大研究フロントラインメンバーが台本なしに交流し、どのような相互作用が生まれるのか」という切り口で、KMI研究者をゲストに迎え、素粒子宇宙対話をポッドキャスト配信する本企画。

3回目となった今回は、野尻伸一のじりしんいちさん(KMI 教授)をお招きし、お話を伺いました。

野尻さんの研究テーマは、修正重力理論。現存のアインシュタインの重力理論ではうまく説明できていない問題を解決するため、アインシュタインの重力理論からのずれを調べます。そして、その裏に隠された「本当の」重力理論の手がかりを得ようと、研究していらっしゃいます。こうして宇宙の膨張や歴史の解明に取り組む野尻さんが、研究者生活を赤裸々に語ってくださいました。お楽しみください。

修正重力理論について、ページ下部にコラムをご用意しております。ぜひこちらも読みながら、ポッドキャストを聞いてみてください。

01:44 研究内容
07:00 野尻さんの研究変遷
10:08 他分野からみた重力理論
12:50 高次元の考え方
16:19 研究における式の見方
19:49 たくさんの重力理論モデルの捉え方
21:45 研究者の道に進むことについて
24:05 研究テーマに物理を選んだきっかけ
25:40 野尻さんのリアルな研究者ライフ
30:47 修正重力理論研究の現状
36:38 大学院進学を考えるみなさまにメッセージ

~ コラム ~
「重力」はこの宇宙を支配している最も重要な力の1つであり、私達も日々感じている最も身近な力でもあります。古代ギリシャの頃から扱われているテーマであり、17世紀ニュートンが生み出した「ニュートン重力」と、20世紀アインシュタインが生み出した「一般相対性理論」の2つが重力を記述する理論として現在よく知られています。しかし、この重力には依然としてまだよく分かっていない未解決問題も存在します。

◯ 暗黒エネルギー(ダークエネルギー)
いくつかの観測から、現在の宇宙は加速膨張していることが分かっています。しかし、このためには宇宙全体に「負の圧力」をもった物質が満ちている必要があります。このような物質を現在の物理学では説明できないので、暗黒エネルギーと呼んでいます。この暗黒エネルギーの起源は未だ謎に包まれています。

◯ 量子重力(重力の量子論)
特に難しい問いが「(原子より小さい)ミクロな世界における重力はどのようなものか」というものです。現在の物理学における“オーソドックス”な考え方では、ミクロな世界(原子より小さいサイズ)では、物質を構成する粒子と力は量子論に従い、場の量子論で記述されます。実際、この宇宙にある4つの基本的な力(電磁気力・強い力・弱い力・重力)のうち重力を除く3つは場の量子論でよく記述できることが実験的にも確かめられています。しかし重力に関しては、一般相対性理論と場の量子論を組み合わせると計算がうまくいかないことが知られています。よってもし重力が量子論に従うならば、それは一般相対性理論+場の量子論ではない未知の理論(量子重力理論)で記述されるということになります。この量子重力理論の1つの有名な候補が超弦理論です。
etc…
そこで考えられているものが修正重力理論です。これは、一般相対性理論を何らかの形で拡張することで、重力場の効果として暗黒エネルギー・暗黒物質などの問題を説明する他、量子重力理論のヒントを得ようという試みです。その拡張方法は数多く考えられていて、それに応じて多くのモデルが研究されています。

同時に観測・実験による検証も進められており、重力波観測・宇宙背景放射(CMB)観測・(中性子崩壊現象など)素粒子実験等多くの観点から、この修正重力の証拠が探られています。この証拠が確認されれば、アインシュタインの一般相対性理論によってこの宇宙に対する理解が飛躍的に深まったように、修正重力理論によってより広く深い理解を得ることができることが期待されます。

監修: 野尻伸一/執筆: 沼尻光太

◯関連リンク
KMISCTウェブサイト
KMISCT twitter
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