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58. ホモ・サピエンスは巧みな狩りで生き延びた

こんにちは、経済学研究科修士1年の越川光です。
今回は環境の変化が激しい氷河期の終わり頃の2万4000年〜1万5000年前の西アジアの環境で、ホモ・サピエンスがどのような狩猟活動を行っていたのかを明らかにした研究をご紹介します。

ポッドキャストでは、越川が経済を学ぶ視点からお話します。今回の研究を取り上げたのは、「食品ロス」への関心がきっかけだったとか!

地球で唯一の人類として生き残ったホモ・サピエンス。彼らは厳しい環境変化の中で、どのように生活していたのでしょうか。ホモ・サピエンスが狩猟していた動物の種類・年齢・骨や歯などのエナメル質を調べることで、当時の生活環境まで理解することができます。

そこで、ホモ・サピエンス拡散の出発点・中東ヨルダンで発掘調査を行う名古屋大学の研究チームは、数ある遺跡の一つトールハマル遺跡を発掘調査。氷河期終わり頃の地層から動物の骨や歯などの化石を発見し、詳しい解析を行いました。その結果、動物資源が枯渇しつつあったこと、その中でホモ・サピエンスは遠方まで狩りに行くことで巧みに生き残っていたことがわかりました。

まず、地層から発見された骨や歯などの化石は、多くがガゼル(小型有蹄類)だったそうです。その割合は全体の60%以上とのこと。次にヤギやアイベックスが多く、ウサギ、カメ、トリなどの小型動物は5%ほどでした。ガゼルは生後18ヶ月よりも若く、他の遺跡から出土する動物の化石と比較しても若いガゼルを狩猟しているのがわかりました。つまり、動物資源が枯渇しつつあったといえるそうです。

また、ガゼルの骨や歯の炭素と酸素の安定同位体の分析では、ホモ・サピエンスが暑く乾燥した地域のガゼルを狩猟しつつも、時に遠方のやや涼しく湿潤な地域のガゼルも狩猟していたこともわかりました。というのも、熱帯〜亜熱帯の乾燥地域の植物は、炭素と酸素の安定同位体比が高く、そこで生活する草食動物の骨や歯にも反映されます。出土した草食動物のガゼルの化石は、炭素と酸素の安定同位体は全体としては高いものの、バラつきもかなりあり、広範囲で狩りをしていた可能性が見えてきたそうです。

つまり、ホモ・サピエンスの祖先集団は継続的に狩猟を行い、気候変動にも対応していたということです。このことが当時の人口増加につながったと考えられる、と研究では結論づけています。

研究を行なった内藤裕一ないとうゆういち研究員(責任著者)からコメントをいただきました。

本研究では、乾燥地帯という生物遺骸の保存状態が悪い地域で、その遺骸の様々な分析によって、旧石器時代という古い時代の人の狩猟活動を復元した点に意義があります。このような試料を分析対象とする場合、1つのアプローチで何かを解明することは難しく、必然的にいろいろな分野の研究者と協力して仕事を進める必要があります。研究組織の規模が大きくなると円滑な研究の推進が難しくなりますが、得られる成果もユニークなものになる可能性がある点が醍醐味と考えています。

経済学を専攻している自分にとっても、人々の食事や文化はとても大切な要素で、関心ごとでもあります。この研究を通して、当時の人々がどのように生活し、気候変動に対応しながら人口を増やしていったのかを垣間見ることができました。今後の研究の進展に期待していきたいですね。

詳しくは4月6日発表のプレスリリースもご覧ください。

(トップ画像提供:門脇誠二教授/文:越川光、丸山恵)

○関連リンク
内藤裕一研究員(責任著者)
門脇誠二教授(名古屋大学博物館/環境学研究科)
名古屋大学博物館

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