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65. 巨大翼竜は空を飛べなかった!? 力学計算から見えてきた新事実

第66回目の今回は、絶滅した翼竜や鳥類の飛行方法を、力学計算で調べた研究を紹介します。理学研究科修士2年、成瀬美玖なるせみくです。

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絶滅動物の飛行方法が計算でわかる!?

古生物図鑑や古生物が主役の映画に登場する、翼を広げた状態で10 mにもなるような巨大な翼竜や鳥類。これら絶滅した鳥類や翼竜は、実際にはどのように飛んでいたのでしょうか?

例えば大型鳥類のコンドルは、羽ばたいて飛行するのではなく、風や気流を使用した滑空(ソアリング)をしながら飛行を行います。絶滅した大型鳥類も同様にソアリング飛行していたと考えられています。実は力学計算を使うと、それらの動物がどのように飛行していたかを見積もることができるそうです。

名古屋大学大学院環境学研究科の後藤佑介ごとうゆうすけ特任助教と依田憲よだけん教授らの研究グループは、絶滅した鳥類や翼竜の飛行方法を見出そうとしています。ソアリング飛行の能力や必要な風速についての力学計算で絶滅動物の飛行方法を明らかにし、先日、研究結果を発表しました。

大型翼竜は空を飛べなかった?

成果の中でも特に注目したいのは、翼を広げた状態で約10mにもなる超大型翼竜のケツァルコアトルスという種の飛び方です。

ケツァルコアトルスはこんなサイズ感! ©きのしたちひろ

ケツァルコアトルスは大きな翼を持ちながらも、ソアリング飛行は苦手だったことがわかったそうです!これまでの研究で、ケツァルコアトルスなどの大型翼竜はその巨体から翼を動かす飛行には不向きなものの、高いソアリング能力を持つと考えられてきました。しかし、今回の研究のように、ソアリング飛行の性能と必要な風や上昇気流の強さを力学に基づいて定量化した研究はありませんでした。

私たちが持つ大型翼竜のイメージも変わりますし、図鑑の説明や映画の描写も変わっていきそうですね。

©きのしたちひろ

後藤特任助教に成果のポイントと今後について、お話を伺いました。

「ケツァルコアトルスなどアズダルコ科の大型翼竜は、彼らの骨格や足跡の化石を調べた研究から、陸上生活に適しており屍肉を漁る生活をしたと考えらてきました。一方で、一度飛び立つと着陸せずに大陸を横断できるほどの非常に高いソアリング能力も持つと推測する研究者もいます。つまり、ケツァルコアトルスは陸と空、どちらの移動にも優れた”スーパー翼竜”と考えられてきたのです。

しかし実際には、ケツァルコアトルスが持続的にソアリング飛行をするのに必要な風条件を力学に基づいて定量化した研究はなく、今回の研究から、ケツァルコアトルスは現生鳥類と比べるとソアリング飛行に強い上昇気流を必要とすることがわかりました。

©きのしたちひろ

現代の鳥類でもアフリカオオノガンやジサイチョウなど、翼を持ちながらまれに短距離を飛ぶだけで、陸上で生活をする種がいますが、ケツァルコアトルスもこれらの種に近い生活をしていたのではないかと考えています。もちろん、ケツァルコアトルスの生息地に強い上昇気流が吹いていた可能性も考えられますが、その検証には分野を跨いだ更なる研究が必要でしょう。

今回の研究が、古生物、鳥類学、工学、古気候学など、分野を跨いだ研究者達が、協力して絶滅生物の飛行能力や生態について定量的な議論を進めるための土台になることを期待しています。」

個人的には、翼を持っていたにも関わらず、ほとんど陸上生活をしていたのではないかということにとても驚きました。私も幼い頃から古生物が好きで、恐竜図鑑を見ながら恐竜たちはどんな生活をしていたのか思いを馳せていました。今回の研究で翼竜の暮らしぶりが明らかになることで、彼らに対する興味がより一層増しました。

この研究について詳しくは、2022年5月12日のプレスリリースもご覧ください。

(本文中の画像提供:後藤佑介特任助教/文:成瀬美玖)

◯関連リンク
後藤佑介特任助教(名古屋大学環境学研究科)
依田憲研究室/YODA lab


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