69. 防災リュックに何いれる?
名大東山キャンパスの山手通り沿いにある「減災館」。三角形の4階建てビルの屋上に大きな円盤がのっかったようなユニークな出で立ちで、防災や減災について、見て、触って、全身で学べる施設です(ちなみに減災とは、災害の被害を最小限に抑えるという考え方です)。
防災の日を目前にしたある日、減災館を訪ねると、子どもや大人が集まり、何やらもくもくと書き込んでいる様子。覗かせていただくと…
「防災マンダラチャート」を作っているとのこと。
マンダラチャートといえば、大谷翔平選手が高校生の頃、夢を叶えるために使っていたことでも知られていますね。縦9マス×横9マスの計81マスの表の真ん中に目標を書き、それを達成するための要素を書き出していくことで、日々やるべきことを具体化するものです。
防災マンダラチャートで真ん中に書く目標は「いちにち」。
「被災時にごはんが食べられる、赤ちゃんにミルクをあげられる、笑顔でいられる、という普段の生活を維持することがとても大事なんです。」
そう話すのは、減災館で開催中の特別企画展「パパママ防災展」を企画した蛭川理紗さん。中部電力からの出向研究員として、減災館で「パパママ防災」に精力的に取り組むママ防災士です。蛭川さんは、災害被災地で普段の生活が続けられなくなり困惑する子育て世代を多く見てきました。
「パパやママ達は、自宅の片付けや被災の手続きに追われる中、保育園や学校の被災で子どもの世話やお弁当づくりをしなければなりません。子どもの遊び場がなくなってしまったり、避難所での子どもの振る舞いが周囲に迷惑をかけるなど、ストレスを抱えることもよくあります。支援体制も十分とはいえません。」
災害時に上乗せされる労働や精神的負担が特に大きい子育て世代にとって、「防災」は子どもの健康や教育と同じくらい大切なはず。ところが、毎日忙しいパパやママたちの防災への意識は高いとはいえないのが現状です。浸水のハザード地域に、子育て世代向けの物件が出ていることも少なくありません。
そこで蛭川さんが取り組むのが、子どもから親への防災啓発です。防災教育の親への波及効果をねらうのです。防災マンダラチャートも、その一つの取り組みということですね。「いちにち」という目標を真ん中に置くと、高価で特別な防災グッズを揃える必要はなく、いつも使っているものや食べているものがいかに重要かがよくわかります。小さな子どもにとって、一緒に眠るぬいぐるみも絶対不可欠なのです。
子どもへの防災教育で蛭川さんが重視するのが、遊びの要素です。これまでに、防災かるたやUNO、工作、防災体操に、なんと歌づくりまで取り組んできました。今回のイベントには、防災かるたを蛭川さんと一緒に制作したという鈴木要介さんも親子で参加されていました。
愛知県豊川市の職員で防災士の鈴木さんは、豊川市に2年前にオープンした先進的な防災センターの設計に携わるなど、地域防災の重要な担い手です。名大の受託研究員として研究会等に参加する中で、蛭川さんとパパママ防災に取り組むことになったそうです。
かるたなら誰でもルールを知っていて受け入れられやすい一方、世の中には既にさまざまな防災かるたが出回っています。この防災かるたが他と違うのは、「人は生き物の行動から学ぶことがたくさんある」というコンセプトに基づいていること。写真のように、生き物の行動を表す赤い札と、人間の行動を表す青い札が半分ずつで構成されています。読み札を暗記して口ずさむ子もいるとか。
子育て世代の防災のヒントがギュっとつまった特別企画展「パパママ防災展」は、9月30日まで、減災館が開館している水〜土曜の13〜16時(要予約)に公開中です。子育て中じゃないから行きにくいなぁ…という方も、常設展示や研究者によるギャラリートークとセットで観に来られてはいかがでしょうか。防災のハードルをぐっと下げてくれることと思います。
(文:丸山恵、トップ画像:hisa_nishiya/Shutterstock)
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