名大N研、宇宙138億年の謎に挑む
名古屋大学には、つくばにある大型加速器 SuperKEKB を使った Belle Ⅱ実験を、世界26カ国1000人以上の研究者と共に推し進める研究室があります。N研です。
名大研究フロントラインでは、N研の研究活動を取材し、約6分の動画にまとめました。このページでは、動画のシーンを追いながら撮影の裏側をお伝えするとともに、N研のみなさんのことばに込められた思いにもう一歩踏み込みます。
0:05 「加速器はタイムマシンのようなもの」
ヘルメット姿でお話するのは、N研を主導する飯嶋徹教授。なぜヘルメット…? 実は撮影したのは、 SuperKEKBが埋まる地下10メートルの場所。飯嶋教授のすぐ後ろは、極限まで加速された電子と陽電子のビームがぶつかる衝突点です!
ここは、茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)の筑波実験棟。同じ地下4階のすぐそばではクレーン作業が行われるなど、まさに建設現場のような空間です。
0:40 衝突点までの道のり
衝突点ではさまざまな物理現象が起こります。筑波実験棟には、それらを逐一漏らさず捉える検出器「Belle Ⅱ測定器」が設置されています。その筑波実験棟への道のりを、飯嶋教授が運転する車の車窓から撮りました。向かう先は、高エネ研の1.5km²の広い敷地内の北東の端、筑波山の方向です。動画は早送りしていますが、筑波山がちょこっと現れます。
1:40 「宇宙最大の謎に迫る発見をめざしている」
—— 宇宙にはなぜ物質だけあって、反物質がないのか
Belle Ⅱ実験の前身Belle実験(1999~2010)は、この謎のカギを握る小林・益川理論の正しさを実験的に示しました。Belle Ⅱ実験では、作られた粒子の壊れ方を精密に調べ、小林・益川理論で説明できない粒子と反粒子の対称性の破れを調べようとしています。
ちなみに、今はBelle Ⅱ実験のスポークスパーソンも務める飯嶋教授は、中高時代は生物好きだったそうです。大学で物理に進んだのは、高校3年生の時のあるニュースがきっかでした。
「スイスのCERN(欧州原子核研究機構)で、ウィークボソンという素粒子が発見されたことが大ニュースになったんですよ。素粒子ってすごく面白そうだと思いましたね。」
3:15 「問題が起きたときに、現場にすぐアクセス」
児島一輝さんは、つくばで研究生活を送る博士課程の大学院生。修士時代からN研で、TOPカウンターという検出器に関わっています。
加速器実験では、加速器の運転時間が限られているので、問題が起きた時、いかに短時間で解決するかが重要です。例えば、TOPカウンターの読出し機器が放射線の影響などで止まる事態が起こると、データが取れなくなります。こうした事態は24時間いつでも起こりうるため、シフト制で作業にあたる現場エキスパートと密に連絡を取りながら対応するそうです。
ちなみに、撮影しているのは、筑波実験棟から道を挟んで向かい側にあるKEKB展示室。外観はお家風ですが、中は加速器の仕組みを学べる模型や資料が充実しています。
3:40 「15年前にはなかったんですよ、製品として」
コメントをくれたのは居波賢二准教授。TOPカウンターの開発をゼロから担当し、11年間の開発全期間を歩み続けてきたものづくり研究者です。搭載する光センサ「角型MCP-PMT」には特に多くの時間と労力をかけてきました。共同開発した浜松ホトニクスとは、試作品作りを数十回、いや百回以上は繰り返したそうです。
「出来上がって、性能評価するために待ち構えてるんですけれども、思ってた性能が出てると、おー!と思いますね。」
実験室では、必要とする性能を光センサが持つかどうか、時間分解能と電気信号の変換効率という2つの視点から確かめる実験を行っています。
4:27 「ここから先のことをやろうとしている」
居波准教授と一緒に実験を行う安達佑也さんは、修士課程の大学院生です。 ”ここ”とは、光センサの性能評価を1個づつ行っている現在。目指すのは、4個を一度に評価するシステムです。
もともとは、加速器実験で誰も見たことない新しいものを探すという部分に惹かれ、学部4年でN研に入った安達さん。N研での実験を通し、その興味が検出器にフォーカスされてきたそうです。
「検出器で信号が見えたりするのがすごく面白いと思います。向いているのかな。」
4:57 「一つの研究室で、これだけの計算機」
ずらりと並ぶコンピュータといくつもの大型ファンが大きな音を響かせる解析室。声を張り上げてくれた平田光さんは、博士課程の大学院生です。Belle Ⅱ実験に参加する世界中の研究者がアクセスして使うシステムがここにあり、その運用監視に携わっています。
「例えば、失敗ジョブが大量にこの計算機システムに投入されてしまって、サーバーが調子悪くなるトラブルもあります。でも、失敗ジョブを抑制するフレームワークを開発したり、監視する人たちが要領を掴んでいることもあって、トラブル対応はどんどん速くなっていると思います。」
高校生の頃から素粒子に興味があったという平田さんは、博士研究としてハドロンという粒子の内部構造の物理解析に取り組んでいます。恵まれた解析環境で残り1年を全力疾走中です。
5:30 「世界中の研究者と名大生が一緒になり、最先端の研究を支えている」
どんなに重要な研究課題であっても、言語も文化も違う1000人以上が同じ目標に向かっていくのは、そう簡単ではありません。この大きなチームをリードしていく立場でもある飯嶋教授は、個々の意見を聞くのが大事だが、聞くだけでもだめだといいます。
「最先端を目指していると、僕はこう、私はこうという競争はあります。競争と協力をうまく引き出すのが大事ですね。仲良しクラブは伸びていかないし、いがみあっていてもだめですから。」
1000人を超える共同研究者の4割を占めるのは、博士課程や修士課程の学生というBelle Ⅱ実験。最後に、若い世代に大きな期待を寄せる飯嶋教授からのメッセージです。
ここでお伝えしたのは、Belle Ⅱ実験というビッグサイエンスのほんの一部。ぜひ、下のリンクも覗いてみてください。
(文:丸山恵)
◯関連リンク
・N研(名古屋大学高エネルギー素粒子物理学研究室)
・飯嶋徹教授
・素粒子宇宙起源研究所(KMI)
・高エネルギー加速器研究所(KEK)
・Belle Ⅱ実験
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