
120年に一度の開花、結実、枯死… 森はどうなる!?
2016年から2017年にかけて、中部地方でササが一斉に花を咲かせました。実を付け、そして一斉に枯れました。古文書の記録をたどると、前回開花したのは120年前だったそうで、ニュースにもなりました。

「これは千載一遇のチャンス!」
名古屋大学・森林保護学研究室では、豊田市稲武町・野入町にある大学の森(もちろん、この森でもササが開花しました)で、詳しい調査を行いました。着目したのは、ササの種子を食べる「野ネズミ」です。
野ネズミは普段、ドングリなどの木の実を食べたり、冬を越すためにそれらを巣に持ち帰り、あるいは途中で隠します。ところが今回のように広い地域でササが実をつけると、野ネズミにとっては思ってもみなかったエサの大量到来です!
彼らはどんな行動をとるのでしょうか?大学の森では連夜、野ネズミの観察が行われ、意外なことがわかりました。
カゴにササの種子を入れておくと、野ネズミがやってきます。


出典:Suzuki, H. & Kajimura, H. (2023, August 23). Utilization of Sasa borealis seeds by Japanese field mouse: Discovery of small-seed caching. Frontiers in Ecology and Evolution.
ササの種子は25mgほどの小さな粒で、ドングリのように固い殻に包まれていません。「殻もなく保存が効くのかわからないような小さな種子も、遠くに運んで埋めて、冬の食料として活用するというのは知られていなかった新事実なんです。」研究を行った鈴木華実さん(博士後期課程3年)と梶村恒さん(生命農学研究科 教授)は話します。
つまり、野ネズミは種子の「捕食者」としてだけでなく「散布者」として、今後再生していくササ藪の将来に大きな役割を担っているということです。

森林研究の出発点は?「オオカミの絶滅。日本の森は本来あるべき姿じゃなくなっているという危機感(鈴木さん)」「木の中でカビを栽培する虫。その仲間にドングリを食べるものがいて、種子絡みの生物間相互作用に発展していきました(梶村さん)」
「これまでにはなかったササの種子が現れ、野ネズミにとってはエサの選択肢が増えました。すると、好まれる種子、好まれない種子が出てくるかもしれません。好まれない種子は森に残り、発芽して樹木へと成長しやすくなる可能性もあります。なので今、野ネズミの種子の好みについても調べているところなんです。」(鈴木さん)

「今回の一斉開花・結実・枯死で、森の植生は全く変わってしまいました。今はチョロチョロっとした芽生えだけなんですよ。光が当たって良いこともあるかもしれませんが、逆に乾燥してしまうかもしれません。そういった影響がいろいろな生物に関わってくるんですね。」(梶村さん)
木だけ、生き物だけではなく、森全体を見て生態系の不思議を解き明かし、その保護にも取り組む二人のコメントを、ポッドキャストでもお届けしています。何となくわかっているつもりの地球環境保全のこと、改めてじっくり考えてみませんか?
画像提供:梶村恒さん、鈴木華実さん
インタビュー・文:丸山恵

◯関連リンク
プレスリリース(2023/8/28)「一斉結実したササの種子を、野ネズミが捕食と貯食に有効利用 ~野ネズミによるササの種子利用様式を初実証、散布行動も発見~」
論文(2023/8/23 スイスの科学雑誌「Frontiers in Ecology and Evolution」に掲載)
鈴木華実さんの研究出発点となったオオカミの研究「日本におけるオオカミ(Canis lupus)野生復活の可能性」(2016年度名古屋大学学生論文コンテストの最優秀賞受賞論文です)