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ジェームズ・ウェッブ、研究者が語る深宇宙観測の新時代

何度もの開発延期を経て、2021年暮れに打ち上がり、去年7月に観測を始めたばかりのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。まさに旬なこの宇宙望遠鏡で、130億年前の宇宙を観測し、本日「感動」の観測結果を発表したのが、

出張先からオンラインでお話を聞きました

柏野大地かしのだいちさん(高等研究院/理学研究科 特任助教)です。

どんな発見か、端的にいうと、こうです↓

<背景>
◯138億年前の誕生からしばらく、宇宙は中性の水素原子に満たされていた。
◯「宇宙再電離うちゅうさいでんり」という現象で、約10億年後に宇宙中の水素原子が「電離」された。
◯「宇宙再電離」がどのように進んだのか、わかっていなかった。
<発見>
銀河が出す紫外線が、宇宙全体を電離していた!
<感動>
”入れ物である宇宙に対し、内容物である銀河が、これほどまでに大きな影響を宇宙全体に与えたことに感動です。壮大さを感じます(柏野さん)。”

「中性の水素原子」とは陽子と電子が結合した状態の水素原子。
ライマン系列と呼ばれる特定の波長の光を吸収する性質がある。
「電離」とは陽子と電子の結合を切り離すこと。

成果の科学的なポイントは、高等研究院のわかりやすい解説記事にお任せし、ここでは「ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測するって具体的にはどんな感じなのか!? 」に着目。実際に「観測した」柏野さんの実体験インタビューを、下のポッドキャストリンクからお聞きください。

<インタビューハイライト>
── どうやってジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での観測を実現させたのですか?倍率高そうです…

僕たちのプロジェクトは、競争を勝ち抜いて採択されたというものではなくて、研究チームのボスが長年ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の開発や天文学の発展に貢献してきたことが認められて、あらかじめ割り振られた時間を使って観測しました。一般には、プロポーザルという観測提案書を提出して、科学的意義が認められた計画に観測時間が与えられます。

── 柏野さんが注目している「宇宙再電離」は、天文の研究分野ではどのくらい大事なことなのですか?

宇宙再電離というのはここ10年、「観測」を重視する研究の一つの大きなキーワードだと思います。というのも、宇宙再電離期にはこんなことがあったんだろうなぁという説はあっても、この時代を観測する技術が追いつかなかったから検証できなかったんです。でも今、人類の観測技術がようやく追いついてきました。実際に、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、宇宙再電離期の観測をバリバリやろうという目標のもとに設計されたわけなんですよ。

── どこでジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡をコントロールしているのですか?

基本的なオペレーションは、アメリカ・メリーランド州、ボルチモアにあるSpace Telescope Science Instituteスペース・テレスコープ・サイエンス・インスティチュート(STScI)でされています。同じメリーランド州にあるNASAのゴダード宇宙飛行センターで開発された後、オペレーションはSTScIに移っているようです。

── 柏野さんたち研究者は、STScIに行って観測するのですか?

実は行かないんですよ。まずは、プロポーザル(観測提案書)に観測の方向(天球面上の座標)や、使う装置の種類やモード、観測時間などを記載して提出します。その後、僕たちは一旦休憩です。世界中から提案書が集まってくるので、望遠鏡がなるべく無駄な動きをしないように、オペレーターがスケジュールを組み立てていくわけですね。観測の日が近づくと、「もうすぐあなたのが観測されますよ」と連絡が来て、無事観測されればデータが送られてきます。

── 観測中は、リアルタイムでモニタリングしていないんですね!?

基本的にはしていないです。全てオペレーションのプロがやっています。

── もし、提出したやり方でちゃんと観測できなかったら…!? 事前にチェックできる仕組みはありますか?

はい、観測装置のシュミレーターのようなものがあって、誰でも使える状態になっています。例えば、このモードで、これぐらいの積分時間だと、どれぐらいのシグナル-ノイズ比が得られますよ、といったことを確認できます。これを使って、自分たちの観測したい天体の明るさや目標とする測定精度に応じた時間積分などを算出するということになります。

── 観測は、全部で何時間行なったのですか?

117時間のプログラムでした。ただ、実際に光を受けているのはその半分くらい。残りの半分は望遠鏡の向きやモード設定の調整に使いますね。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡って、まず方向を変えるのに結構時間がかかる…早く動いてしまうと目的の地点を行きすぎてしまうので、ゆっくりゆっくり調整するんですね。このプログラムでは6つの領域を観測したのですが、今回発表したのはそのうち1つの領域──20時間ぐらいを使った成果です。ちなみに、たまたま一領域目の解析ですごく面白い結果がでて、論文を書いて大々的にリリースをしようということになりました。

── 今回の観測データの解析はまだまだ続くそうですが、少し視野を広げて、柏野さんが次に目指すものは何ですか?

今回僕たちが観測したのは宇宙再電離時代の後半の方なんですけど、宇宙再電離が始まる時代、あるいはその先の暗黒時代と言われる時代の観測も可能になると考えられていて。というのも今、SKAスクエア・キロメートル・アレイという超大型の電波望遠鏡が建設されていて、2030年代には稼働していると思うんですね。こういった装置を使えば、本当に宇宙再電離が始まる瞬間、言い換えれば、本当の意味での宇宙初の星や銀河が誕生する瞬間を、人類が「観測」によって目撃できるんじゃないかと期待しています。

── 科学技術が結集して、観測技術が追いついて、宇宙の謎が次々と解明されていくのですね。壮大なお話をありがとうございました!

トップ画像提供:柏野大地さん
インタビュー:高橋将太
文:丸山恵

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