あなたならどう使いたい? 「きっと楽しい」向こうが見える太陽電池
名古屋大学で太陽電池といえば「松尾研」です。よく屋根にのっている黒光りするアレを想像しつつ、ラボを主宰する松尾豊さん(工学研究科 教授)を訪ねると…、
開発中の透明な太陽電池とともに出迎えてくれました。確かに、左側は松尾さんの顔が透けて見えますが、右は透けません。
そこへ、大学院生の大岩詩門さんも登場。手にしているのは「最近の自信作」という透明な太陽電池です。
室内でもしっかり発電しています。
この太陽電池、透明の秘密は…、
「カーボンナノチューブ」です。
太陽電池は、表面と裏面に電極を持ちます。一般に、表面には透明な電極が、裏面には透明でない電極が使われます。松尾さんは、裏面も透明にできれば「きっと楽しい!」という発想で、研究をスタートしました。
「カーボンナノチューブは、厚みが数十μmのときは黒いフィルムなんですが、数十nmまで薄くすると透明になります。しかも電気を通す性質はそのままなので、透明な電極をつくれるんですよ(松尾さん)。」
気になる発電効率は、屋外では普及している太陽電池にはかなわないものの、屋内では普及しているものとほぼ変わらないといいます。
「これまで太陽電池が使われてこなかった場所に使うといいんじゃないかと考えています。例えば、窓に貼れば、発電するブラインドになりますね。」
カラフルにもできるようです🌈
「発電効率はやはり黒が一番です。でも、黒以外の色のバリエーションがあったら、なんか楽しいじゃないですか!」
親近感を覚えてしまう発言です!でも「楽しい」だけではありません。
「植物って、特定の色の光でよく育つのをご存知ですか?例えば、レタスは赤い光でよく育ちます。赤い透明太陽電池は赤い光を吸収しないので、レタスの上に設置すればレタスに赤い光が届きます。レタスも育つし、栽培に使える電気も作れますね。」
今回見せてもらった太陽電池は、無機物(インジウムスズ酸化物)も使われていましたが、オール有機物、つまり表面も裏面もカーボンナノチューブ電極を用いた太陽電池にも成功しているそうです。太陽電池に使われるインジウムなどの希少元素を、地球に豊富で腐食にも強い「炭素」に置き換えようということです。
「21世紀は、『炭素の時代』と言われているんです。」
「産業革命が起きた19世紀は鉄の時代、IT技術が発達した20世紀はシリコン(ケイ素)の時代でした。今世紀はエネルギー関連技術が重要になってきます。限られた資源で人類が本質的に幸せに生きていくには、エネルギーと賢く付き合うことが必要です。太陽光を軸に、エネルギーをクリーンに作って、貯めて、効率よく使う。そこでカーボンナノチューブの原料でもある『炭素』の活躍が期待されてるんですね。」
松尾さんのグループは、実用性あるソーラーカーの実現も目指しています。異なる太陽電池を重ねて発電効率をあげる「タンデム型太陽電池」を、企業と共同開発中だと話します。
「本当に走れるソーラーカーをつくろうと思ったら、現状のシリコンの太陽電池の発電効率だけでは足りないんですね。一枚ものの太陽電池には限界があります。そこにカーボンナノチューブの透明電極が活躍できる可能性があります。というのは、カーボンナノチューブ膜を貼り付けるだけで電極ができるので、他の太陽電池に貼り付ければ、二階建ての太陽電池ができるわけです。これで発電効率を上げて、実用化レベルに届くか。カーボンナノチューブの可能性を信じ、チャレンジしています。」
遊び心を持ちつつ、最先端の難題に挑戦する松尾さん。柔らかな印象とはにつかない、奇抜で面白い発想をどんどん実現させようとする姿は、スゴイのに親しみやすいとても不思議な魅力をまとっています。今後もおもしろいプロジェクト成果を発信していくとのこと、楽しみにしています!
インタビュー・文:丸山恵
◯関連リンク
Matsuo Group(松尾研究室)
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