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スター素材「ペプチド」を、特殊シリカゲルでキャッチ!【39】

新年おめでとうございます。
2022年初投稿は、食品や化粧品業界が注目する素材「ペプチド」の開発を支える材料研究に迫ります。

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ペプチドというと特別なものに聞こえるかもしれませんが、多くの食べ物に含まれていて、実は毎日食べているんです! そのつくりは、数個〜数十個ほどのアミノ酸がつながった鎖で、タンパク質と共通する部分もあります。特に、血圧降下や抗酸化作用など、体に何らかの作用を持つペプチドを「生理活性ペプチド」と呼びます。生理活性ペプチドは、食品やサプリメント、化粧品にも使われており、日常生活でも研究分野でもスターの地位を獲得しつつあります。

しかし、食品や化粧品用の生理活性ペプチドを得るのは簡単ではありません。その手法は化学的に合成するほか、食べ物のタンパク質から欲しいペプチドを分離する方法があります。食べ物由来のペプチドは安全ですが、分離・精製には非常に手間がかかります。ある特定のペプチドだけを取り出そうとすると、元のタンパク質の千分の 1 から 1 万分の 1ほどの量しか得られません。そのため、生理活性ペプチドを商品化できるのは、技術のノウハウを持つ企業に限られていました。

そこで、名古屋大学の生物工学の研究者と化学メーカーが共同で、生理活性ペプチドを簡単に分離できる方法を開発し、抗菌作用を持つペプチドを米から分離することに成功しました。

グループが着目した抗菌ペプチドは、アルカリ性かつ水に溶けにくい傾向にあります。そこで、この特性のペプチドを効率よく吸着する「高温焼成シリカゲル」という材料を独自に開発しました。

シリカゲルといえば、お菓子についてくる乾燥剤のイメージがありますが、高温焼成シリカゲルは、シリカゲルを特別な条件のもと、高温で加熱したものです。

実際にどのようにペプチドを取り出したかというと、まず米の粉末からタンパク質を抽出し、分解酵素でさまざまな種類のペプチドの混合物を取り出します。これを高温焼成シリカゲルと混ぜて、アルカリ性で水に溶けにくいペプチドを吸着させ、酸性にして脱離することで分離します。

こうして分離したペプチドを調べると、ニキビの原因といわれるアクネ菌への抗菌作用が確認できたということです。さらに詳しい実験や解析の結果、取り出したペプチドの中にはこれまでに見つかっていない新しいペプチドも含まれ、アクネ菌だけでなく歯周病菌や虫歯菌、大腸菌に抗菌作用を持つものもあったそうです。

今までたいへんな手間がかかっていたのが、高温焼成シリカゲルを使うことで、簡単に素早く、欲しいペプチドを分離できるようになったのですね。さらに、新たなペプチドを見つけられたのことで、実用化が楽しみです。

研究を行なった本多裕之ほんだひろゆき教授からのコメントです。

これまではタンパク質を酵素で加水分解して得たペプチド混合物をクロマト操作で精密に分離して、生理活性ペプチドを特製造していて、複雑な分離装置やたくさんの技術者の方のノウハウが必要でしたが、今回の研究では大学院生一人で約半年の期間で効果を見つけ、新規の抗菌ペプチドを発見しています。

この材料はペプチド製造の福音です。他の生理活性ペプチドにも適用できます。どんどん応用範囲を広げて、興味のある企業に使っていただきたいと思っています。

僕自身も研究でペプチドを使ったことがあるのですが、分離の作業は大変でした。実験で使うスケールの少量でも大変なので、商品化の際には多量のペプチドの分離精製が簡単ではないことが想像できます。だからこそ、画期的な技術だと思います。

詳しくは、2021年11月27日発表のプレスリリースもご覧ください!

制作協力:遠山祥史とおやまよしふみ(名古屋大学 理学研究科修士1年)

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◯関連リンク

 ・本多研究室(名古屋大学大学院工学研究科)

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