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AIが強力にサポート! 脱炭素時代のパワー半導体 【36】

パソコン、スマートフォン、テレビ、プリンター、エアコン…すべて、パワー半導体という部品を搭載しています。暮らしに欠かせないパワー半導体に、今、イノベーションが起こっています。

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私たちの身の回りは、電子機器で溢れています。パソコンやスマートフォン、テレビやプリンター、エアコンはすべて、半導体という部品を搭載しています。半導体という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。

でも今回はその半導体の1つ、パワー半導体について、話していこうと思います。パワー半導体という言葉を聞いたことがある人は少ないのではないでしょうか。

そもそも半導体とは何か、をおさらいしていきます。半導体とは、その名前の通り、電気を通しやすい導体と、電気を通さない絶縁体の両方の特性を持つ物質なので、「半」導体と言います。電気を一方だけ通したり、電気信号を大きくしたり、電気を止めたり、電気を自由自在に操れるのは、半導体があるからなんです。このポッドキャストを聴いていただいているスマートフォンやパソコンにも必ず搭載されています。

そのうちパワー半導体とは、半導体と比べて高い電圧と大きな電流を扱える半導体のことを指します。電気自動車、電鉄、エアコン、エレベーターは代表的な使用例です。電気自動車が増えることで、その重要性がますます上がることに疑う余地はありませんね。

これまで、パワー半導体の材料といえばSiシリコンでした。小学校の理科で塩の結晶を作ったように、Siシリコンの結晶を成長させて作ります。しかし、Siシリコンの特性上、大きな電力を扱うと無駄な熱が発生してしまいます。これが無駄な電力となり、CO2排出量増加の原因になっているということです。

そこで名古屋大学の研究グループは、パワー半導体をSiシリコンからSiCシリコンカーバイドという素材に置き換え、無駄な熱の大幅カットに挑戦しています。SiシリコンからSiCシリコンカーバイドに置き換えることよって、将来、大幅なCO2削減効果が見込まれています。

しかし、ここで大きな問題がありました、それは、値段が高いのに品質が低かったことです。品質が低い問題に関しては、2017年に高品質なSiCシリコンカーバイドを開発し、クリアしていました。

今回の研究では、値段が高くなってしまうという問題に対してアプローチし、一度に大きなSiCシリコンカーバイドを作ることで、低コスト化を目指しました。

まず、これまでの手法である昇華法しょうかほうでは、大きく作ろうとすると原理的に品質が下がってしまいます。そこで、研究グループは溶液法という手法を採用しました。しかし、それでも考えるべき要素が山積みでした。SiCシリコンカーバイドを大きくするのに、実験だけでは10年単位の年月が必要です。そこでAIを活用し、コンピューター内に実際の結晶成長を擬似的に実験する装置を作ったのです。

その結果、1年という圧倒的な速さで、6インチ(約15センチ)の結晶成長を世界で初めて実現しました。ちなみにこれまでの手法だと10年程度かかるそうです。現在は8インチの開発に取り組んでおり、既に7インチ弱の結晶を実現しています。

今回の研究を行なった宇治原徹うじはらとおる教授からのコメントです。

素材開発は、長い開発期間と莫大なコストが必要とされてきましたが、AIの活用によってそれが大きく変わります。つまり、多くの人が素材開発に携われるようになり、これからもっともっと新素材の開発が進んでいくと思います。また、素材を開発するベンチャーも増えてくると思います。

現代社会では環境問題が叫ばれています。今回紹介したSiCシリコンカーバイドが普及することで、私たちの身の回りに溢れている電子機器が、地球に優しくなる。これからの社会には必要不可欠な研究ですね。私自身この研究を知った時、環境問題に対してそんなアプローチがあるのかと感心してしまいました。

詳しくは、2021年10月25日発表の名古屋大学研究プレスリリースもご覧ください。

制作協力:越川光こしかわひかる(名古屋大学 経済学部4年)

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◯関連リンク

 ・UJIHARA LAB(宇治原研究室/名古屋大学 未来材料・システム研究所)

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