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「過去」の法令データベースがなぜ必要か?

2017年に始まったe-Govイーガブ法令検索。現行施行中の8000以上もの法令(憲法・法律・政令・勅令・府令・省令・規則)を検索できるウェブツールです。

そして本日、e-Gov法令検索でカバーされない過去の法律と勅令を搭載した「法令データベースが公開されました。

なぜ「今」だけじゃなく「過去」も検索できる必要があるのか。開発メンバーの佐野智也さのともやさん(法学研究科 講師)に、構想期間を含め7年に及んだ一大プロジェクトについて聞きました。

佐野智也さのともやさん(法学研究科 講師)
著書「立法沿革研究の新段階─明治民法情報基盤の構築─(信山社, 2016)」を手に。

── 本日公開の「法令データベース」について教えてください!

明治19年から平成29年(1886~2017)に公布された法律と勅令の全文を、誰でも無料で検索できるオンラインデータベースです。

明治19年は、今の日本の法令体系を形作った公文式こうぶんしきが定められた年。平成29年は、e-Gov法令検索が運用を開始した年。

e-Gov法令検索は、現在有効な法令は検索できるんですが、廃止された法令は検索できません。でも過去の法令を知りたいというニーズは結構あるんですよ。国立国会図書館衆議院のサイトで探せないこともないのですが、使い勝手があまりよくありません。法令集などを紙媒体で調べることも多いのが現状です。そこで、e-Gov法令検索を補完する形でこのデータベースを作りました。

公開した法令データベースの検索画面
詳細検索では公布日と法令番号で絞ることができる。

── 「過去」の法令を調べたいというニーズがあるのですか?

例えば、最近民法が改正されましたよね。もし何らかの契約を改正前に結んでいたら、改正前の法律でいろいろな処理がされるわけです。もし事件が起きてしまったら、契約当時の法律を見たいとなるんです。

── 130年分ものデータベースを、どうやって構築したのですか?

まず、対象の法令をすべてテキストデータで用意します。戦後の法令は、衆議院のサイトにテキストデータで公開されているので、それを使いました。問題は戦前の法令です。画像データをOCR(Optical Character Reader)で読み取り、人の目でチェックする必要があります。

実際にOCRによる読み取り作業に使用した画像データ

── データ量はどのくらいになるのですか?

2000万文字分ほどでしょうか。入力だけで4年かかりました。このテキストデータを、機械処理できるように、XML文書として整理しました。

XML(Extensible Markup Language)は、文章の見た目や構造のルールを与えるマークアップ言語。

e-Gov法令検索は、法令に特化した「法令標準XMLスキーマ」(スキーマはデータの構造の設計図)を採用しているんですね。名古屋大学の外山勝彦とやまかつひこ教授(情報学研究科)が開発したスキーマで、「法令データベース」にはこれを拡張したものを使いました。

── XMLのお話…ちょっと抽象的なので、具体的なイメージが欲しいです…。

では、「著作権法」を調べてみましょうか。こんな風に表示されます。

右上のボタンから、XMLデータをダウンロードできるようになっています。第一章の第一〜三条(ピンクで囲った部分)のXMLデータを見ると、このような階層構造になっています。

「第◯章」や「第◯条」はインデックスとしては便利です。でも、ある条文だけを取り出したいような場合に、XMLのタグがない単純なテキストだと、いくつかの条件を用いなければ、コンピュータはその部分を特定できません。しかし、XMLになっていると、どこからどこまでが第一条かを、簡単かつ正確に処理することができます。「第◯条」の部分に言語的な意味がなく、処理の対象にしたくないのであれば、「ChapterTitle」や「ArticleTitle」でタグ付けした部分(水色ハイライト)を簡単に外すことができます。このように、条文内容を機械処理しやすくなるんですね。

── このデータベースは、誰が使うことを想定していますか?

法律が専門の方々の利用は当然想定しています。加えて、近代史を研究されている方などにもぜひ使って欲しいと思っています。

── 歴史の研究に法律…ですか?

例えば、ある商品の流通について調べたいとします。流通って、法律によって事実上制限されることがあります。戦前だと統制もあったりして。だから、「経済はこうなっていて、この商品がこれくらい出回ってました」と言っても、それが法律によって制限されたものだったら話は変わってきます。

佐野さんは「立法沿革」の研究者。明治の法律の条文が立法当時にどのような意図で作られたか、根拠となる審議記録や海外の法律を紐づけた法律情報基盤も構築している。法律家からのニーズがあることを知り、「ここに来れば誰でも簡単にわかる」場所をウェブ上に作ろうと考えたそう。

── 市民の真のニーズではなかったかもしれないということですね。今あるデータを解釈するためのプラスαのツールとして、法令データベースを活用できそうです。

そうなんです。みなさん、法律に関わることってとっつきにくいんじゃないかと思うんですね。専門的な知識がないと踏み込みにくいですし、法制史っていう分野もありますし。だから、他の分野の方々にも気軽に使ってもらって、研究に活用してもらえたらいいなと思います。

── 今あるニーズに応えるだけでなく、思わぬ使われ方によって、さらに用途が広がっていきそうな予感です。自分たちの暮らしに法律が大きく関わっていることにまで考えが及ぶお話を、ありがとうございました!

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インタビュー・文:
丸山恵、飯田綱規(名古屋大学サイエンスコミュニケーター)

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