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56. 人と共存の古代ワニ、絶滅は人が原因?

第56回目の今回は、中国で発見された大型ワニの化石からワニを取り巻く歴史を紐解く研究を紹介します。経済学部4年、永山萌です。

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この研究にロマンを感じたという永山が、古代ワニの魅力を語ります。

大昔、日本にいた野生ワニが中国にも!?

ワニといえば熱帯など暑い地域に生息していて、日本とは縁遠いと感じるかもしれません。ところが45万年前の大昔、日本にも大型ワニが生息していたことをご存知ですか?

1964年、大阪大学の豊中キャンパスから体長約7メートルの大型ワニの化石が発掘されました。大学のキャンパスからワニの化石が発掘されるとは驚きです!「マチカネワニ」と命名されたこのワニは、歴史的にみてもワニの進化論においても重要視されています。「竜」のモデルにもなったとか…。

日本にマチカネワニが生息していた時期は、人類が日本に到達する約4万年前よりも前といわれています。マチカネワニの化石は、大阪以外にも日本各地で見つかっていますが、その記録は30〜40万年前で途絶えています。ところが、中国広東省ではもっと生き延びていたとする説もあります。

そこで、名古屋大学博物館の飯島正也いいじままさや研究員を含む共同研究グループは、中国広東省でワニ研究をスタート。現地の博物館を廻る調査で、マチカネワニの近縁種の化石標本を発見しました。全長は推定6.2m。マチカネワニに匹敵する大型ワニです。グループは、中国史書の記述に基づき、「ハンユスクス」と命名しました。

人為的に絶滅した大型ワニ?

今回見つかったハンユスクスの化石標本は、中国の青銅器時代、紀元前16~3世紀頃の地層から見つかったものです。つまり、マチカネワニの近縁であるハンユスクスが、近年まで人類と共存していたということです。

ところが、紀元後に中国南部へ人口が流れ、さらに環境汚染や人によるワニの駆逐が重なります。その結果、ハンユスクスは、数百年前に人為的に絶滅に追いやられたと考えられます。駆逐の一つの証拠として、見つかった標本の中に青銅器で負った傷跡を持つものがあり、中国史書にもハンユンクスとみられるワニ駆除の記述があるそうです。

今回のハンユスクスの発見により、ワニ類の分類問題の解決や、爬虫類メガフォーナと呼ばれる体重45kg以上の大型動物の絶滅要因の理解が深まることが期待されています。

名古屋大学の飯島正也研究員からのコメントです。

10年ほどワニ研究を続ける中で,人類と共存したワニに出会ったのは初めてでした。この巨大ワニがたった数百年前に絶滅してしまったことが分かり、本当に残念です。今後の研究次第で、ハンユスクスが中国の神話や文字形成に与えた影響について明らかにされる可能性があります。

日本にいたマチカネワニの近縁が中国にもいたということは、ワニ達は中国から日本まで海を渡ってきたのでしょうか?飯島研究員によると、ハンユスクスやマチカネワニの仲間は、およそ1500万年前には東アジアに生息していたことが分かっているとのこと。塩耐性を備え、海を渡れるワニのグループだった可能性もあるそうです。野生の大型ワニが何十万年も前に日本にいたというのは、今では考えられない情景ですね。

この研究について詳しくは、2022年3月10日のプレスリリースをご覧ください。

(トップ画像提供:飯島正也研究員/文:永山萌、丸山恵)

◯関連リンク
名古屋大学博物館 飯島正也 学振特別研究員
名古屋大学博物館

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