moritoモニターツアー夏編〜古のお山かけ再現ツアー〜

お山かけとは


昭和20年代末頃まで行われていた風習で、岩手県内各地からのほか、主に南三陸方面、記録では遠くは宮城県の本吉町や歌津町からも、その地域を代表する若者達が地域の安全や豊漁・豊作という願いを背負って、早池峰を目指し山頂で御来光を望むという伝統的な行事でした。

早池峰山


この「お山かけ」の再現を、NPO法人遠野エコネットが取り組む森を活かす新ブランド「morito]」のモニターツアーとして、2023年8月26日(土)〜27日(日)にかけて実施しましたので、その様子をレポートします。

8月26日16時。


早池峰神社(遠野市附馬牛町大出地区)に隣接する早池峰交流館に集合。
今回の一般参加者は4名。同行するスタッフが4名、その他車両・搬送スタッフ2名、調理ほかサポートスタッフが4名。
最初に、参加者とスタッフの顔合わせ。それぞれの今の心と体の状況をシェアします。なぜこのツアーに参加したのか。そんな想いも共有します。
その後、チームワークを高めるための簡単なゲームでアイスブレイク。
そして餅つきをします。
お餅は、一昔前は一番のご馳走で、ハレの日には餅つきは欠かせないものでした。
みんなで交代で餅をつくことで、チーム力も更に高まり、また、雰囲気も和らぎます。

餅つきをします


ついたお餅は、小さく丸めて、笹の葉で包み、各自山へ持参して携行食糧となります。また、大きなのし餅は、早池峰さんへお供え餅として持参します。
その後、大出早池峰神楽保存会に協力いただき、神楽を奉納します。
大出地区に鎮座する早池峰神社は、古くは早池峰山妙泉寺と新山宮が集合し806年に草創され、その後間もなくこの神楽が始まったという千年の歴史をもつ神楽です。かつてのお山かけでは、遠くから徒歩でこの大出まできた人々が、大出の各家に宿をとり、お山かけの前に、この神楽を奉納して出かけたそうです。神楽は早池峰の大神への最大の捧げものでした。この日は、式六番の最初に舞う「鶏舞」を舞っていただきました。

大出早池峰神楽の鶏舞を奉納

神楽を見ながら、スタッフが作ってくれた遠野の郷土料理である「ひっつみ」を夕食にいただきました。食事後に、身支度を整え、早池峰神社を参拝。

18時

拝殿の下の石段脇にある「起点」という石碑で集合写真を撮影後、いよいよ早池峰山へ向けて出発です。
早池峰神社の参道を抜け、鳥居をくぐり、気持ちが高まってきます。参加者もスタッフも、無事に戻って来られるか不安と期待が入り混じった状態です。
道は大出からしばらくは舗装道路を歩くことに。

大出の集落を抜けて行きます。

田んぼや牧草地、ポツポツの人家を抜けると、やがて大野平の集落へ。このあたりまで来ると、夕闇が濃くなってきました。集落の切れ目まで来てからは、サイレントウォークとしました。5メートル以上の距離を保ち、何も喋らないで歩きます。うっすらと前にいる人がやっと見えるような状況で、道路を歩きます。上空が開けている牧草地の部分では、ぼんやり周囲も見えるのですが、周囲が森の道は真っ暗。聞こえるのは自分の足音のみ。視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、歩いて行きます。「怖さ」を感じながら、また、自分との対話も始まります。また、歩くことは、足裏を通じて、自分と地球との対話をすることでもあります。突然ニホンジカが甲高い声で鳴き、驚かされます。向こうも、こんな時間に人が歩いていて驚いたのでしょうが。虫の音が心地よく包んでくれます。馬留めの手前の舗装道路の終点で休憩。車両スタッフの車が先回りしてくれていて、ザックを受け取ったり、靴を履きかえたりします。そして、たいまつに点火してみます。かつては、今のような懐中電灯などなかったため、ガイド役の「先達さん」がたいまつを手に持ち歩いたそうです。たいまつの材料は、マダ(シナノキ)やヤマブドウの皮が多く使われたそうです。この日は、以前作っていたヤマブドウのものと、参加者の一人が自作してきたマダのものを点けてみました。
馬留めまでの砂利道でたいまつを交代で持ってみました。たいまつの灯りは、ヘッドライトとは違う、生きた炎の灯りで、少しですが、かつてのお山かけの雰囲気を味わうことができました。

参加者がつくってきたマダのたいまつに点火


馬留めからは、いよいよ登山道を歩くことになります。
又一の滝までの登山道は、左手に崖が続く細道となり、踏み外すと転落の危険があります。お互いに声を掛け合いながら、ゆっくりと歩を進めます。

20時23分


又一の滝へ到着。
一同、滝の脇にあるお不動様を参拝し、安全を祈願。
ゆっくりと休憩。滝壺ではイワナの姿が見れました。
又一の滝からは、通称「横通り」という薬師岳の稜線の東側を通り抜ける登山道となります。現在は、小田越まで舗装道路ができたため、利用者も少ないコースですが、原生林を抜ける古道としての趣がある道です。ブナの森をしばらく歩くと、早池峰神社の起点からの距離を示す「何里何丁」という石碑があります。

いくつか沢も渡り歩きます


標高が上がると、次第に木々の樹高も低くなり、コメツガやオオシラビソという針葉樹が多くなってきます。時折、ガスがかかり、幾分気温も下がってきたようです。途中には、「鍋岩」という巨岩や、「不動の滝」という水場もあります。急な登り道が多くなります。

21時50分


横通りの中間地点にある「薬師堂」に到着。お堂の中にある石造に向かって参拝。

薬師堂に着きました。

ゆっくりと休憩をとります。参加者には、疲労と眠気が出てきています。
薬師堂から小田越までの道は、やや下りの道となり、これまでよりは楽ですが、道の脇に崖があったり、岩の隙間に大きな穴が開いていたり、夜の暗い中では、全く気の抜けない状態で、更に疲労と眠気のため判断力も低下しているという極限状況で歩きます。突然道の脇で「ガサッ」という大きな音に驚かされ、クマか?とスタッフがクマ避けスプレーに手を添えるなど緊張が走るシーンも何度か。「自然への畏怖」が自ずと高まります。途中空が開けた場所では、星空も顔を覗かせてくれ、参加者の心を癒してくれました。あんな小さな光でも、暗闇の森を歩く者にとっては、愛おしいのです。小田越の手前にある沢は「河原坊」といって、お山かけの人が水垢離をとった場所。ここで身を清めて、早池峰山へ入山します。

23時50分


小田越に到着しました。
歩き始めてから既に6時間近く経過しています。
車両スタッフが待っていてくれて、食糧をいただきます。おにぎりやバナナなどの他に、お湯を沸かしてカップラーメンや暖かなお茶もいただきます。何を食べても、本当に美味しく感じます。ここからは本格的な登山となるため、じっくりと休憩。マットを敷いて、仮眠を取ります。時折雨が落ちてきましたが、それでも疲れているためか、起き上がれない人もありました。
早池峰山へのアタックを前に、ここから同行してくれる、ヨガ講師である新田真理子さんに指導いただきながらストレッチをして、体をほぐします。足の裏やふくらはぎ、腿、腰。体が悲鳴を上げる前にメンテナンスです。体が軽くなったように感じました。

小田越で集合写真

1時30分


いよいよ早池峰山頂に向けて歩き始めます。1合目までは樹林帯。最近、熊の目撃情報が多くあるそうで、警戒しながら歩きます。1合目からは岩場となります。早池峰特有の蛇紋岩が連なり、岩が滑りやすいため、気を引き締めて登って行きます。視界が開けたため、空は大きく見渡せます。西側には花巻市方面の街明かりが連なって見えます。その向こうには、雷が各地で稲光を走らせます。正に天空のドラマを目の当たりにしました。雲が晴れると頭上には星空が広がり、流れ星も見れました。


3合目付近。遠くには夜景が見えます。疲れと眠気はピーク。


何度か風避けの岩場で休憩をとりますが、眠気もピークのようで、岩にもたれて眠る姿もあります。そう、普段なら熟睡している深夜です。かつての登山者が岩の間を回って読経試しをしたという「巡り岩」を抜け5合目の「御金蔵」の岩の近くでも休憩。ここからはハイマツが広がる場所で、神馬が駆け抜けたとの伝説がある「龍ヶ馬場」となります。7合目の急坂を登ると「鎖場」の鉄梯子。そこから少し登ると早池峰の稜線となる9合目になります。すると、突然大きな鳥が私たちの近くを横切っていきました。クマタカだろうか?まだ薄暗い中、随分早起きなんだねと話してました。
辺りは明るくなってき始め、ここからはヘッドライトを消して、無言でのサイレントウォークで山頂へ向かいます。山頂が近づくと、東側の空が赤みを増してきました。

4時32分


早池峰山頂に到着
全員無事にやってきました。これだけでも、達成感がものすごく湧き上がってきます。全員で万歳三唱!やったー!皆感極まるものがあります。早池峰山頂のお宮に持参したお餅をお供えして、みんなで感謝の参拝を。空は刻々とダイナミックに色を変えて行きます。この時、この場所でしか見られない、素晴らしい光景。

皆で雲の上のドラマを堪能。
東側の空が真っ赤に染まります。
刻々と変化する空。
雲が山を越えて通り抜ける。

真理子さんの指導で、「太陽礼拝」というヨガをしてご来光を待ちます。
東側の空は真っ赤に燃えてきましたが、最終的に太陽は厚い雲に隠れて顔を出すことはなかったのですが、それでも山頂から360度の展望で、雲海が染まる様子や、岩手山や遠くは鳥海山も望めるなど素晴らしい雲の上の世界を堪能できました。

山頂でヨガの太陽礼拝をしました

5時30分


早池峰山頂から下山を開始。初めて早池峰山に登ったという方もあり、岩ばかりしか見れなかった夜道とは違い、木々の緑と岩の織りなす姿に感動していました。山頂の下のある「胎内くぐり」の岩や「賽の河原」「お田植え場」などの伝説の場所も案内し、下っていきます。「龍ヶ馬場」のハイマツの緑が、朝露に濡れ鮮やかに目に映ります。ナンブトラノオやナンブトウウチソウという早池峰固有種の貴重なお花も見ながら歩いていきます。途中、登山者も来始め挨拶を交わしながら下ります。

龍ヶ馬場を望む。

8時20分


小田越に戻ってきました。車両スタッフが朝食を準備して待機してくれてます。おにぎりやパンなどをいただきます。持参した餅を食べると元気が湧いてきます。
登山口には、日曜日ということもあり続々と登山者がやってきます。

8時53分


休憩を終えて、帰路の横通りを歩き始めます。来るときは暗くて見えなかった原始の森の姿に触れることができます。こんな険しい道を、暗い中で、よく来たものだと実感できます。

10時54分


薬師堂に到着。お礼参りをして休憩。ここからは下り坂となります。針葉樹林帯からブナの森へ。次第に気温も上昇し、暑くなってきます。セミも鳴き始めました。

12時20分


又一の滝へ到着。お不動様を参拝。集合写真も撮影。もうゴールも近くなり、参加者には安堵の顔も見え始めています。

又一の滝まで戻ってきました。

ここからは平坦な道となります。橋を渡り崖沿いの細道も、夜と比べれば楽なものです。馬留め近くになるとスタッフがお出迎えに来てくれました。
馬留め下の舗装道路の始まりで、車両スタッフがお出迎え。靴を履き替え、ザックを車に載せて、身軽になって舗装道路を軽快に下っていきます。牧草地を抜けると大野平の集落へ。さらに下っていくと大出が近づいてきます。そして旧大出小中学校のカーブを曲がるとゴールの早池峰神社が見えてきました。スタッフの子供たちが、神社の木に登って「おかえりなさーい」と出迎えてくれます。もう体はボロボロですが、心はなんと軽いのでしょうか。鳥居をくぐり参道をじっくりと噛み締めながら一歩また一歩歩きます。皆で本殿で参拝。

14時20分


無事に全員帰ってきました。「起点」の石碑で集合写真を撮影し、交流館へ。

起点の石碑(右)に帰ってきました。


真理子さんの指導で、ストレッチを。テニスボールを使って、足の裏をマッサージ。皆「いででー!」と悲鳴を上げながらのストレッチ。次はマットに仰向けになり、足裏を。「イデデー!」。でも、これをやると翌日の筋肉痛が軽減されると信じ、さらに腰、背中を。そんな姿を見て、子供たちは大笑い。確かに笑える姿でしょうね。自分でも、笑えてきます。

ストレッチ。


その後、スタッフが作ってくれた昼食を。蕎麦やお稲荷さんに煮付けやお漬物料理。山頂にお供えした餅も、待っていてくれたスタッフや子供たちと一緒にいただきます。

紅葉が飾られてました。


食べながら、参加者、スタッフが感想をシェアしながらのクロージング。
それぞれの参加者に、このツアーに参加しての大きな気づきがあったようで、主催者としては満足できる内容でした。

食事をいただきながらのクロージング。


「お山かけ」は、自然とヒトとのあるべき姿を、身も心も全てをフル稼働させて見つめ直す、完成されたプログラムだと再認識させられました。伝統の力とはそのようなものなのでしょう。「歩く」というシンプルな行為で、大地と語り合った2日間。ここに流れていた時間は、かけがえのない宝物として、深く自分の奥底に刻み込まれています。
文責:千葉 和(お山かけリーダー担当)










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