ご近所さんのおはなし

近所の片道徒歩15分圏内を歩き回っている。
犬がいるからである。
スーパータフなミニチュアダックスフントのせいで、毎日のお散歩は欠かすことが出来ない。知らないうちにご近所の道と住んでる犬にとても詳しくなってきた。誰が住んでるか、名字が何なのかは何も知らない。

うちの犬がお気に入りの柴犬がいる家の前を通ると、ペンションみたいに鬱蒼と木が茂る白い家がある。私がお気に入りの家だった。中に犬が3~4匹、猫もいると思う。うちの犬が前を通ると皆で大合唱をしてくれるから、ちょっとしたパニックになる。

その家の周りに鬱蒼と生えていた木が突然切られた。一本や二本ではなく、軒並み切られた。あまりに突然のことで、寂しさよりも驚きが大きかった。
初めの日は木が切られたことへの衝撃だけだったけれど、その後何回も通る内に木に隠されていたものが段々見えてきた。

倒れたまんまのパーテーション
置かれたまんまの宅配物
捨てられない捨てにくいゴミ
ずれたカーテン

木に囲われている時はお気に入りだったお洒落なお家が、囲いを無くした途端お気に入りでは無くなってしまった。
その現状を見るのが少し痛かった。

きっと勝手に期待していただけなんだろうなって、改めて思う。
見える部分がキレイだからといって、見えない部分もそうなのかと言ったら、そういうわけではないことなんて、これまでの人生何回も経験した。期待した分、何度かの失望も経験した。

思えばひどく自分勝手な話だなと思う。
勝手に期待して、勝手に失望するなんて、それなら初めから期待なんてしてくれなくていいのにって、逆の立場なら思う。
だけどどうしても、見えない部分っていつも都合よく変換してしまう。スイスイ泳ぐ水鳥が水面下で必死に足を動かしてるなんて、見えないときは想像なんて出来ない。
だからあのお家のカーテンがズレてしまってるなんて思ってもなかった。あんなに吠える犬が沢山いるなら、カーテンを引っ張ってしまうことなんて安易に想像がつくのに。

そうしてその白いお家は、私の"元お気に入り"の"現散歩の時に通る近くの木が切られた家"に姿を変えた。魔法が解けたみたいに、特別な感情ももうなくなってしまった。

犬は今日も元気にお散歩する。
お気に入りの柴犬が姿を見せない日も、気にせず楽しげに。


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