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2020年2月14日ポレポレ東中野『愛国者に気をつけろ』

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この前の推しイベからちょうど一週間。きたるバレンタイン。乙女の聖戦の日である。
因みにこの日をバレンタインイベなどと浮かれた名称で勝手に読んでるのは私だけであり
本当はタイトルの通り、バレンタインにかすりもしないストイックな内容である。

先週の準備不足、消化不良をふまえ反省し、今度こそ気合を入れ直し、謎に全身脱毛しスキンケアをしまくり下着からすべて一式新調し補正下着で腹の贅肉を限界超えて締め上げ長年の引き籠り生活でたるみ切った体系をどうにか少しでも取り繕おうと悪あがきをし
おニューの清楚系紺色ワンピを身にまとい(普段はもっとチャラチャラした子供っぽい出で立ちが多いのだが、勝手に『あの人はこういう系が好みなんじゃないかな?』と予測したチョイスである)
普段は昼過ぎまで起きられない人間なのだが、当日の午前中に美容室を予約し、必死に布団から這い出てたどり着いた。

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美容院後、近くのモスバーガーで一息つき、広いトイレの大きな鏡に映った自身を眺めた。
……我ながら「あれ、今ちょっと、自分可愛いんじゃない、か…?」などと思った。
勿論当社比である。元が引きこもりのデブスなのであるから、どんだけ短時間でムダな悪あがきをしようとそれなりにしかなりようがないことは理解している。
しかし、そのわり範囲内では、我ながらわりと頑張ったのではないか。
少なくとも、昨日までの自分と比べたら、大分マシになったのではないか。そう思えた。
そう思えなくては困る。私はもうむしろ、推しに少しでもよく思われたいなどというより、推しに会いに行く勇気を出すために、ムダな悪あがきをしているのである。

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お手紙もしたため、電車に乗る。
まず池袋で友人Tと落ち合い、一緒に乗り換えて会場最寄り駅へと向かう。

普段引きこもりだというのに、朝起きて午前中から活動し、美容院などと慣れないことをし、着慣れない窮屈な服に身を包み、履きなれないヒールなどを履き、途中で足が痛くなるだろうから替えの靴やお渡しするチョコレートなど大荷物を抱え、私はメンタル的にとくに都心の混んだ電車などが苦手でパニック障害の発作が出たりしがちなのだがなんとか耐え切り。
会場最寄り駅に着いた時点で、私のキャパは既に限界いっぱいいっぱいを迎えていた。ラリってるごとくヘロヘロの私を介護して付き添ってくれた友人には本当に感謝している。
早めに着き、会場場所をチェック後、近くのミスドで時間を調整する。
今日のために、限界まで減量に励んできたが、この時ばかりはまじかに迫った決戦に備え英気を養うため、久々にたらふくカロリーを摂取した。もはや計量を終えた試合前のボクサーのごとしである。

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映画は普通に興味深くて面白かった。
森達也監督の『A』『A2』を見た時も思ったのだが、単にオウムだから推しが出るからというだけではなく
自分、こういう社会派ドキュメンタリーみたいなものが、きっと好きなような気がする。
今まで全然未開拓な分野だったので、まだよくは分からないが。

映画の後はお待ちかね、主賓、司会のお姉さん、そして推しを交えたトークショーである。

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推し……脚……長ぇ………………。

司会のお姉さん「今日のゲストを上祐さんにすれば、チョコくれる女の子たくさん来るかなー面白いかなーと思って🌸✨」
「……いや、あの、そんな企みがあったことを、私はたった今知ったのですが…?💦」
か わ い い
可愛い。世界一可愛い。なんだあの57歳男性。もう抱きしめたいよ(犯行声明)

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トークショーの後、プログラムを購入すればサインしてもらえるらしい。
まずはダッシュでトイレに駆け込み、マッハで最後の悪あがきを仕上げた。
よし、可愛い。
勿論当社比である。元が大したことがないのだから付け焼き刃で化けてもたかが知れてはいる。だけどこれだけは断言できる。
この日この時の私は、今までの人生で、きっと一番可愛かった。

そうこうしていたので、私が最後尾についた時、既にわりと長蛇の列ができていた。
だがかえって好都合である。覚悟を決める時間がかせげる。
しかして私の番はわりと早く到来した。

目の前に、推しがいる。至近距離に。目が合う。声が届く。
25年間画面の向こう側の存在だった初恋の人に。
まず、プログラムにサインをしてもらう。この時点で感無量である。
「あの…これ……」

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私のクソデカ感情に比例するように、大きめのチョコレートの箱2つと手紙が詰め込まれた紙袋をおずおずと差し出す。

「えっ……?あぁ、ありがとうございます」
推しは、一瞬ちょっとビックリしたような顔をしたあと、わざわざ立ち上がってくれた。
まるでプレゼントなどを貰い慣れてないような、純朴さすら感じさせる反応。そんなはずはないのだけれど。
この人は、一体どこまでがファンサ的な演技で、どこまでが素なのだろうか?
「あ…の……」喉がひりつく。
私から受け取るために、私の前まで来てくれたのだ。私はこの瞬間のために、今まで頑張って頑張ってここに辿り着いたのだ。伝えねばならない。
「ずっと、好きでした。これからも、ずっと好きです」
頭の中が真っ白になる。私が一番伝えたいこと。『好きです』もそうだけど、それ以上に。貴方に一番伝えたいこと。
意を決する。顔を上げる。推しの目を見すえる。
……あれ?と思った。彼はちょっと気圧されたような、気迫負けしたような表情をしている。
そんなはずはない。彼の今までの半生や、メディア越しにではあるが窺い知ってきた性格からして、私ごときに圧し負けるなんて、そんなわけはない、のだが。
「色々、大変なことも多いかと思いますが」
一番伝えたいこと。
「私は、味方ですから、ね」
勇気を振り絞って、彼の目を見て宣言した。
そうだ。私は彼の味方になりにきたのだ。そのために会いにきたのだ。
もしかしたらそれは、彼岸への片道切符となるかもしれない。
『世間一般』から『あちら側』への飛翔。
手を伸ばし、押し付けるように紙袋を差し出した。
その瞬間、確かに一瞬彼は、ビクリと身をすくませた。
……え?と思った。ビビった?あの人が??この私如きに?そんなはすがない。そんなタマなわけがない。
でも、今、確かに……。
私の背筋を、ぶわ!!!と、激しい愉悦が駆け抜けた。
「あ、ありがとうございます……💦」
多少戸惑いながらも、推しは紙袋を受け取ってくれた。
伝わっている。私の狂気が。私の気持ちが。ずっとずっと画面の中の人だったのに。私はずっと想っていても、向こうは私の存在すら知らなかったのに。今、対面で、直接、伝わって
あんなにも波瀾万丈な死線を乗り越え続けてきた、憧れの存在、あんなにも強いはずの男の人が
今、私の目の前で、私の情熱に怯えている。
『本懐』そんな単語が思い浮かんだ。

「あの、お名前は…」
「……はるかです。〇〇はるかです」
私は事前に数ヶ月前から、TwitterのDMでやり取りをしてもらっていた。そのアカウントには、本名のファーストネームのみを記載していた。
「あぁ…!あの……」
瞬時に分かってくれた。ネット上でやり取りしてるファンなんて沢山いるだろうに。
ちなみに私はやり取りしてたアカウントのアイコンを、自撮りにしていたのだが、顔では全く分かっていなかったようだ。加工詐欺で本当にすみません……ガッカリされただろうか……それともそんなことどうでもいいんだろうか……。
「〇〇はるかさん。〇〇はるかさん、ですね」
私のフルネームを丁寧に2回繰り返す。覚えようとしてくれているのが分かった。
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
最後に深々とおじきをしてその場を後にした。

会場の外に出たものの、私はまだ未練がましく入口付近でウロウロしていた。
やれるだけのことはやった。今日のところは一先ず成功といっていいだろう。
しかしそれだけに、次の手がよく分からなかった。
年末の推しの誕生日に、東京本部へとプレゼントを送らせていただき、そこからずっとDMのやり取りを続けていた。からの、先週のイベント、そして今日。
事前にネットで調べた限りでは、ソースは明確でないが、この辺まですれば向こうからセミナーに勧誘くる、などという噂もあったのだが、
少なくとも私の場合、そんな雰囲気は見受けられなかった。
私は多少焦っていた。
DMの段階から、かなり好き好きアピール、ちょろく勧誘に引っかかりそうアピールはしてきたつもりだ。さて、こっからこれ以上、どうしたらいい?
このまま小まめにイベントに通い続けていれば、その内誘ってもらえるのだろうか?何回目くらいで?何ヶ月くらいで?何も保証はない。
考えてみれば、普通に自分から素直に「セミナーに行ってみたいです」と申し出れば済む話のような気はするのであるが。
でも、それじゃなんか、違うな、っていうか……。
『新興宗教の教祖様に、ノコノコ「ファンでーす💖」って近付いた結果、うっかり勧誘されちゃってうっかり洗脳されちゃって、うっかり破滅しちゃう、アホな女』ムーヴがしたかった、というか……。
というような「やっぱり男の人の方から誘ってほしいな💖」的クソ女様式美を望む気持ちがあったのである。
あったのであるが「もう待ってられっか」という心境であった。

多分一つしかない出入口付近でいつまでもウダウダしていると、先程推しと一緒にいたスタッフのHさんが出てきた。これは所謂出待ちというやつになるのだろうか。却って推しご本人よりも好都合ですらある。
私は彼女を捕まえるなり、挨拶もそこそこに「あのっ代表にセミナーとか誘ってもらうコツとかありますか!?」と縋り着いた。
この時点で既に、想定していた『カルト教祖様に布教されちゃってついつい……』プランから大幅にズレてきているのを感じていたが
メンヘラサブカル女の妄想するエモさ通りには、コトがすすまないのが世の常である。
そんなやっかい丸出しファンにも、Hさんは非常ににこやかに優しく対応してくださり、名刺をくださり、Twitter相互フォローになってくださった。後でDMで、セミナーの詳細などを連絡してくれるという。
なんだ女神かこの人は?

今度こそ確実に、駒を進めた。次へと繋がった。
もしかしたらそれは、後戻りできない一線を越えた瞬間だったかもしれない。
しかしそれは、私の望んだことなのだ。

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