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何故「私有地なのか」2


前回、『何故「私有地」なのか』で要領を得ないままにしてしまった、第九十二回帝国議会衆議院議事速記録における報告書に「詳細なることは議事録に讓りまして」とあった「本法の趣旨」
(本法とは、第二次国有境内地処分法のこと。)

帝国議会「議事録」を参照すると、質疑応答の中に次の様な表現が見られる。

「宗教の重要な役割を果たし得るようにとの精神」
「もともと古来社寺が持っていた土地を返す」
「親心ともいうべき特権により得られたる取り扱い」

勿体ぶってしまったが、「本法の趣旨」とは、単に「明治初頭に取り上げたものを、元の持主に返却する」という話。その中に込められた配慮(親心)を汲み取り、好き勝手なことをするな、本法の条件に違反するな、という議員や委員会の意見表明が【附帯決議】ということになる。
【附帯決議】とは、尊重されるべきものではあるが、法的な効力はない。

「本法」は、全国の数多の社寺等を対象にしており、実に様々な問題が発生した。富士山々頂の問題なども有名だ。
明治神宮の様に大正年間に創建された神社の場合は、元々の所有者という訳ではなかったので、返却ではなく純粋に国有財産を譲渡売却するという話になる。古来からの社寺よりハードルが高いのかもしれない。正当な所有者であることを立証するために、苦労することになる。

法案審議の当時でも、将来親の心子知らず、という事にならないかということが心配されている。
譲渡売払い後に、条件違反の状況になっても国家としては如何ともし難く、「宗教団体内部の自治にまつ」しかなく、「同義の問題」としか言えなくなってしまう。「本法の趣旨」親心を忘れて好き勝手なことをすると国民からの非難を浴びるよ、と言うのが精一杯なのだ。
この後、全国で国民から非難される様な状況がどの程度見られたのだろう。



「第92回帝国議会 衆議院 昭和十四年法律第七十八号を改正する法律案(寺院等に無償にて貸付しある国有財産の処分に関する件)委員会 第3号 昭和22年3月17日」より、抜粋。


002 左藤義詮
○左藤委員 この法律案の趣旨は社寺の上地處分(処分)等が行われた明治以來のそういうものの既得權を之に返すという趣旨から出たものでありますが、そういたしますれば保管林もやはり上地されたものでありますから、本來ならば全部社寺に返すのが當然と思うのでありますが、これに對して農林當局の御意見を伺いたいと思います。

(「今ちよつと係りの政府委員がおられぬそうでありますから、他の質問を先に願います。」と飛ばされる。)

055 大谷瑩潤

○大谷委員長 最後に文部當局にお伺いします。この法案は國家が新憲法效力發生前における最後の宗教團體(団体)に對する既得權を認められた法律であります。ついてはこの親心ともいうべき特權により得たる取扱いに對し、主管者が宗教法人の目的に對して長く保管する責任があると思いまするが、もしその關係する少數の者によつて賣却(売却)等の結果を生じて國家 親心を無視することになりますれば、宗教團體法の廢止せられました今日、文部省の監督權がなくなり、はなはだ放漫になりやすいように感ぜられますが、文部省といたしましては、これらに對して何か對策をお考えでありましようか、承つておきたいと存じます。



056 福田繁

○福田政府委員 ただいまの質問は、この法律によりまして讓與(譲与)または賣拂い(売払い)ました國有財産に對しまして、將來主管者あるいは二、三の者が勝手に處分するという場合にどうするかというお尋ねでございまするが、御承知のように宗教團體法の當時におきましては神社はございませんが、寺院の不動産を處分いたします場合には、必ず地方長官の認可を得なければならないような仕組になつておつたのでございます。しかしながら宗教團體法が廢止されまして、新しく宗教法人令が制定されたわけであります。この間におきまして、すべて國家の宗教團體に對しまする監督というものは全部撤廢いたしたわけであります。從つて宗教法人令におきましては、そういう寺院等におきます財産の處分については、地方長官の監督を必要としない規定になつておるのでございます。從つてこの法律によりまして處分いたします土地が社寺側に與えられました曉におきまして、法規上國家がこれに監督を加えるということはできないわけでございます。また一面この法律の趣旨といたしまするところは、もともと古來社寺がもつておりました土地を返していくのだという趣旨でございますので、それも元の所有者に歸(帰)りました曉(暁)におきましても、國家がそれを追かけてまいりまして監督するということは、はたして適當(適当)であろうかどうかということも考えられます。從つてもつぱらそういう財産の保全につきましては、宗教團體の主管者が當然責任を負わなければならないものだと思います。但し宗教法人令におきましては國家の認可は必要ではございませんけれども、不動産その他の財産を處分いたします際には、できるだけ愼重にするというような意味でもちまして、總代の同意ということが必要になつております。また教宗派教團に所屬するものにありましては、教宗派教團の主管者の承認を受けることが必要になつておりまして、こういう財産の處分につきましては、宗教團體内部の自治的のやりくりによりましてうまく運用していく。こういう建前になつております。從つてこういう場合におきましては當然國家が監督というような手を下さずして、宗教團體内部の問題といたしまして、しかるべく善處していつてしかるべきものだと思います。ただこの法律によりまして讓與(譲与)または賣拂い(売払い)をいたします財産につきましては一つの條件がございまして、宗教的活動に必要なものを讓與または賣拂いをする趣旨になつておりますので、もし將來このある一部の寺あるいは神社におきましてそれを宗教的目的の以外の用に供するとか、あるいはそれを賣つてしまうというような不當な處分をなすような場合におきましては、當然國家が宗教團體に對しまして讓與賣拂いをいたしますその時の條件趣旨と背馳するわけであります。從つてこの點におきましては、はなはだ遺憾とするわけでございます。それでありますから先ほど申しましたように、教宗派教團の宗教團體の内部におきまして、十分そういう問題につきましては善處していただきたい。かように考えておる次第でございます。

国立国会図書館「帝国議会会議録検索システム」より

続く

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