ボツというか、形になっていなかったので、もったいないから密かにアップ

8月3日の己龍のライブ良かったので。

ボツになっていた記事をここに密かにアップ

とくに読まれなくてもよい。

己龍 ライブレポート

伸ばした歌の手は、今夜も彼らの演奏という熱い想いをしっかりとつかんでいた。己龍、日本武道館公演レポート!

 4月10日(土)、己龍は通算3回目となる日本武道館の舞台に立っていた。何度も、「47都道府県ツアー」を行ない続けてきたバンドのように。年間3桁を越す本数を行なうのが当たり前だったバンドだけに、コロナ禍以降、自分たちが「在るべき場所」でライブ活動を行なえないことにメンバーたちはもどかしさを覚えていた。だからこそ彼らは、どんな環境へ陥ろうと戦う意識を忘れない姿勢を示そうと、みたび、日本武道館公演に足を踏み入れた。今回は、己龍単独巡業「千幾鵺行」~千秋楽~公演として行なった。もちろん、巡業名の千秋楽公演として行なわれた。それ以上に今回は、鬱屈した現状を打破し、バンドはもちろん。今のヴィジュアルシーンに新しい風を招き入れるための一つの挑戦としての意味も持っていた。

 己龍が日本武道館に描きだす物語は、真っ白なスポットライトに照らされた眞弥が歌う「私ハ傀儡、猿轡ノ人形」から幕を開けた。冒頭から理性のストッパーを外す破壊的な音を突きつけ、己龍は観客たちの本能を解き放とうとしてゆく。嘆く歌声と激烈した音を生み出す演奏が交錯。その衝撃に煽られ、観客たちが一斉に頭を振り乱す。日本武道館という箱を大きなライブハウスへ塗り替えるように、彼らは猛々しい演奏を舞台の上からぶち噛ましてきた。
 巨大な破裂音を合図に飛びだしたのが、「日出ズル國」。すさまじい音の洪水が身体を包み込む。その衝撃へ立ち向かうように大勢の観客たちが頭を振り乱し、その場で大きく飛び跳ねだす。日本武道館という大きな空間だからこそ、重低音の効いた演奏が、いつも以上にくっきりと輪郭を成した音として身体を直撃してゆく。眞弥の歌声も、今まで以上にダイレクトに胸へと突き刺さる。その演奏と歌声は、聞き手の理性という螺子をどんどん取り外し、心を自由に解き放つ。理性という殻を壊し、本能をどんどん引き出していく。
 猛々しい演奏は、「朧月夜」へ姿を変え、身体を、意識を激しく掻き乱す。フロア中から突き上がる無数の拳。月の力が理性を狂わせるように、己龍の演奏も、僅かに残っていた理性をすべて吹き飛ばしてゆく。鬼々としてせまる演奏へ突き動かされるままに暴れ狂え。それが、ここにいる最良のルールだ。
 高ぶる感情を空へと一気に解き放つように、己龍は「九尾」を届けてくれた。演奏が始まったとたんに、場内中の人たちが思いきり頭を振りだした。まさに己龍の魔力に心乱され、宴の中、狂ったように舞い躍る様がそこには生まれていた。参輝や武政のメロウなギターの旋律に触れ、両手を広げ、歓喜した様を示す観客たち。己龍がかけた音楽の呪術にすっかり魅了された人たちが、そこで大はしゃぎしていた。
 「我らに続け!!」。さぁ、高ぶる気持ちのままに行軍だ。轟き渡る「百鬼夜行」の演奏へ導かれるまま、誰もがその場で飛び跳ね、頭を振りながら騒ぎ狂っていた。冒頭から意識を痛く掻きむしる衝撃的な音を突きつけ、己龍はこの空間を、何時ものような小さなライブハウスと同じ熱気が包み込む空間に染め上げていった。いつもは終盤に演奏することの多い「九尾」や「百鬼夜行」を序盤で味わえたことも、いつも以上に嬉しく心を掻き乱した要因だ。

絶叫の代わりに、場内中から響き渡る大きな拍手の声(音)。「5年ぶりにこの場所へと帰ってまいりました。如何にして゛この軌跡を辿ってきたのか、今こそ見定める時です」と語ったのが眞弥。今宵の公演に懸ける彼らの気合もハンパない。

その気迫を増幅するように、己龍は最新ナンバーの「鵺」を突きつけた。舞台上には無数の炎が吹き出していた。その様は、彼ら自身の滾る熱情を具現化したようだ。次々と吹き上がる炎が、さらに勢いを加速した轟音渦巻く演奏が、身体を熱く騒ぎたてる。美しい歌を情感にあふれた声で届ける眞弥。舞い躍る花びらのような歌声を、しっかり心の手でつかみたい。荒ぶる音に身体は騒ぎながらも、嘆くような眞弥の歌声に気持ちはずっと酔いしれていた。間奏で生まれた、大きく身体を折り畳む景色。眞弥の絶叫から、高陽した気持ちのままに終盤へ。狂喜と歓喜に満ちた感情が、「鵺」に触れている間中ズッと心を包み込んでいた。
重厚かつスリリングな音の絨毯を敷きつめるように、己龍は「獄焔」を演奏。猛り狂うヒステリックな演奏が、身体中を鋭利な音で突き刺す。終始、挑む姿勢で歌う眞弥。フロアでは、大勢の観客たちが手にしたタオルを大きく振りまわしメンバーらへ想いを返せば、ツインギターの泣きの旋律に大きく手の花を咲かせ、歓喜した姿も見せていた。
 熱狂にひれ伏した我々は、その音を描きだす己龍と同じ穴の狢。「オナジアナノムジナ」が響きだすのに合わせ、観客たちが手にした扇子を大きく振りかざし、艶やかな宴の様を描きだす。真っ白い扇子が会場中で揺れる風景の、なんて艶やかだったことか。胸高ぶる豪快で雅な演奏に身を預け、大きく扇子を揺らす風景の、なんと華やかだったことか。
華やかで艶やかな宴を、濁った色へ塗り替えるように、己龍はヒステリカルでサイコティックな、でも鈍い彩りも見せる「花一匁」を演奏。会場中の人たちを、突飛な動きを示す螺子の外れた人形に変え、踊り騒がせてゆく。大きく横モッシュできないぶん、その場で少しだけ左右に身体を移動させる観客たち。その様も、今、この時期だからこそ見れる姿だ。

それまでの熱狂した風景から少し彩りを変えるように、己龍は「煉獄」を奏で、大きく唸る音で会場中の人たちの身体を包み込む。背景には燃え盛る炎の映像が映し出されれば、無数の炎も吹き上がっていた。豪放磊落な演奏が、観客たちの身体を大きく揺さぶり続ける。乱れ狂う気持ちをぶつけるように歌う眞弥。熱情した音が渦巻く中へ、気持ちも身体もすっかり呑み込まれていた。
膝をついた参輝が奏でるヒステリカルな演奏を合図に、楽曲は「伽藍堂」へ。ザクザクとしたギターの音が感情を切り裂けば、眞弥の胸を焦がすように嘆く歌声が、心を痛く揺さぶりだす。激烈ながらも雄大さを持っているように、激情と嘆きの感情を1曲の中へ交錯するように描きだす楽曲だ。嘆くように歌う眞弥の声に、空っぽな心を埋めるような演奏に、心が強く惹かれていた。
シャッフル系の跳ねた演奏が身体を心地よく揺さぶりだす。己龍は「蛇淫」を奏でながら、観客たちを艶かしい演奏でジワジワと締め続けてゆく。気持ちを弾ませる演奏に触れ、身体が自然と大きく揺れ動く。でも、いつしかその身は、とても淫靡な己龍の演奏によって気持ちも身体も雁字搦めにされていた。見ている人たちの気持ちを、妖しげな様でジワジワと締めあげてゆく己龍。この手の攻め方も、なかなか刺激的だ。観客たちも跳ねた演奏に合わせ大きく手拍子していたのも印象的だった。
武政の重厚なギター音かザクザクとした音を刻みだす。己龍は「蛾ゲハ蝶」を演奏。痛み、すさむ心模様をさらすように歌う眞弥。その艶やかで美メロな歌に心が強く惹かれてゆく。身体は騒ぐ音に揺さぶられながらも、気持ちはずっと眞弥の歌声を追いかけていた。中盤では、武政がセンター花道へ登場。その後を追いかけるように眞弥もセンター花道の舞台に上がり、観客たちの熱を少しでも身近に感じながら、艶やかな歌声へ、さらに鈍い彩りを加えるように歌っていた。

 「何時ものように声を張り上げられないように、さぞやもどかしいことだろうな。そんなこと、俺にはどーでもいい。やるかやらねぇのか!!指を加えて見てるだけなのか、お前らはどっちに付く?!来るならとっととここまで来いや!!」

眞弥の煽りを合図に己龍が突きつけたのが、轟くほどの激しい演奏と昂りきった感情のままに歌をぶつけた激情歌の「手纏ノ端無キガ如シ」だ。己龍は、現実など吹き飛ばし、こっちの世界へ入ってこいと誘いをかけていた。高ぶれ、高ぶれ、高ぶれ、もっともっと意識を消し去り、本当の自分をさらけ出せ。欲しいのは欲望だ。本気で熱した魂を喰らいたい己の本性だ。フロア中の人たちが壊れた人形のように大きく頭を振り乱し騒いでいた。理性や現実という螺子を取り外したときに生まれるこの光景こそが、己龍のライブだ。
「野箆坊」の演奏が轟くのを合図に、フロア中の人たちが、これまで以上の勢いで頭を振り乱していた。メンバーたちは、大きな動きを見せながら豪快に音を突きつける。眞弥も毛羽立った感情のままに剥きだした声を突きつけていた。誰もが感情を漆黒で覆い尽くしながら、祭上がっていた。眞弥の絶叫を合図に騒ぎ狂う様の、なんて壮観だったことか。
この場に足を運んだ人たち全員を、理性を破壊する音で皆殺しだ。己龍は「鏖」を奏で、フロア中を頭振り乱す光景に染めていった。次々と吹き上がる炎。眞弥が絶叫するたびに、会場は狂喜の色に染まってゆく。けっして狂っていたわけではない。狂いたくなるほど嬉しい熱狂に誰もが身を捧げていた。
センター花道ステージに躍り出た参輝。彼のギターが吠えるのを合図に、楽曲は「無垢」へ。日和が駆け出し、観客たちの側で演奏してゆく姿も登場。気持ちへグサグサとした刺を突き刺したまま、観客たちの感情を絶叫へと己龍は導いてゆく。その演奏が、とても痛心地よくて堪らない。熱を持った声で一人一人の心をぐっと握りつかみ、揺さぶるように歌う眞弥。彼らの演奏に触発され、沸き立つ気持ちを抑えられない。もっともっとイッてしまいたい!!
最後に己龍は、「情常ノ華」を演奏。それまでの熱狂という色に、さらへ艶やかな熱という色を描き加えながら、彼らは見ている人たちの心を天空へと舞い上がらせてゆく。彼らの演奏や歌声に触れた大勢の観客たちが、両手を大きく広げ、ときに参輝の煽り声へ呼応するように拳を高く突き上げながら、己龍と一緒に絶叫の先に広がる楽園へ心を馳せていた。咲き誇る華の代わりに熱い手拍子をぶつけながら、誰もが己龍と一緒に絶叫と熱狂広がる景色の中へ舞い上がろうと騒ぎ続けていた。

アンコール前に、メンバー一人一人が、この日の感想を述べだした。

「時間はかかりましたが、ここに帰って来ることができました。こうやって、みんなと今を過ごしている時間が、みんなとの想い出になっていくけど。現在がどんどん過去になってしまうからこそ、我々がどんどん上書きしていこうと思います」(参輝)

「この時期に武道館が出来るのも、一人一人の応援があってのこと。みなさんの応援という土台の上に、僕たちは立てています。みんな声も出せず 不便はたくさんあると思う。僕たちは、日常が戻ってきたときにいつも通りに走りだせるように活動をしていたいからこそ、その準備は大事だと思う。もちろん、未来のために頑張るのも大事だけど、今、この瞬間を楽しみたいなとも思っています。今がすごく楽しくて幸せで、今に没頭したいなと思ってて。その気持ちの大事さを、今日、改めて感じました。1日1日を楽しむことがこれからの未来に繋がっていくので、1日1日を楽しんでいきましょう」(日和)

「みんなが集まるまでにも日々いろんな苦労があったと思う。それでも会場に来てくれて、こうやってライブが成立してくれたことに「ありがとう」と思っています。己龍を守るためには、俺たちが頑張るだけじゃ成立出来ないです。みんながいてこそ己龍って作りあげられるんだなと、今日、心底思いました。会場に来てくれたみんなと、配信を観てくれているみんなの気持ちがここ(日本武道館)に集められてるなと思うだけで、僕はめちゃくちゃ幸せだなと改めて思っております」(武政)

「そりゃあ、声出して、汗だくになって楽しみたいと思うよ。今の状態を恨んでもしょうがないからね。だからこそ、今の状態でも思いきり楽しむ方法を自分の中でみつけないともったないよ。俺、今日とっても楽しい。ヴィジュアル系の可能性はまだ終わってないと思ったね。僕らまだまだ活動します」(准司)

「5年の年月を経てこの場所に帰って来れたことを、素直に嬉しく思います。良くなっていくのかなと思いきや、また情勢が代わり始めています。そんな中でも、身を挺してこの場所へ集まってくれた君たち、本当にありがとう。時間は有限です。それに、人生は一生に一度きり。君たち一人一人にとって悔いなき人生を送ってください」(眞弥)

アンコールは、今の季節へ寄り添うように「春時雨」を演奏。とても雅でたおやかな楽曲だ。己龍は、旋律の一つ一つで会場中を華やかな音で彩るように演奏していた。フロアでは、大勢の人たちが大きくタオルを振りながら、桜代わりに熱狂の花びらを振りまいていた。気持ちを力強く華やかにに彩る楽曲だ。ふたたび感情が艶やかに染まってゆく。華やいだこの気持ち、もっと爛漫に咲き誇れ!!
眞弥は、想いをあの頃へ馳せるようにバラードの「蛍」を切々と歌っていた。隠していた想いを引き出し、ふたたび心の傷へ塗りこむように歌う眞弥。淡く、儚い演奏だ。でも、その中に確かな力強さを覚えるのは、望郷の念に浸るだけではない、しっかりと前を向いて進もうとしてゆく気持ちが、そこには生きていたからだ。美しく、たおやかな。でも、壮麗な演奏と歌声が、胸にジーンと染み渡っていた。
さぁ、心の声を上げろ。共に大きく手を振りかざし、この曲を心の中で歌おうか。僕らと己龍を何時までも結び続け、共に進むべき道を照らしてゆく「叫声」の登場だ。互いに傷を嘗め合うのでも、慰めあうのでもない。互いに弱さを認めたうえで、ともに傷を見せ合ったうえで、一緒に進もうと彼らは誘いをかけてくる。眞弥は、「僕の叫びは君に響いてますか」と歌いかけてきた。もちろん、その声は強く胸に響いている。彼ら自身が血なまぐさいままに傷を晒してくれるからこそ、僕らも、傷ついた裸の姿で彼らの心に手を伸ばしていける。たとえグチグチとした傷だろうが、堂々とひけらかし、彼らに心の声を届けたいし、そうしたくなる。「叫声」を聴くたびに、互いに伸ばした心の手を、温もりを感じながら握りしめられる。そのひとときを味わいたくて、僕らは彼らの元に裸の姿で足を運び続ける。
最後に己龍が届けたのが、凩」だ。何時、いかなるときでも、彼らは苦しい心に寄り添い、しっかりと僕らを未来へ導いてくれる。僕らは現実を忘れたくて、彼らのライブに足を運ぶ。もちろん、それも理由の一つだ。でも一番の理由は、僕らも彼らにも同じ弱者の血が流れていることだ。弱い心でも未来はつかめるんだという勇気を手にしたいからだ。いつだって己龍のメンバーたちは、傷ついた姿や弱ささえ晒しながら、共に手を取り合い明日へ歩もうと僕らを導いてゆく。弱い僕らを未来へ連れていってくれと求めてゆく。僕らと彼らは、何時だって同じ線上に立つ仲間だ。そこに、優劣なんてものは存在しない。少しだけ前を走っている己龍というメンバーの心の弱さを支えながら、もっと心の弱い僕らは、もがきながらも輝きを放ち続ける彼らの姿から、揺るがぬ信念を貫く強さがあれば今を乗り越えられるという勇気と自信、そして励みをもらえる。自信を胸に明日へ進める自分になりたくて、彼らの歌やパフォーマンスに背中を押されたくて、僕らは己龍のライブ足を運ぶ。本当なら眞弥と一緒に歌いたかった。いや、心の中では熱唱していた。伸ばした歌の手は、今夜も彼らの演奏という熱い想いをしっかりとつかんでいた。伸ばしたその手を未来へ向かう糧にしながら、僕らは明日も生きていく。その手にふたたび輝きをまぶすためにも、また己龍の元に足を運び、弱者に寄り添う彼らの声を受け止めようと思っている。


TEXT:長澤智典



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