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新しいきみへ

三都慎司先生の「新しいきみへ」を読みました。

以下、ネタバレと考察なので、読んでいない人は読まないようにしてください。とても良い作品なので、読んでいない人は是非読んでみてください。

リンクは下記。





以下は悟と相生が二人で生きる未来が見たかった人の落書き。

悟は6巻 第23話 転の回で「あともう…二度と声を…かけないでください…私の過去を知ってる人と会うのはきついです…」とは言うものの、
5巻 第17話 碧の回で「若い頃は関係を必死にリセットして乗り切ろうとしますが、それってやっぱりその後の人生は何かが欠落するんです。つらい過去をなかったことにしても、嘘を重ねて生きてるみたいに一度も堂々と生きられなかった。だから思い出させてくれて、ありがとうございます」とも語っている。

1巻 第1話 結の回の81回目の時の相生の幻覚は「昔の友達」で、4巻 第16話 屡の回の82回目の時の相生の幻覚は「初恋の人」になっている。
悟は81回目の相生に、あってはいけないのだけど、少し恋心を抱いていたのではないだろうか。

81回目から話はトントン拍子に進んでいく。
それは悟が5巻 第20話 鉄の回で語ったように「僕はもう逃げない」という覚悟を持ったからだと思う。
この言葉、2巻 第5話 星の回にも似たような発言がある。
相生とホテルに入ったあと、事後?の悟が「高校時代の夢でした。つまらないので話したくありません。昔の自分はどうにも嫌いで…。いい思い出がないんですよ。弱くてどうしようもない自分だったので。」
「いまは?」
「いまは…今は昔よりすこしだけ強くなった気がします」
「もう逃げないね先生は」
「毎日逃げてばかりですけど…」
「私が保証する。あなたはもう逃げない」
実はここが相生の物語の転換点だったのではないか。

相生は優しい人で、83回目、普通が取り戻された後、悟の「もう…二度と声を…かけないでください」という言葉を守って自分から声をかけたり、文立女学院に進学することもなかった。

3巻 第12話 承の回で「私は昨夜…本当にセックスしてしまったのでしょうか?」「じゃあ内緒にしとく」という会話があり、私達には本当のところは知りようがなく、どう解釈するのかは私達に委ねられている。
私の思う答えは、2巻 第5話 星の回の悟の言葉の通り、「やってしまった」のだろう。
優しい人だから、敢えて悟を想ってはっきりしたことを言わなかったのではないか。

相生は3巻 第10話 廻の回で「もう何十回も何も覚えていない悟くんと出会って、ずっと悟くんを好きなまま、いつの間にか私は悟くんの年齢をとっくに追い越しちゃったけど、やっとここまで来れたんだ」と言っていて、それほどまでに悟を想う愛や、これがきっかけでなかったことにしていたつらい過去を思い出し、堂々と生きられるようになったことで、悟はもう逃げなくなったのではないか。

また、81回目で悟がつらい過去を思い出したことで、82回目の4巻 第16話 屡の回で悟が濱名との約束を思い出すに至るのではないか。

2巻 第5話 星の回で悟がつらい過去を思い出したのは、つらい過去を理性でなかったことにしていただけで、その瞬間、本能が理性を上回ったからではないか。

相生自身は5巻 第18話 険の回で「ってか悟くんはこいつのなにがいいの?声でかいし全身タバコ臭いし、顔とスタイルで悟くんは騙されたのかもしれないけどさ、私の方が若くて良いでしょ。その指輪だって私の方がさぁ」と思うほど、佐久間亜季のことが好きではなかった。けど、同回の佐久間亜季の「頼るやついなさそうで、かわいそうだからかなぁ?」という言葉と、恐らく同じ5巻 第17話 碧の回の悟の「味方のいない子供の味方になってあげたかったんです」という言葉を重ね合わせ、「あー…やっとわかった。二人って似てるんだね」と言い、「繰り返してきてつらいことばっかりだと思ってた。でももし…1つでも良かったことをあげるなら、人間ってものをもっとよく知れたことだったかもしれない」と二人の関係性を認め、5巻 第20話 鉄の回で「良かった…亜季…」とあの表情で想うに至るのではないか。

相生は悟のことを愛し、悟の言葉を尊重し、83回目では文立女学院まで会いに行くが、声をかけることはなかった。

6巻 最終話 新しいきみへで「あの無限に続く半年間は二度と来なかった。私は目覚めるたび今日がちゃんと昨日の翌日かを確認しては毎日が続いていることに安心した。でも同時にあの日々が不思議と愛おしく思えたりした。そのたびに悟くんがよく言ってた『自分に同情するな』という言葉を思い出した。私はもう『相生亜季』ではなく、『荻野七緒』の人生を生きていくんだ」という言葉の後に、「ん〜〜なまえなまえ〜『亜季』にしよう。たしか奥さんの名前が「佐久間亜季」。こういうので運命感じちゃったりするかもにゃー。名字は…出席番号で一番最初だと最高の登場だね。相田…愛川…いや待て相生!今日から私は『相生亜季』。悟くん…きっと好きになってくれるよね」という描写が入る。
これはその想いが詰まった特別な相生亜季ではない、荻野七緒の人生を生きていくということなのだろう。

同回で「どれだけ記憶が薄れても、悟くんのことはしっかり覚えてる。あれはたぶん私の初恋だったんだ」という言葉があるが、初恋でもあるし、何十回出会い悟のことをよく知っていって悟の年齢をとっくに追い越しても想い続けられるほどの愛でもあったのだろう。

(追記2024/3/9)

4巻 第13話 継の回で「次こそは卒業までいれるよ。せんせ…」という言葉の通り、82回目の相生は当初悟のいる文立女学院に進学して、卒業まで一緒にいるつもりだった。そして、同回では「ふつうがいいの」とも語っていた。けど、物語の最後で普通を取り戻した代わりに、4巻 第16話 屡の回で「先生さえいれば、私はそれだけで生きていける。こんな好きな人とのハイライトみたいな日々を何度も繰り返して生きていけたらそれでいい」と語った、好きな人との日々を失うことになった。

相生には『一つの根元から幹が分かれて生えること。また、二本の木が途中でいっしょに付いていること。また、そのもの。』という意味がある(コトバンク 精選版 日本国語大辞典)。

これは私の想像で、作者の意図とは異なるかもしれないが、6巻 最終話 新しいきみへで、相生は「名字は…出席番号で一番最初だと最高の登場だね。相田…愛川…いや待て相生!」と語っているのみだが、相生は共に生きるという意味も込めて相生という名字を選んだのかもしれない。そして、「無限に続く半年間は二度と来なかった」83回目、『荻野七緒』の人生を生きていくことになり、図らずも『相生亜季』の人生と別れることになった。

4巻 第13話 継の回に共に書いてあるが、この物語には何度も出てくる言葉が二つある。一つは悟の「生きててよかったと心から思える日がきっと来る」、もう一つは相生の母の「堂々と未来を選択して後悔せずに生きるのみ」だ。
相生はきっと堂々と未来を選択した結果、悟の言葉を尊重し、文立女学院に進学せず、悟に声をかけなかったのだろう。
そして、もしかすると、そんな悟の年齢をとっくに追い越しても想い続けられるほど好きな人と会えない、話せない日々を選択したなかで、生きててよかったと思える日が、最後の悟と巡り逢うシーンなのかもしれない。

(追記終わり)

本当は悟自身、堂々と生きるためにも自分の過去を知り、それでも深く愛してくれる相生と一緒になった方が幸せなのではないかと思う。

もちろん、結末は良かったと想う。
正直色々考えると作品の結末がベストだと思う。
これはただの悟と相生が二人で生きる未来が見たかった人のつぶやき。

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