水車ダンマス編 第3話

103 1陸戦隊敗走す 2専守防衛 3トンビがくるりと 4水軍司令のワクワク 5意外に強敵

 森の東に、二個小隊を派遣する事になった。若い隊員から質問がでた。
「エルフの管轄じゃないんですか」ぶっぶー、エルフと言ってはいけないよ、森人といいなさい。
「神樹の領域から外れてるからねー」
「空軍府の防空は手伝ってくれてるじゃないですか」
 あれは相互扶助、神樹の防衛手伝ったからお返しして貰っただけ。
 シャオが手を挙げた。はい、シャオ君。
「案内は何人か出せる」
 念のため言うとシャオは森人=エルフの代表でもある。
 元々排他の気風が強い森人にしては十分過ぎる対応、なにかあるのか?
(シーキューシーキュー)シャオの念話だ。
(双方に被害が出過ぎないように、族長が配慮)
 森人も神樹の意を受けていて、[歪な結節点=歪なダンジョン]を潜在的な同盟機構と見なしてるらしい。
「まあ、質問はこれくらいで。とまれ、命大事にで行こう、やばそうならとっととにげてね。集落付近を確保できたら十分だから」
 あれれ、古参の兵曹達も腑に落ちない顔をしてるよ、まずいな。新装備の真空ジャケットの実戦評価試験て事で納得して貰えないかな。
 送り出して半日もしない内に帰って来た。敗走だ。戦死者は出なかったが重傷者が何人かいるらしい。訓示が悪かったのかなぁ、あんなんじゃ士気揚がらんもんなぁ。
「ゾンビアタックであります」
 指揮官の少尉が報告してきた。いくら弾を撃ち込んでも倒れずに向かってきたそうな。よく戦死が出なかったな。
 「真空ジャケットのお陰であります」
 相手の重量が軽かったらしく、刺突はほぼ無効化出来たらしい。接近戦で関節を撃ち抜いて無力化出来る事が判ったが、弾薬が持たず撤退を決めたらしい。
 うん、良い判断。

「マスター、隣接するダンジョンからクレームが来てます」
「げっ、ダンジョンウォーのパターンかよ」
「先日排除したゴブリンの保護をしていると」
「なのでゴブリン領域の返還を求めています」
「でもゴブリン野放しにしたら、うじゃうじゃ繁殖するじゃんか。俺の嫁達も危険だし」
「繁殖率はそう高くないです、大体人と同じですね。それとゴブリンが積極的に人を襲うことはまずありません」
「え?」
「そんな事をしたら、あっという間に淘汰されるに決まってるじゃないですか」
「人間やエルフの娘拐って苗床にしたりしない?」
「しません。交配は可能ですが、異種族に欲情する事はまずありません」
「…」虎治は絶句した。
「もしかして、俺のした事って、ただの虐殺?」
「はい、正当性の欠片もありません」
「なんで止めなかったんだよ!」
「止めろと言われなかったからです」
 虎治は漸くコアが人とは違う論理で動いている事に気付いた。
「…人形達を引き揚げさせて…」
 これからは必要ないのに外に出たりするのは止めよう。 専守防衛だ。

 サルー司令は久方ぶりの偵察行上にいた。陸軍との合流に強襲艦隊四隻が向かっている。その道程の偵察分隊二番機である。
『司令、合流点見えてきたっすよ、上空で挨拶した方が良いっすかね』一番機の中尉が訊いてきた。
『一番機は、君だ、詰まり指揮官も君だ、任せる』
『了解、じゃ、編隊宙返り行くっすよ』
『ちょと待て』
『待たないっす、指揮官命令っす』
 ぐぬぬ、言質取るための質問だったか。中尉が訓練用の緊密編隊を指示してきた。マジでやるつもりだ。
『んじゃ3連続宙返り行くっす』
『ちょと待て』
『待たないっす、サン、ニイ、イチ、今!』
 この日、合流点に駐留していた陸軍将兵は上空で見事な曲技飛行を行ったのが、空軍司令自らであったと知り、大いに嘆息した。そして思った。空軍あるかぎり我らは負けない。

 水軍の巨大水車発動機が回りだした、そちこちの艦船の横腹から真っ白な蒸気が吹き出す。余分な圧力を逃がしてるのだ。それはつまり、出航の準備が出来たと言う事でもある。
 水軍の艦隊司令は飛空挺母艦を旗艦に選んだ。偵察機の情報を一番に取得できるからだ。艦隊は出港すると、速やかに幅の広い複縦陣を組んだ。簡単に陣形を変える事の出来る使い勝手の良い陣形だ。早速下層甲板から翼を折り畳んだ飛空挺が揚がって来た。
「自動で翼の展張が出来ればそのまま飛び立てるのではないか」
 司令が傍らの艦長に語り掛けた。
「行く行くはそうなるでしょうが、現在では重量超過になるため、採用しておりません」
「浮力を強化すれば良いのではないか?」
「問題なのは慣性重量で、重くなると急旋回時に翼が折れます」
 成る程そう言う事かと、司令の話題は変わっていった。なにしろ初めて乗る艦だ、知らぬ事も多い。

 陸軍がなんとかでっち上げた二十両の無限軌道戦車は骨組みだけは頑丈に、しかしペラペラの合板を貼り付けただけの、それだけでは張りぼてとしか言い様のない物だ。それが空軍からの真空魔石を使えば立派な装甲車両になる。なにしろ、なまじの物は物理でも魔法でも選ばす弾き飛ばしてしまうのだ。勇者から滷獲した雪上戦車と比べても防御力に然程の見劣りはない。その戦車が横隊を組んで進む。向かうところ敵なし、誰もがそう思った。
「飛空挺!正面!」
「報告は正確にしろ。あれは気球だ」
 しかし、形状的には飛空挺を模している。ただ舷側に張り出したバルジがやけに大きく、真上からみれば円盤型をしているだろう。
「対空戦、待て!空軍が来た」
「散開!散開!」
 新造戦車には大きな欠点がある。重量が軽すぎて、至近弾で簡単にひっくり返ってしまうのだ。固まっていてはまとめて無力化されてしまう。
「いっそ、真空を強化して空飛べるようにしたらどうですかね」
 操縦士がのんびりと提言するが、陸軍技官達の手で既に試作が始まっている。軍機なのでおおっぴらには語れない、車長は「工廠がその内作るだろ」とだけ答えた。
 円盤機は鈍重そうに見えて、意外に機敏な動きを見せた。ばかでかいバルジが翼の役割を受け持っている様だ。速度が圧倒的に違うので鷲型の優位は変わらないが、クルリと背後を取られ反撃を受ける場面も見られた。
 もし、気室操作の簡略化がなければ、負けることはなくとも、駆逐する事は出来なかったかも知れない。勝負を決めたのは高度を速度に変える事が出来る浮力を切っての急降下だったからだ。
 円盤機を三機撃墜したが被弾機は六機を数えた。

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