水車 第三章 第10話

 (ここは、ウロの中、只の人が神樹と交信出来る唯一の場所)シャオ!どこに居るんだ。みんな心配してたぞ。
(迷子?)小首を傾げるシャオを幻視する。
 神樹からレコードのアーカイブに分け行って飛竜の事を調べてたら抜け出せなくなったらしい。
「食事とかどうしてる」
(問題ない、欲しいものが好きなだけ出てくる)ギクリとした。これは、あれだ、肉体が滅びて精神が神樹と融合したとかのパターンじゃね?
(融合したのは勇者)はい?
(飛竜と融合、先の飛来はそれに因る混乱が原因)また勇者か、つくづく祟る奴。
(それより、司令、これに乗って)うぉっと!
目の前に鷲型をふた回り程小振りにした飛空艇が現れた。
(森人の丸太気球)え?これが?
(操舵席回り以外は整形した真空に隠蔽魔法応用の表皮を貼った物)
 手触りは見た目同様木質だ。すげーな森人。鷲型と同じ段差のある複座。
(操舵席は前、後ろは真空制御席)後席には既に誰か乗っていた。

「急いで。飛竜が王都に向かっている」
伝声管を通してシャオの声、振り返ると、木目人形が座っている。
「同期した」端的なご説明ありがとう。主語と目的語ないと分からんぞ。
「主語=シャオ、目的語=木目人形。逆でも可」
 ウロの中である筈なのに離床すれば既に森の上空で、眼下に神樹が見えた。
「空軍にも出動命令出したいが」
「足手まとい」いや、皆俺より優秀な操舵手だぞ?うお、なんだこの加速は。
「高性能水車を使っている。この飛空艇は餌」え?俺たけで出撃?てか、食われちゃうの?
「飛び降りれば問題ない」そっかー、それなら安心って、核爆発するじゃん。ダメダメじゃん。
「戦艦が先行している、心配ない」なんか、考えてくれては居るらしい。
「それより魔石、忘れない内にそこの窪みに」あー飛竜に食わせろとか言ってた奴か。この窪みかな?ぽちっとな。これ食わすとどうなるんだ?「たぶん眠くなる」は?魔素の運用を阻害するんだそうだ。
「戦艦?出たって事は森人空軍も出てるのか?」
「丸太気球は神樹の魔力に依存している。森からはあまり離れられない」
 空軍府にきてたぞ?あの辺りが限界なんだ。てことは、竜骨戦艦と俺だけかよ。
「戦艦の方に追い込むのが第一、その後離脱して機体を食べさせる」難度むちゃくちゃ高くない?

 水車の元となる湯石は、シャオの言に依れば神樹の種である。勿論それはシャオ一流の比喩であって、湯石から神樹の芽が出てきたりする事はない。湯石は密に折り畳まれた膨大な空間魔法の術式で殆どが魔素でできている。ただし魔素に質量はないので、存在としての数の事だ。
 そして、その魔素=術式を固定化するのが物質で主にケイ素だが質量さえあればなんでもいいらしい。湯石も長い年月を掛けて成長する。水を吸い込み水蒸気を吐き出す過程で不純物の一部を取り込み紐付けられる物質を増やす。その物質が十分に増えれば術式が展開し新たな結接点が生まれる。
 もっともそこまで育つことは本当に希で殆どが動植物に魔素を吸い出されて崩壊してしまう。
「湯石って魔法的に無茶苦茶固いんだろう?」
「育つまでに数万年掛かる。数万年掛けて齧ればどんな固い物も消える」
 王都までのさして長くもない道中、俺とシャオ人形はそんな話をして退屈をまぎらわせた。
「戦艦が飛竜を見つけた。割りと近い」おっと、切り替え切り替え、戦闘モードおん。

 まず王都から引き離す事から始めた。これは水車発動機のおかげである意味簡単だった。此方を認めるや否や、猛然と向かって来たからだ。ただ逃げれば良いって、飛竜の方が早いじゃん、うぉっと!
 木目シャオの真空操作は中々のもので飛竜の鼻先寸前で交わす事数度、
「反転して機体を食わせて」
 戦艦が丁度良い位置に居るらしい。水平飛行で鼻先に突っ込んで寸前で背面になる。ベルトは外してある。俺降下訓練さぼってたのまじで後悔。
「シャオ!」シャオが降りてこない!
(慌てすぎ、あれは人形)久々の念話だ。そうだった。真上に広がった降下布が邪魔で滑空する。おぉ、竜骨戦艦から芽吹いた枝に絡み捕られて、てか、繭みたいになってる。なんか光だした、やばくね?
(大丈夫、予定通り)シャオ何処で見ているんだ?
(戦艦の舳先)え?見ると、確かにシャオらしい人影が此方を向いて小首を傾げていた。なにしてんだ!飛び降りろ!そこから離れろ!
(制御が繊細、付いていないと暴走する)
 さようなら、最後にシャオはそう言った。繭は竜骨戦艦を引き込んで爆縮を起こし、しかし、続いて起こる筈の核爆発は起こさず唐突に虚空に消えた。
 なんで皆いなくなるかな…。

 目の前の巨大なゲートを見上げる。
 ああ、これは知っている門だ。
 しずしずと門が開く。
 その向こうには見覚えのある町並み。勇者は駆け出した。
 帰ってきた、帰ってきたんだ。
 しかし、門までの距離は近づくに連れ延びていく、無限に無限に。
 勇者は走る、永遠に。
 永遠に走り続ける。

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