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原子心理学実験レポート001

2010/5/21(金)の実験(第一回目:熱電対)
※以下、私がT大学の一年生のときに大学に提出した自由研究の物理学実験レポートの一部(特に理論部)を残しておく。量子物理学の理論モデルによって古典物理学の現象を説明しようという試みが主であるが、後に学んだ知見を入れずに分析精度は低いままにした。

1:産業用温度センサなどとして幅広く使われている熱電対の原理と使用法について

<原理>
 熱電対は、ゼーベック現象によって生じる熱起電力を計測することで、外部の温度変化を逆算するセンサである。
(以下、加熱端のエネルギーの引き受け手(キャリア)が電子である場合のゼーベック現象について記述する。)
 金属結晶は、個々の原子の電子殻から離れた自由電子が結晶格子中を動き回って分布させるクーロン力で、多原子間の安定な結合を保っていると考えられている。
 ここである金属棒の一端を加熱し、もう一端を冷却したとすると、高温側の熱エネルギーは自由電子の運動エネルギーに変換されるため、自由電子が金属棒内全体のエネルギーを平均的に分布させようと低温側に移動して、電子の密度に偏りが生じる。
 こうして加熱端が正、冷却端が負の極性を帯びはじめ、やがて正→負の向きにつくられる電界の強さが電子の拡散しようとする力とつり合って平衡状態に達する。
 このときの温度勾配に起因する一定の電位差を⊿V、加熱端と冷却端の温度差を⊿Tとすると、

  ⊿V=S⊿T ――①

…の関係があるので、⊿Vは熱起電力と呼ばれる。
 Sはゼーベック係数(熱電能)であり、物質によって異なる電子比熱Ce(イオンからの影響や、電子間相互作用の強さに左右される電子の動きやすさ)に比例する値で、特に金属ではこの係数が温度変化の影響を受けにくい。

 S=Ce/e ――②  (ただし e:電気素量)

 つまり、使用する金属の対応表を作っておけば⊿Vを計測することで⊿Tを知ることができるのだが、通常、単一の金属のみでは生じる電位差の限界が小さすぎて(その狭い振り幅の中で計測しなければならないため)温度センサとしての精度を求められない。そこで、フェルミエネルギー(電子殻軌道に電子を詰めていったとき、球表面の自由電子が持ちうる最大エネルギー:式③)の差が大きい金属同士を結んで熱電対とし、より大きな電位差を生じさせて測定の精度を高めてやるのである。

Ef=h^2f^2/2me ――③
 (ただし h:プランク定数、kf:フェルミ半径、me:電子の質量)



2010/6/4(金)の実験(第二回目:超音波)
2:波動のひとつ、疎密波である超音波の振る舞いを調べることで、諸々の探知や物質の構造解析などに利用される波動現象の基本的特性を理解する。

<原理>
 波動とは、空間内のある一点(波源)における変化が隣接する場に影響を及ぼし、この瞬間につくられた波面上のすべての点が自ら新しい波源となり、同じ速さ、同じ振動数の球面波(素元波)を送り出すことで、はじめの変化を次々周囲に伝えていく現象である。
 波には大別して、空気や水などの媒介物を必要とするもの、媒質を必要とせず自らエネルギーを持つ粒子となって進んでいくものの二種類があるが、超音波は前者に属する(後者は光、すなわち電磁波)。
 例えば、マイクロホンは、風速変動ではなく細かな気圧変化を捉え、生じる電圧から音波を検出する装置である。空気の一部が押し縮められると、それに反発する力(弾性力)が働いてその部分の空気を押し広げる。逆に、押し広げられたなら、空気の弾性力によってその部分は押し縮められる。こうして生じる圧力の変化が次々と隣接する空気(ほぼ窒素、酸素分子に湿り気として感じられるH2O分子を加えた集合)に及んで「波」として伝わるのが音波である。
 個人差があるが、ヒトの耳はほぼ20Hzから2万Hz程度の周波数の音を感じる能力を持っている。この可聴範囲内の音波を「可聴音」、それより下を「可聴下音」、上を「超音波」と呼んでいる。

ちなみに、音波の減衰については主に三つの原因がある。

①「幾何的減衰」
 空間内を広がることによる減衰。
 一点から出た音は初めは発生源近くの小さな球面状にエネルギーが集まっていたのに、広がっていくことでさらに大きな曲面状にエネルギーが分散するようになり、圧力の変動幅が小さくなっていく。
②「非線形減衰」
 音波は伝播によって形を変えないが、例えば発生源のすぐ近くでは、大気圧に対する圧力変化が無視できない大きさを持つ(密度の薄い大気を伝播する場合も同じ)。圧縮部分は温度が高くなるため速度が大きく、逆に膨張部分は速度が小さいので、相対的なずれを生じる。波が前後に引き伸ばされれば、それに応じて圧力の振幅も小さくなっていく。
③媒質の粘性によるもの
 音波は圧力変化だけでなく空気を構成する分子の運動も引き起こすので、隣りあう分子の集合がこすれあう(分子が衝突する)とき、粘性によってエネルギーを失う。その効果は空気が激しく振動するほど大きいので、周波数の高い超音波はなおのこと強い減衰を受ける。
 理論上は、同程度減衰して進める距離は、周波数の2乗に逆比例する。

<超音波の産業的応用>

 超音波の本格的な産業利用がはじまったのは、水中の障害物をとらえるソナーとしてだった。1912年に豪華客船タイタニック号が氷山に衝突して沈没した事故、1914年から勃発した第一次世界大戦で、英仏がドイツ海軍のUボートによる無制限潜水艦作戦に対応する必要に迫られて以降のことである。

たとえば、イルカは視覚がさほど鋭くないにもかかわらず、微細な障害物も鋭敏に回避する。これは彼らが超音波を利用した高度の反響定位能力をもっているためである。イルカは鼻道の付近からクリック音と呼ばれるパルス状の超音波を放射し、その反射音が戻ってくる時間と方向から対象物の形や位置を探知したり、仲間とのコミュニケーションをとったりしている。
(ただしイルカが超音波を発していることがわかったのは、第二次世界大戦中のアメリカにおいて。超音波ソナーが潜水艦の侵入を探知しているのに、それらしきものは発見されないという事件が多発し、調査の結果、イルカが超音波の発生源であることが判明した。)

現在では軍事目的の探知装置として、戦闘機のレーダー(空中)に電波、潜水艦のソナー(水中)に超音波と使い分けられているが、その逆がないのは何故であろうか。

 これは、電磁波と音波とで媒質に対する振る舞いが異なるためである。たとえば、水面における屈折現象を考えてみればよい。
 波の振動数は、異なる媒質へ移動するときでも一定のまま変わらない。しかし光や音が空気中から水中へ進む場合、両者がたとえ同じ振動数であったとしても、水の中の速さは空気中の速さに対して、光では遅くなり、音では逆に速くなる。
 音の場合は媒質の密度が高いほうが伝わりやすいが、光では原子に衝突して電磁波を出させ、またその電磁波が衝突した原子に電磁波を出させ……と伝播するのに余計な手間がかかってエネルギーを多く分散させてしまうのである。このために、界面での屈折の仕方が逆になる。

 また、一般に波は、波長が短く(=振動数が大きく)なるほど減衰が激しくなる代わりに指向性と分解能が高くなる。
 あまり波長が長すぎては潜水艦や飛行機などに当たっても回折してしまってそこに対象があることを感知できないが、しかし短すぎても対象に届く前に波が減衰しきってしまう。
アクティブ・ソナーに可聴音ではなく超音波が使われ、レーダーにラジオ波ではなくマイクロ波(0.1mm~1m)が使われるのはそれがちょうどいい波長だからである。

第一次世界大戦でははじめイギリスは水上艦用にASDICと呼ばれるアクティブ・ソナーを投入していたが、これは可聴音波を使っていたので四方に分散してしまい、対象の方位測定精度が悪かった。
 しかし高速水流と振動板からなる機械的な装置では、要求される周波数の超音波をつくりだすことは困難であって、この問題を解決するには水晶の圧電効果の利用を思いついたフランスの物理学者ランジュヴァンの登場を待たねばならなかった。
 ランジュヴァンは水晶を厚い鋼の電極ではさむことで、一定の半波長で共振する超音波発生器を考案した。これはランジュヴァン型振動子と呼ばれ、潜水艦や機雷、魚群などを探知する超音波ソナーとして実用化されるようになった。

 現在では、より強力な超音波発生素子としてフェライトなどを使った磁歪振動子やチタン酸ジルコン酸鉛などを使った電歪振動子などが開発されているが、安価に製造できるこの水晶振動子(クォーツ)は、改良が重ねられ、今も時計やパソコンなどに正確に時を刻ませるための部材として使われている。



20XX/1/20脱稿
論文「ツァラトゥストラ」の解題:

 人間は、認識できるイメージの空隙(文章の行間)を半ば自動的な空想(ファンタジー)で埋めるようにして生きている。故にこそ、物語の主人公がその対象の細部に働きかけたときにきちんとした反応が来るかどうかで読み手の官能的刺激(リアリティ)も定まるのである。
 そのように生きた虚構による小説をつくるために最初のプロット立てで行う必要があるのは、各シーン毎のイメージの流れ・配置を概観しておくことである。
 つまり、任意で状況を設定した上に、直観的なひらめきや、視・聴・触・嗅・味覚イメージを連想させる指示文(2~3種の複数の感覚器官で刺激を再現できるように選んだ指示語を並べて組み合わせたもの)を現実を再現する時間軸に沿って構成する(1話で桜の言う位相と変位の話)。
 のちに、そうしてできた背景世界に対してキャラクターがどういう反応(感想・分析・感情)を持つかを適切なタイミングで割り込ませる(3話で桜の言う、主人公によって世界の捉え方が異なり、さらに読み手によって主人公の体験する世界への反応が異なるという話)。
 ここで主人公の捉える世界に説得力を持たせるためには、自分の中で再現しやすい人格かある程度タイプの偏っている人格を用いるのが好ましい。何故なら、世界を認識し適応するために頼る基本的な優先機能と、逆に使われていない(あるいは欠落している)機能を設定し、自由に動かせるようになるまで彼の生きてきた軌跡を確率統計論によって運動方程式を求めて設定してやらなければ、一貫性を持たせながら成長させることができないからである(3話で桜の言っていた運命の確率分布の話、4話でPの言っていたアイデンティティの話)。
 つまり、この場合、無限集合の集まりに対する選択公理を導ける糸は当人が認識できる人格だけだからである。


参考資料――
「タイプ論(第一、十、十一章)」C.Gユング著、林道義訳、みすず書房
「連想実験」同上


補遺:
 ここで試みられているのは、上記の理論と、一対一の関係性のシンボルを用いることによって心の更新を司る機能を活性化させることである。すなわち『死』を意味する対象への没入と、『再生』を意味する人格の境界線の引き直し。
 物語中ではおよそ人間がもちうる属性を二人の少女に正対称となるように振り分けているから――思考・感情・感覚・直観といった――機能と同一化して社会に適応または埋もれてタイプへと偏った人間なら、玲菜と桜のどちらかに感情移入して物語を追体験していくことになるだろうし、同一化したり隣に寄り添ったりしていくうちに残る一方の人格が読み手のアニマ(内面世界との関係機能)を呼び覚ますはずである。それによって、あまりに一面的になって硬直・停滞していた生にエネルギーが流れ込んでくるように構成されている。
 神坂玲菜が<感情、直観、文系、温かい生活、周囲の皆を優先する、物事の中枢に位置する人々、信じる心、太陽、調子がいい時怠ける心、ノブレス・オブリージュ、…>、中野桜が<思考、感覚、理系、孤立、自己中心的、破滅的な傾向を持つ人々、空虚、月、諦めない心、武士道、…>などといった属性を振り分けられており、このうち強く共鳴する性質がどれかひとつでもあれば、交互に切り替わる人格世界で自分が相手の立場になり、相手が自分の立場になるのを体験しながら自分の辿るべき道筋に沿って徐々に人格が更新されていくのを理解するはずである。

参考資料――
「元型論(特に二、三、四、九章)」C.Gユング著、林道義訳、みすず書房
「心理療法論」同上
――以下は高度であるからさらに研究したい人向け――
「ヨブへの答え」同上
「転移の心理学」同上
「個性化とマンダラ」同上

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