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「金融サービス提供等法」成立の意義?

 2023年11月20日に第212回国会で成立し、同年11月29日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行)では、「金融サービスの提供に関する法律」の題名が、「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」(以下では、「金融サービス提供等法」と略称する。)に改められた。2001年施行の「金融商品の販売等に関する法律」(「金販法」と略称されていた)が、2020年6月12日公布(2021年11月1日施行)の「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」により、「金融サービスの提供に関する法律」に変更されてから、再度の題名変更である。
 この改正では、改正前の金融商品取引法36条の誠実公正義務に係る規定が削除され、金融サービス提供等法2条において、金融サービスの提供等に係る業務を行う者に対して、横断的に、「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」とする規定が新設された。
 このような改正が行われるに至った経緯は、2017年3月に策定された「顧客本位の業務運営に関する原則」にさかのぼる。本原則では、金融事業者が主体的に創意工夫を発揮し、良質な金融商品・サービスを提供することを促すため、プリンシプルベースの取組が行われてきたものであるが、金融商品の販売会社において、リスクがわかりにくく、コストが合理的ではない可能性のある商品を十分な説明なく推奨・販売されているのではないか等、取組は「道半ば」にある旨の評価がされた(2022年12月9日「金融審議会市場制度ワーキング・グループ顧客本位タスクフォース「中間報告」)。
 「金融サービス提供等法」によって、顧客等の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行すべきであることを金融事業者等の関係者一般の共通する義務として法定することで、顧客本位の業務運営の一層の定着・底上げと横断化を図るものと説明されているが(金融庁説明資料による)、これにより金融行政がどう変わるか、金融機関の業務運営に何が求められるかは、現在までのところそれほど明らかではない。
 問題は、改正前金融証券取引法の「誠実公正義務」が、「顧客等の最善の利益を勘案しつつ」という文言を追加して、金融サービス提供等法に移動したことをどう考えるかである。おそらく現時点では、誠実公正義務には最善の利益の趣旨が含まれているとして、この追記は確認的なものに止まるとする立場(松尾直彦「金融商品取引法[第7版]」466頁)が一般的な受け止め方であろう。
 ただし、これによって何らの対応は不要と考えるべきではないように思う。
 ほとんどの金融機関は、「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づき金融商品販売業務を行っているはずである。それにもかかわらず、問題事例も発生していないわけではない。ここで、「顧客本位の業務運営に関する原則」の実質化を、この機会に改めて検討してみることも必要なことではなかろうか。