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破産管財人による債務承認と時効の更新

最三小決令和5・2・1民集77巻2号183頁、金法2219号71頁

本判決へのコメント

・中嶌諏訪「判批」ジュリ1591号112頁
・齋藤由起・令和5年重要判例解説60頁
・宇野瑛人・令和5年重要判例解説126頁
・山本和彦・金法2225号54頁
・髙秀成・民事判例28号86頁
・杉本純子・私法判例リマークス69号134頁

1.事件の経緯

 Y(信用金庫)は、X(株式会社)が所有する土地・建物について根抵当権の設定を受け、Xに貸付けをしたが(本件根抵当権の被担保債権は、この貸付金債権である。)、Xは、平成26年5月、手形交換所の取引停止処分を受け、貸付金について期限の利益を喪失した。
 Xは、平成28年7月、破産手続開始決定を受け、A(弁護士)が破産管財人に選任された。Xが破産手続開始決定を受けたことに伴い、本件根抵当権の担保すべき元本が確定した(民法398条の20第1項4号)。
 A(破産管財人)は、Xが所有する土地・建物につき、任意売却を検討し、Yとの間でその受戻しについて交渉をしたが、任意売却の見込みが立たず、Yに対し、平成29年2月28日付けの書面により、破産裁判所の許可を得て破産財団から放棄した旨の通知をした。Aは、これらの交渉、事前通知および放棄通知をするに際し、Yに対して本件根抵当権の被担保債権が存在する旨の認識を表示していた。
 Xは、平成29年5月、費用を支弁するのに不足することを理由に、破産手続廃止の決定を受けた。
 以上の経緯を経て、Yは、令和4年1月、本件根抵当権の実行としての競売の申立てをし、Xが所有する土地・建物について担保不動産競売の開始決定がされた。これに対して、Xは、本件根抵当権の被担保債権が時効によって消滅したことにより根抵当権も消滅したと主張して、Yに対し、競売手続の停止および根抵当権の実行禁止の仮処分命令の申立てをした。
 この申立てを受けた函館地裁および札幌高裁は、AがYに対してしたXが所有する土地・建物について根抵当権の被担保債権が存在する旨の認識の表示はその被担保債権についての債務の承認(改正前民法147条3号)に当たり、被担保債権の消滅時効を中断する効力を有し、消滅時効は完成していないとして、Xによる競売手続の停止および根抵当権の実行禁止の仮処分命令の申立てを却下すべきものとした。
 そこで、Xは、Aは破産者の債務の承認をする権限を有しないから、Aによる被担保債権についての債務の承認は消滅時効を中断する効力を有しないとして、許可抗告の申立てを行い、これを受けて最高裁は、次の理由により抗告棄却した。

2.決定理由

 「時効の中断の効力を生ずべき債務の承認とは、時効の利益を受けるべき当事者がその相手方の権利の存在の認識を表示することをいうのであって、債務者以外の者がした債務の承認により時効の中断の効力が生ずるためには、その者が債務者の財産を処分する権限を有することを要するものではないが、これを管理する権限を有することを要するものと解される(民法156条参照)。
 そして、破産管財人は、その職務を遂行するに当たり、破産財団に属する財産に対する管理処分権限を有するところ(破産法78条1項)、その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得るものである(同法44条参照)。破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻し(同法78条2項14号)について上記別除権を有する者との間で交渉したり、上記不動産につき権利の放棄(同項12号)をする前後に上記の者に対してその旨を通知したりすることは、いずれも破産管財人がその職務の遂行として行うものであり、これらに際し、破産管財人が上記の者に対して上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をすることは、上記職務の遂行上想定されるものであり、上記権限に基づく職務の遂行の範囲に属する行為ということができる。
 そうすると、破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。」

3.本判決のチェックポイント

(1) 本決定の意義

 本決定は、破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて別除権者と交渉し、または、この不動産につき権利の放棄をする前後に別除権者に対してその旨を通知するに際し、破産者を債務者とする別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するとした、最高裁の新判例である。
 本決定は2017年改正前民法147条3号、156条に関するものであるが、これらの条項は、改正後民法152条として次のように整理され、承認は時効の更新事由とされたが、その解釈において、本決定は、引き続き判例としての機能するものと思われる。

cf.民法152条 
 ① 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
 ② 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

(2) 消滅時効中断事由としての「債務の承認」

 「承認」(改正前民法147条3号、改正後改正後152条1項)は、時効の利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利が存在することを認識している旨を表示することをいう。特別な方式を要せず、債務の存在を前提とする行為があればよい。
 これに該当するとした判例には、当事者本人およびその代理人により債務の一部として弁済された場合(大判大正8.12.26民録25輯2429頁)、債務の一部弁済のために債務者によって振り出された小切手が支払人によって支払われた場合(最一小判昭和36.8.31民集15巻7号2027頁)、保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合(最二小判平成25.9.13民集67巻6号1356頁)、同一の当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在する場合に、借主による充当の指定のない一部弁済がされた場合(最三小判令和2.12.15民集74巻9号2259頁)などがある。
 債務の承認をするためには、相手方の権利の処分につき、行為能力の制限を受けていないことまたは権限があることを要しない(改正前民法156条、改正後152条2項)。しかし、管理の能力または権限は必要とされている(準禁治産者は管理の能力・権限を有するから、単独でした承認は、時効中断の効力を有するとした事例-大判大正7.10.9民録24輯1886頁、未成年者の承認は取り消すことができるとした事例-大判昭和13.2.4民集17巻87頁)。
 本決定は、以上とは異なる事案に関して、債務者以外の者がした債務の承認により時効の中断の効力が生じるためには、「その者が債務者の財産を処分する権限を有することを要するものではないが、これを管理する権限を有することを要する」として、破産管財人にその権限があるかどうかを検討するものである。

(3) 債務の承認と破産管財人の職務権限

 本決定は、「破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する」(破産法78条1項)ことから、破産手続開始により破産財団に関する訴訟手続が破産管財人に受け継がれるとする破産法44条を参照して、「その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得る」とする。
 そして、これを前提に本決定は、破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻し(同法78条2項14号)について、別除権者と交渉したり、上記不動産につき権利の放棄(同項12号)をする前後に別除権者にその旨を通知したりすることは、いずれも破産管財人がその職務の遂行として行うものであり、この際に、破産管財人が別除権者に対して「別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をすることは、上記職務の遂行上想定されるもの」として、別除権の目的である不動産の受戻しや権利の放棄に際して破産管財人に想定される職務として行う債務の承認について、その職務の遂行の範囲に属する行為と認めたものと思われる。

(4) 実務上の留意点

 本件では、債権者である金融機関は、根抵当権の被担保債権について時効中断の措置をとっていない。なぜ、これをしていなかったか、債務者の破産手続が一方でなされていたことが原因ではないかと思われる。
 金融機関の根抵当権の目的不動産は、破産手続の中では処理しきれず、手続終了後に、根抵当権者である金融機関が競売の申立てをしたものであるから、これを少しでも想定しておれば、破産手続に老い債権の届け出をする等(破産法111条1項1号)、積極的に時効中断の措置をとっておくことは必須であったものと思われる。
 しかし、本件ではこれがされなかったことから、債務者からの時効の援用に対して、破産管財人による債務の承認が主張され、これが認められたものであるが、通常の業務とは異なるものであることに注意すべきであろう。