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説明義務を問題にした法改正の見送りと業務改善命令

 日経Web2023年6月20日が報じた2本の記事、あえて関連付けて読むことにする。

四半期決算報告の廃止、今国会の法改正見送り 金商法
政府・与党、臨時国会で成立めざす
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA194S70Z10C23A6000000/
金融庁、千葉銀などに改善命令へ 仕組み債販売で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB20CSK0Q3A620C2000000/

 見送られた金商法の改正は、「顧客本位の業務運営」、「金融リテラシー」、「企業開示」等に関する制度を整備することを目的とするもので、金融庁Websiteに法律案と解説がある。

金融庁Web・国会提出法案(第211回国会)の概要説明

 なかでも、「顧客本位の業務運営の確保」については、最終的な受益者たる金融サービスの顧客や年金加入者の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行すべきである旨の義務を、金融事業者や企業年金等関係者に対して幅広く規定し、顧客属性に応じた説明義務を法定するとともに、顧客への情報提供におけるデジタル技術の活用に関する規定を整備するものという。
 ここで、注目したいのは、法定された顧客属性に応じた説明義務である。
 説明義務や適合性原則などの勧誘ルールについて、現行法とその実務は、次で簡単に紹介した。

 これが改めて、顧客属性に応じた説明義務として法定されたのは、例えば、仕組債のように、「リスクが分かりにくく、コストが合理的でない可能性のある商品が推奨・販売されているのではないか」(2022年12月金融審議会 市場制度ワーキング・グループ「顧客本位タスクフォース」中間報告)との懸念・指摘に対応するためである。
 そのため、金商法に次の条文が追加された。

金融商品取引業者等は、(契約締結前の情報の提供等)を行うときは、顧客に対し、・・・・・・顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品取引契約を締結しようとする目的(以下この項において「顧客属性」という。)に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度により、説明をしなければならない。ただし、顧客属性に照らして、当該情報の提供のみで当該顧客が当該事項の内容を理解したことを適切な方法により確認した場合その他の内閣府令で定める場合は、この限りでない。

(金商法改正案37条の3第2項)

 千葉銀等に対する業務改善命令の対象になった事案は、金商法等の改正でもって対応しようとした懸念が実際に発生したものであり、コンプライアンス担当者としては、改正の意図するところを改めて吟味しておく必要があろう。