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権利能力なき社団の共有持分権確認請求

最三小判令4.4.12裁判所Web
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91095

1.事案の概要


 権利能力のない社団であるX(町内会)が、本件建物新築時に、Xを含む3町内会で共有する旨の合意がされた旨主張し、合意がされた事実はないと主張する他の町内会に対して、Xが本件建物の共有持分権を有することの確認を求める訴えを提起した。第一審判決は、本件合意があったことを認め、Xの請求を認容したので、Yが控訴。控訴審は、権利能力のない社団であるXが所有権等の主体になることはできないとして、Xの請求を棄却した。そこで、Xが上告受理申立てをした。

2.判決要旨


 権利能力のない社団であるXが提起した建物の共有持分権確認請求訴訟において、控訴審が、Xの請求につき共有持分権の構成員全員への総有的帰属の確認を求める趣旨か否かについて釈明権を行使することなく棄却したことに違法があるとして、原判決を破棄・差戻しした。

3.本判決のチェックポイント


 民事訴訟において、裁判所は、「訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる」こととされ(民事訴訟法149条1項)、これを「釈明権」という。釈明権が行使されるべきであったのに、これが行使されないとき、判例は、違法とする(最判平17.7.14判時1911号102頁ほか)。
 しかし、一方で、裁判に必要な事実に関する資料の収集は当事者の権能かつ責任であるとする弁論主義が採用されており、これとの関係で、釈明権行使の範囲等について種々の見解が見られ、また、釈明権行使の結果、訴訟の勝敗が逆転してしまう結果を招きかねないことから、当事者が適切な申立てや主張をしないときに、裁判所が積極的にそれを示唆ないし指摘して、当事者の適切な行動を促す形の積極的釈明は慎重にすべきものとされている。
 本件は、権利能力のない社団であるX(町内会)が建物の共有持分権を有することの確認を求める訴えに関するものであり、控訴審が、釈明権を行使せずにXの請求を棄却したことの是非が問題になったものである。これは、権利能力なき社団の財産は、構成員に総有的に帰属し、その代表者が社団の名において構成員全体のために権利を取得し、義務を負担するというのが、古くから判例がとる立場であり(最一小判昭和39.10.15民集18巻8号1671頁、民法判例百選Ⅰ-8事件)、そのため、Xは、本件建物の共有持分権がXの構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める旨を主張しなければならず、X自身が建物の共有持分権を有することの確認を求める訴えは適当でないことになるからである。
 裁判所は、釈明によって、この是正を図らなければならないことから、最高裁は、Xの請求は、「本件建物の共有持分権がXの構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める趣旨に出るものであると解する」ことができるので、Xの請求がこの趣旨によるものであるかどうかについて、控訴審裁判所は釈明権を行使すべきであり、このような措置をとらないで請求を棄却したことには、違法があるとするものである。
 本件は、請求の趣旨の変更を促すもので、積極的釈明にあたると解される(濱崎録・法学教室504号104頁)が、「勝つべきものは勝たせる=正義必勝」は、裁判官の意気地であり、訴訟指揮の基本的スタンスでもあったという思いを、最高裁判事も共有するもので、本判決にはそのような含意もあったとする評価もあり(加藤新太郎・NBL1231号86頁)、最高裁は、形式論理で請求を棄却することなく、実質的に紛争の解決を図ろうとしたものではないかと思われる。
 なお、財産が、権利能力なき社団の構成員(すなわち、本事案では町内会のメンバー)に総有的に帰属するとは、「団体構成員は、財産の共同所有者であるが、団体の定めに従って使用収益することが認められるだけで、財産に対する持分を有しない」(佐久間毅『民法の基礎1第5版』383頁)とされ、民事の訴訟においても、権利能力なき社団に当事者能力が認められていることとあいまって(民事訴訟法29条)、権利能力なき社団自身の所有を認めるのと実質的に同義と考えられる。そうすると、権利能力なき社団は法的な意味において所有権の主体となれないが、実質的には所有権の主体であるのと同様の取扱いを認めてもよいことになり、第一審判決と同様、Xが本件建物の共有持分権を有することを認めるといったことも考えられそうである。