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近畿日本ツーリスト支店長らの逮捕事件を考える

 このニュースに衝撃を受けたコンプライアンス担当者は多かったのではなかろうか。私もである。

NHK NEWS WEB 2023年6月15日
近畿日本ツーリストの支店長ら3人逮捕 新型コロナ関連で詐取か
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230615/k10014099871000.html

 同社関西法人MICE支店支店長・グループリーダー・営業課長の3名が、2021年3月に東大阪市から受託したコロナワクチン接種のコールセンター業務で、同年9月~22年4月にオペレーターの人数を水増しして請求し、同市から業務委託費名目で計約5億8900万円を騙し取ったとして、詐欺の疑いで逮捕されたというものである。
 報道によれば、コロナ禍で主力の旅行事業の収入が落ち込む中、新たに始めたコロナ対策事業で売り上げを伸ばし、営業目標を達成したいという思いが強く働いたということらしい。そういった思いが企業の中にあったとしても、これほどの規模の会社で、業務活動に一環として、刑法上の犯罪に該当する行為が行われたことになり、同社のコンプライアンス態勢が、全く機能しなかったことをまざまざと見せつけられた。
 同じことは、すべての企業でいえるわけではないが、営々として積み重ねてきたコンプライアンス態勢が瓦解した事実を見せつけられるのは、コンプライアンス担当者やコンプライアンス統括部門にとって、悪夢でしかない。
 なぜこのようなことになったのか、同社からの公表を待つほかないが、以下では報道された事実について、どういった犯罪が成立するかを検討する。
 まず、詐欺罪(刑法246条1項)が成立することは問題ないだろう。この場合、逮捕された支店長・グループリーダー・営業課長の3名の共犯になる。
 そして、詐欺罪に当たる行為が、①団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果またはこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。)として、②その行為を実行するための組織により行われたときは、「組織的詐欺罪」の成立するので(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項13号)、これに該当することにならないかどうかも検討しなければならない。組織的詐欺罪は、1年以上の有期懲役(20年以下)と、詐欺罪の10年以下の懲役より重い罰則が定められている。
 ①の「団体」は、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的または意思を実現する行為の全部または一部が組織により反復して行われるものをいい(同法2条1項)、役員や従業員(営業員、電話勧誘員ら)によって構成される組織により営業活動を行う会社が「団体」に当たる。
 ②の「詐欺罪に当たる行為を実行するための組織により行われた」といえるかどうかについて、最三小決平27・9・15刑集69・6・721は次のとおり述べる。

 リゾート会員権の販売等を目的とする団体の実質オーナーである被告人を始めとする主要な構成員において、当該団体が実質的な破綻状態にあり、集めた預託金等を返還する能力がないことを認識したにもかかわらず、それ以降も、当該団体の役員および従業員によって構成される組織による営業活動として、預託金等の名目で金銭を集める行為を継続したなどの事例について、この組織は、「詐欺罪に当たる行為を実行するための組織」に当たり、その組織が元々は詐欺罪に当たる行為を実行するための組織でなく、また、その組織の中に詐欺行為に加担している認識のない者が含まれていたとしても、別異に解すべき理由はない。

 以上に照らせば、本件事件は、「組織的詐欺罪」に該当する可能性があることに留意しておくべきであろう。