棺はきっと天国への船

 これまで葬儀といえば、自分の祖父母と、職場関係の人ぐらいのものしか立ち会ったことがなかった。棺には花とお守りにするための硬貨を少し入れる以外に、ものを入れるという発想もなかった。けれどどうだろう。娘が棺に入った時、あれもこれも目いっぱい、入るだけの小さなお土産で、娘の周りを埋め尽くしている自分に気がついた。

 本当ならあの小さな棺に、私も一緒に入って焼いて欲しいと思ったぐらいだ。もちろんそんなことは不可能で、火葬場で必要以上のドラマを、繰り広げたりはしなかったけれど。

 幼くて、しばらく家から離れていて、最後の時も一緒にいられなかった娘を、ひとりで天国へ送るのはとても悲しかった。だから娘の棺に、私の束ねた髪の毛先20センチほどと、妊娠中から育休の間に本当によく着ていた服を入れた。娘をもってどれほど私が幸せな母で、どれほど娘を誇りに思っているかを、美しいレターセットに書いた手紙も。それから向こうで久しぶりに会った時にお互いがわからなくならないように、家族で一緒に写った写真。夏が来たら着せたいと思っていた青い花柄のワンピースとピンクの浴衣。お気に入りのストライプの水着。娘に着せたのは、娘をよく知るお友達が誕生日のためにプレゼントしてくれた、コットンのブラウスとチュールのスカート。寒い季節のために、モフモフのカーディガンも入れた。それから、パパにもらった小さなぬいぐるみと、私があげたパペット。デイで作って気に入って何度も遊んだ、プラスチックトレーと輪ゴムでできた楽器。娘が生まれた時に親友たちがくれた肌触りの良い美しいタオル。デイの職員の方が作ってくれた、可愛いスタイ。そして、絵本を数冊。一緒に読めなかった新しい絵本も入れた。誰かに読んでもらえたかしら。

 ある日なんとなく見ていたテレビ番組に、王のミイラの副葬品が出てきた。「副葬品」。そうか、私が娘の棺に入れたのは、副葬品だったんだ。歴史の教科書でいつか見た、あらゆる国の昔の偉い人たちのお墓には、さまざまな副葬品があったね。金銀財宝とか、兵士や馬をかたどった人形とか、そういうの。あれらはその人物がどれほど沢山の人に愛され、その死を悼まれたのかを表していたんだと、悠久の時を超えて、今の私にはわかる。ひとりで寂しくないように。お迎えに来た人たちに、この子は愛された子だと、わかってもらえるように。

 同じ番組に、夭逝した男の子のミイラを、100年以上も家に置いている、ヨーロッパのとある名家が映った。少し前の私ならきっと不気味に思っただろうけれど、今ならその親の気持ちがわかるよ。そんなことができるなら、私だってそうしたかった。娘の体と別れることは、本当に悲しいことだったから。

 棺に入って眠る娘の顔を、いつまでもいつまでも見つめていた日のことを、私は一生忘れないだろう。目覚めることがないとしても、それでもまだこの子と共にいたいという私の願いは、もちろん叶わなかった。だからせめてもと、棺を天国行きの宇宙船に見立てて、たくさんの思い出の品を詰め込んだ。

 愛しているよ。たくさんの人に愛されていたよ。可愛い可愛い人。無事に天国に着いたかな。いつかママも行くからね。待っててね。

 誰かがいつか言っていた、「あなたが亡くなった人のことを思う時、天国のその人には花が降り注いでいるらしい」というの、本当だったら良いなと思う。私が娘のことを今もこうして思っていると、ちゃんと伝わっていたら良いなと思う。

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