クジラのステージ

私はそれこそもう20年以上Coccoを聴き続けてきていて、アダンバレエの頃位までは、実際に自分が生で聴きに行けなかった(ある意味神格化されている)活動休止前の時期が至高だと思っていたんだけれども、スターシャンクやクチナシで、今のCoccoがすごく良いと思うようになった。

とはいえ、(シングルがほとんど出ていないっていうのもあるけど)ここ10年くらいの中の特にグッと来る曲リスト(単体でどうしようもなく圧倒されるレベルのもの?)はコスモロジーで止まっていて、最近のものは全体的に良くて沁みる分、取り立ててこれ、という感じのものが逆にあまり無かった。本当にアルバムや発表されるもの全体の質が高くて、「通し」で今のCoccoを味わう感じとでもいうか。

でも、どんな感じなのかな、位の気分で何となく聴き始めてしまった「クジラのステージ」は、身構えていなかった分、そして映像や途中までの展開で「やっぱり違うかも」と思いかけていた分、後半の展開で持っていかれてしまった。やっぱり今のCoccoはすごい。(多分これはCocco全作品の中でも数えられる位のお気に入り曲になった。)

クジラのステージは、イントロを聴いて、まずサウンド的に私に直球の好みのものだと感じた。洋楽漬けだった90年代後半位に好きだった重めのUSロックとUKロックの爽やかさが合わさったような、くるりで言えばNIKKI前みたいなサウンド。気持ちいいなーと思いながら聴き続けて始まる歌。
子ども時代の回想笑顔や歩く子どものイラスト、「生きる」「明日」サビ前半の「天使のはしご」「透明な子ども」というフレーズ、、
これは雲行きがあやしい、、(子どもは天使!未来には希望!世界はピカピカでワクワク!みたいな)私には眩し過ぎてお腹いっぱいで離れたくなる系の曲なのでは、、こんなにサウンドは好みなのに、、と勝手に残念に感じ始めたところで、
突如ガラガラとどんでん返しをくらった。

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透明な子供らには耐えられない絶望だろう
叶わないと知りながら 生きること 歌うこと 祈ること 仰ぐ空
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純真無垢で透明な子ども達 光る海 抜けるような青い空
の陽の美しさを歌う曲なのかと思っていたら、その一方にある絶望を切り取った曲だった。光の部分が明るければ明るいほど闇も際立つ。

嗚呼。これをあんなに伸びやかに歌われるなんて。

答えもないまま生に居座った 大人になれたわけじゃなくて大人になってしまっただけの語り手

ちょうど「終わりがやってくるの 終わってもいい日が来るの」の部分で、イラストは微笑みながら駆け出すCocco本人になる。

終わりも絶望も受け入れ受け止めて、生き、おそらくサバイバーとして意識的に歌を紡ぐようになったCocco。美しい子ども達とは違う自らを客観視しながらも、叶わないことを知っていても、絶望と隣合わせでも、むしろその絶望を糧に祈り、歌う。
そこで昔みたいに自分は無力だと怒り憔悴するのではなく、それでも変わることがない世界、生や青空の光を、裏から切り取り照らしていく。そしてその光はよりその対の闇も際立たせる。

光も闇も、生も死も隣り合わせ。青空の裏の絶望の深さとその裏で見上げる空のいかに美しく眩しく、だからこそ苦いことか。

終わりに向かっても笑顔で駆けていく。絶望を内包させながら無邪気に踊る。終わりも絶望も、明るく伸びやかに歌う。

これは今のCoccoだからこそできることで、歌が排泄だった活動休止前の直感衝動的な作品群とは大きく違う。
勿論昔も好きだけど、私は今のCoccoが、今一番好きだし、特に私には必要なんだと思う。

生き続けてくれてありがとう、歌い続けてくれてありがとう。

色々浮き沈みもあるけれど、いつも私の先を歩き続けて曲を届けてくれる、サバイバーのCocco姐さんの姿は、全然サバイバーなんかではない私にも寄り添い力になってくれる。姐さんを見ていると、年を重ねてきてしまった・いくことも悪いことじゃないんじゃないかなって、ちょっとだけ思う。

直接会うことも、今はライブで聴くこともできないけれど、祈りはどこか(少なくとも私)には必ず届いて、癒しになっていると、遠くから伝えたい。
いや、伝えるまでもなく、きっとCoccoも、歌を紡ぐことが自分を癒し、人を癒し、人を癒すことも自分を癒すことになるとわかっているのだろう、だからサバイバーとして、意識的に、陰陽組み合わせて、歌だけでなく諸々発信し続けてくれているのだろう。

強くしなやかで伸びやかになったCoccoと紡がれる歌達に、絶望も現実も、変わることなんかないけれど救われている。届けてくれてありがとう。


…でも何でクジラのステージなんだろ?クジラのステージって何???
そういえば昔ハレヒレホにもあったよな。

謎だけど、好きな曲は好きな曲。今に響く良い曲が聴けて良かった。

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