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フィアットが不健全な理由~ビットコインスタンダードより④~

初心者向けによく勧められている『ビットコインスタンダード』(著者:SAIFEDEAN AMMMOUS 、出版:WILEY)を読んでいます。勉強のために自分の言葉でまとめてみます。

チャプター5を中心にまとめます。

そもそもフィアットとは?

一般的にフィアットとは、他の商品(ゴールドやシルバーなど)による裏付けがされていない政府発行のお金のことで、法定不換紙幣とも呼ばれます。今日使われている日本円や米ドル、ユーロ、ポンドなどはフィアットに区分されます。

ちなみに、裏付けがされていないとは、その価値を保証するための担保がないといった意味です。裏付けがあるお金の場合、基本的にその貨幣は裏付け資産と交換(兌換)できます。例えば、ゴールドによって裏付けされている貨幣なら、ゴールドと交換することができます。

19世紀初頭から第一次世界大戦がはじまる1914年頃までは、金本位制という制度の下、ゴールドを裏付け資産とする貨幣が流通しました。1914年頃以降、イギリスやアメリカ、スイスなどはゴールドによる裏付けを継続させましたが、ほとんどの交戦国では貨幣とゴールドの交換が停止となり、これにより金本位制が破綻しました。今日では、イギリスもアメリカもスイスも、フィアットを法定通貨として流通させています。

フィアットに価値がある理由

フィアットには商品による裏付けがありませんが、今日ではそれ自体が価値を持っています。この理由の一部として、以下を挙げることができます。

  • 多くが法定通貨としての役割を持つ

  • 発行元である国がある程度の信頼を得ている

  • 税金の支払いに用いることができる必要がある

  • 国が銀行に使うように指示することで、流動性が高くなっている

  • 少額の支払いにも利用できて便利

  • 貨幣との交換はできないが、国はゴールドを大量に保有している

フィアットと法定通貨の違い

フィアットと法定通貨は、似た側面があるものの異なる概念です。フィアットはお金の種類を表しますが、法定通貨はお金に与えられた役割に関する概念です。

繰り返しとなりますが、フィアットには、商品による裏付けがなく交換できない(不換)という特徴があります。これは、お金の成り立ちに関する性質です。世の中には、金貨のように商品価値に基づくお金もありますが、フィアットのように商品価値に直接基づかないお金もあります。このように考えるとフィアットは、お金の種類についての概念だといえます。

これに対して、法定通貨は支払い手段としての有効性を、法律によって認められているお金のことです。例えば、日本の法定通貨である日本円は、日本国内の取引において支払い手段として有効です。すなわち、消費者が日本円で代価を払うと主張したとき、サービス提供者はその支払いを拒否できず、受け入れなければいけません。

このように法定通貨というのは役割であり、フィアットに「法定通貨」という役割を与えることもできれば、他の種類のお金を法定通貨にすることもできます。

ただし今日では、ほとんどの国がフィアットを法定通貨としています。

フィアットと法定通貨を同義と説明している日本語サイトが多く感じます。しかし、フィアットマネー(法定不換紙幣)の英語はFiat CurrencyまたはFiat Moneyであり、一方の法定通貨の英語はLegal Tenderとされることが多く、やっぱりこの二つは別概念なのかなと思っています。

フィアットがもたらす悪循環

『ビットコインスタンダード』では、フィアットのような不健全なお金を使うと、以下のような悪循環が起こると説明されています。

  1. 政府が通貨を増刷する

  2. 特権階級の者にお金が配られる

  3. 通貨価値が減る

  4. 通貨保有者の富が減る

  5. その場しのぎ的思考が強まる

  6. 国が衰退していく

筆者は、国によってフィアットの害が隠されてきたと主張しています。公開市場操作なり政策金利操作なり、金融政策によって安定させることができる仕組みだということは解説されますが、デメリットは触れられてないと説明されています。たしかに、学生時代の教科書にはフィアットの簡単の仕組みの説明ばかりだったなと感じました。フィアットが当たり前の世の中で、その仕組みに疑念を抱いている人はクラス中に一人もいなかった気がします。

①政府が通貨を増刷する

裏付け資産がある場合と異なり、フィアットには発行上限がありません。政府はどんどんお金を増刷していきます。数年間という任期の中で、自分たちが再選することを目的とし、その場しのぎ的にお金が使われていきます。

②特権階級の者にお金が配られる

政府は、仲間や自分たちに服従する者に対して、優先的にお金配っていきます。給付金や補助金などの形態で配られるものと思われます。

③増刷分が出回り、通貨価値が減る

増刷したお金は使われ、市場に出回ります。それによって、市民の元にも少しはお金が巡っていきます。

しかし、フィアットはゴールドなどの商品と交換することができませんので、供給増加によって価値が薄まっていくと考えられます。そこで、増刷分を受け取っても、一般市民は額面ほどの恩恵は受けられません。

④通貨保有者の富が減る

政府は断続的に増刷を行います。そして、インフレは徐々に徐々に進行し、フィアットの価値は薄まっていきます。また、政府への信頼が崩れていくこともあり、フィアットの価値は下がります。

価値が下がりそうな自国のフィアットを売り、商品・証券・外貨を買う人が増え、フィアットの価値がさらに下がっていくというシナリオも想定できます。

多くの市民はフィアットを保有しています。そのため、上記のような状況下においては、彼らの実質的な貯蓄額は減少していきます。

ちなみに、「②特権階級の者にお金が配られる」の部分に書いたような、政府から先にお金を配られた者は、一般市民よりも得をします。もちろん、先に配られた者がお金を使えば、一般市民のものにもお金が循環してくるので、一般市民も恩恵を受けることができます。しかし、一般市民が受け取れる恩恵は小さくなります。

この理由は、徐々に進行していくというインフレの性質にあります。先にお金を配られて受け取った者は、インフレの進行が軽微なうちにお金を使えます。すなわち、インフレによって通貨価値があまり下がらないうちに、通貨を利用できます。一方で、増刷されたお金が市民に行き着くころには、インフレがもっと進行しており、通貨価値はより低くなっています。

このように、政府がお金を配り、そのお金が一般市民の手元に届くころには、インフレの影響がより強く反映され、額面ほどの恩恵を受けることができません。なお、この事象は「カンティロン効果」と呼ばれます。

⑤その場しのぎ的思考が強まる

一般市民は、貯蓄がばかばかしく思えてきます。また、インフレの進行によって生活必需品の値段が上がるなどして、生活が苦しくなります。将来のために貯蓄したり、投資したりする余裕はなくなります。

そして、「今の生活をどうにかしたい」といったその場しのぎ的な思考になっていきます。フィアットの価値が将来下がっていくとの見方も相まって、将来のために貯金したり投資したり勉強したりすることが減っていきます。逆に、娯楽に対して消費していくことが増えていくと考えることもできそうです。その場の満足感を重視するようになっているからです。

その場しのぎ的思考が強まることで、核家族化も進むとされています。子育てには投資的な側面があるからです。子育てでは、リソースを投資して子供を育てることで、子供に助けてもらったり社会が良くなっていったりするというリターンが期待できます。

また、世代間のつながりも弱くなるとされています。貯蓄が減りやすくなることで、子や孫に残せる貯蓄は少なくなるので、子や孫は上の世代に期待することが減るためです。また、次世代のための政策よりも、今の自分の世代を救ってほしいという考えが増えてくることも関係しています。

フィアットの価値減少の影響は、企業などにも及びます。企業は積極的に設備投資をしたり、人材投資をしたりしづらくなります。つまり、企業に関しても、より長期的な戦略を立て、それを実施することが難しくなっていきます。

⑥国が衰退していく

長期的な視点で活動することが減ると、新しい分野を切り開くことや、技術革新を起こすことから遠ざかります。新しい分野に挑戦しようという人や企業が少なくなり、そこに投資しようという人や企業も減っていきます。

なぜなら、新しい分野を切り開くことには時間がかかるからです。その場しのぎ的な思考が強い場合、そのような時間がかかることは避けられます。

こうして国は衰えていきます。

フィアットが健全になれない理由

フィアットが健全になることは難しく、その理由は以下の2点にあります。

  • 簡単に発行(生産)できてしまう

  • 人間は強い欲望に打ち勝てない

それぞれを補足していきます。

フィアットは簡単に発行できる

政府は、フィアットを簡単に発行できます。そのため、政府がたくさん増刷すれば、お金の価値が下がっていく可能性が高まります。お金の価値が高まれば、お金を貯金している人は損をしていくので、不健全だといえます。

これに比べて、ゴールドは生産が大変であり健全です。ゴールドを生産するには時間とお金をかけて採掘を行う必要があり、しかも、それが成功するかどうかは分かりません。

ゴールドは高値で取引されていますが、大変な思いをしてゴールドを採掘をしようとする人は少数です。このため、ゴールドは価値が薄まりづらく、フィアットよりも健全です。

人間は強い欲望に打ち勝てない

人間は強い欲望に打ち勝つことはできません。簡単に発行できるフィアットを前にして、政府は「自分を裕福に、有利にしたい」という欲求にあらがえません。

『ビットコインスタンダード』では、以下のように説明されています。

History has shown that governments will inevitably succumb to the temptation of inflating the money supply.

訳:歴史を振り返って考えてみると、政府がマネーサプライを膨らませたいという誘惑に屈してしまうであろうことは、火を見るよりも明らかだ。

ビットコインスタンダード(p.67)より

Whether it's because of downright graft, "national emergency", or an infestation of inflationist school of economyes, governments will always find a reason and way to print more money, expanding government paper while reducing the wealth of currency holders.

訳:それが汚職であれ、「国家の非常事態」であれ、インフレ経済学派の蔓延であれ、政府というのは毎回、お金を増刷する理由と方法を見つけてくるものだ。それによって流通する通貨が増え、通貨保有者の富が奪われる。

ビットコインスタンダード(p.67)より

政府はお金を刷って、自分にとって都合の良い人に渡していきます。このようにして自分たちと、お金を渡した人が得をすることを狙います。一方で、一般市民は損をする可能性があります。増刷によって貨幣の価値が薄まり、実質的な貯金額が目減りする恐れがあるためです。

では、健全なお金とは?

健全なお金は、以下の2つの条件を満たしています。

  • 保有分を自分で管理できる

  • 人々が好んで価値の交換媒体に選んでいる

保有分を自分で管理できる

保有分を自分で管理できること、すなわち、他人にコントロールされないことが、健全なお金の条件です。逆にいえば、他人にコントロールされるなら、それは不健全なお金です。

例としてフィアットは、政府にコントロールされています。私たちは銀行や証券会社にお金を預けますが、その銀行や証券会社は政府に従います。政府が規制を課したなら、私たちはその規制内でしかお金を利用できません。

今後、CBDCの利用を強制されたら、ますます政府によるコントロールの影響を受けると考えられています。

人々が好んで価値の交換媒体に選んでいる

健全なお金は、人々が好んで価値の交換媒体として使います。

価値の交換媒体に選ばれるのは、基本的に、「少額取引にも、高額の取引にも使いやすい」「場所を問わずに使える」「時を問わずに価値を持つ」という基準で見たときに優れている商品です。

ただし、市場価格に基づいて自由に取引されることも条件となります。つまり、一部の者による介入を受けやすい通貨は、交換媒体として使われていても健全でないとされています。

フィアットは政府が価格を間接的に操作できるとも考えられ、この点でも健全でないといえます。例えば政府は、ストック・フロー比率を自由にコントロールできたり、保有しているゴールドを売ったり、法定通貨の役割を他の通貨に移したりできます。

健全なお金が繁栄をもたらす

健全なお金が使われる時代には、文化や科学技術が発展してきました。

健全なお金は価値が減らないと考えられるので、人々は安心して貯蓄を行え、より長期的な視点で物事を考えることができるからです。


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