妖旅館_Ss 甘味処
「少し疲れたかのぅ…」
受付の椅子に腰掛けたままぐぐーっと身体を伸ばすと身体のどこかの関節がなったような気がした。
客をもてなすのは悪くはないがこうも数が多いと疲れてしまうな…
いくら甘いものがあっても足りぬ…
ふぅ、と一息つきながら受付上を見ると持ち込んだ菓子は全て食べ尽くしており。
ちょうど当たりを見渡すと客の数も減っていて、ここぞとばかりに蓮華は席を立ち受付を抜け出した。
旅館内の通路を歩いていると、昼過ぎだからか目的の場所から食欲をそそる香りが風に乗って伝わってくる。
「柳殿はおるかのぅ?」
料理場の入り口から中を確認するように顔を覗かせると、目当ての彼は少し疲れた様な表情をして椅子に腰掛けていた。
「蓮華さん。また甘いものですか?」
「お見通しであったか。今日は客が多くて気付かぬうちに菓子を食べ尽くしてしまっての、柳殿に頂戴しに伺ったのじゃ。」
「自分用に作っていた和菓子がちょうどありますよ、そちらでよければぜひ。」
「柳殿お手製の和菓子を断る理由などあるまい。毎度々、感謝しておるぞ。」
彼お手製の和菓子が食べれると聞いて、蓮華の9つの尻尾がパタパタと分かりやすく揺れる。
柳が差し出した饅頭を手に取り一口食べると餡子の甘みが口に溶ける。
疲れで糖分を欲していた頭が満たされ疲れも心做しかはれた気がする。
「とっても美味しいのぅ…、ついつい食べすぎて太らぬよう気をつけねばなるまい…」
美味しさを噛み締め、尻尾をパタパタさせながら饅頭を食べていると柳から声をかけられる。
「そう言えば、お仕事はどうしたんですか?」
「うっ、そ、それは……」
鋭い彼の質問に、それまで動いていた尻尾の動きも止まり。視線もどこかあらぬ方におくられる。
「まったく…、サボりはダメですよ〜?」
「き、きゅっ、休憩をとっているだけなのじゃ! どうか饅頭だけは食べさせておくれ…」
「食べたらきちんと働いてくださいね〜?」
「も、勿論であろう!」
柳殿を怒らせて、お手製の和菓子食べれなくなるのは惜しいからのぅ…
食べ終わったら戻るとするか……
「ではでは、食べ終わったからには受付に戻るとするかのぅ。
柳殿、また今度おいしいお菓子を食べさせておくれ。」
「はい、ぜひまた食べに来てくださいね。」
ニッコリと、笑いながら見送ってくれた彼の視線を背に蓮華は抜け出してきた受付へと足を進めた。
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