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すきだった男の子のはなし

 中学生の頃、好きな男の子がいた。
 1つ下の学年で、手足の長いきれいな骨格のわりに運動神経が壊滅的で、空気の読めない言動、行動から嫌われていた。ぼさぼさの天然パーマがださくて、シャツの襟はいつもセーターの中でクシャクシャになっていた。
 廊下に貼り出された彼の写真は、顔に画鋲が刺さっていた。

 背が高くて顔立ちもよく帰国子女で英語が話せた。子供っぽくて落ち着きがなく、場違いにはしゃいではまわりを白けさせた。男の子をイライラさせ、女の子に煙たがられ、見ているのがしんどいほどだったが、それに気づけない鈍感さを持っていた。

 先輩と呼んでくれなくて苗字にさんづけ、タメ口。トンチンカンな返事は、午後に突然ひらめいて意味がわかったりする。たまに目があうと大きく両手を振るのでみんながつられてこちらを向いてしまう。
 遠くをみるときにするしかめっつら、大きい手と長い指、口元のホクロ、バタバタした走り方、ヒステリックな笑い声。

 わたしが卒業したのち、三年生になった彼に彼女が出来たことを風の噂で知り、よかったなと安心した気持ちと一緒に、なぜか彼女にとんでもなく敗北したような気持ちが湧き起こり、面倒くさくなってそのまま蓋をしてしまった。
 彼女になりたいわけではなかったし、連絡先も知らなかった。卒業してからも長い間、あれが恋だったのかどうかわからないと思っていたが、思い返せばやっぱりごく普通の恋愛感情だったのだ。

 今になればわかる、タンジュンメーカイ、サイテイサイアク。
 わたしには嫌われ者の男の子の彼女になる勇気がなかったのだ。なりたいと思うことが出来なかったのだ。ほぼ丸2年間その男の子が特別だったにもかかわらずだ。

 嗚呼、彼女になった女の子の清廉潔白な強さ!

 わたしは一方的に敗北し、突きつけられた卑怯で矮小な自分を受け止められず思考停止。さらには蓋をして埋めてそのまま忘れていた。なんてこと。

 人に憧れたり、誰かになりたいと思うことってわたしは本当にないのだけれど、あの時だけは間違いなく、わたしはあの女の子でありたかった。
 あの女の子になりたかったんじゃない、わたしがあの女の子でありたかった。


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