椎名唯華は生まれ年を答えられない

 VTuberと年齢について、興味深い配信があったので考えてみることにした。
 まずは以下の配信を見てほしい(リンクは時間指定済)。

https://youtu.be/CxEyxVCkYNA?t=1024
 ここでは、にじさんじライバーの椎名唯華がゲーム内で設定をする際に、「生年月日を教えてください」の問いにかなり戸惑っている様子が見られる。彼女がしばらくして「2005年」と入力し、その後「やべ適当言っちゃった……やめてよも~!」「いや、2004だね、2003だ!2003でしょ!」と試行錯誤する姿に対し、チャット欄では「計算するなww」「非公式wiki見ろ」「2002やろ」とツッコミが入る。
 これは、椎名唯華が過去の配信で自分の年齢をよく覚えていないことがわかったり、高校1年生なのに17歳である(実は留年していた)ことが判明したりするというこれまでの積み重ねがあるからこその流れだろう。しかし実際、誕生日を迎えても年齢の変わらないVTuberが自分の生まれ年を答えられないのは至極当然なのである。
 この配信が行われた2019年1月18日時点では、4月17日生まれの17歳の生まれ年は確かに2002年である。しかし、このnote執筆時点(2020年11月23日)に生まれ年を計算しようとすると2003年ということになってしまう。年齢がずっと変わらないということにはなじみがあっても、「生まれ年が年々更新されていく」という概念が受け入れられる人がどのくらいいるだろうか。もしかすると、この配信でツッコミを入れた視聴者は「彼女が17年後には2020年に生まれたということになる」という事実を受け入れられるのかもしれないが、主観的にはこの考え方をとるのはかなり難しいのではないかと思う。
 一方で、ある決まった年に生まれた永遠の17歳です、と宣言するとしたら、年齢の増加が止まることになった経緯等を説明する必要が生まれる。初配信の2018年8月時点で17歳であることから考えると、生まれ年は2001年で、VTuberとして配信を始めるまでは普通に年齢を重ねていたが、VTuber活動をするにあたって年齢の増加が止まった……等の複雑な背景をリスナーと共有しなければならない。たとえば5年後の2025年に、「2001年生まれの17歳です」と言ったとき、彼女は魔法の力を使えたり異世界の住人であったりという特殊な背景を持たないごく普通の高校生なので、生まれ年だけを切り取って「本当は24歳ってこと?」と茶化されることもあるかもしれない。これらのことを鑑みると、ごく単純に思えた最初の場面がかなり難しい問題を含んでいたことがわかるだろう。
 この問題は、椎名唯華の他にもたくさんいる(VTuber界隈ではスタンダードかもしれない)、年齢が一定のVTuberに関わるものである。その代表例として、同じくにじさんじライバーの月ノ美兎の事例を挙げてみる。
 月ノ美兎は、デビューしたときから16歳の女子高生であった。同じく高校2年生の樋口楓、高校3年生の静凛と共にJK組というユニットを組んでおり、歳をとらないことでそのアイデンティティが維持されているといえるだろう。その一方で、彼女は公式に明かされている自身のプロフィールから逸脱する言動で人気を博したという一面もある。Twitterにアップロードされた、「罪」を作る料理動画(*1)にはモザイクのかかった氷結が映り、配信ではバーチャルストリップ劇場(*2)に行った話などもしている。この2例の場合、本来未成年ではできないことをしているという点での「逸脱」が見られる。よって、ここにリスナーからのツッコミが入るということはごく自然であろう。本来がやんちゃなキャラクターとして紹介されていればそれに沿ったものだともいえるが、特に悪ぶっているわけでもないごく自然な口調で未成年らしくないことを言った場合には「高校生性」を損なう発言であるからだ。
 気になるのは、「その年で~を知ってるの?」という意味でのツッコミである。月ノ美兎が昔のアニメに触れたり、古のインターネットのノリを配信で披露したりしたときに、「ほんとに女子高生か?」のような反応がされるのをしばしば見る。
 しかし、先ほどの椎名唯華の場合と同じように、月ノ美兎はデビュー当初の2018年から2回誕生日を迎えても依然として16歳のままであり、これからもおそらく年齢が変化することはないだろう。このことについては、リスナーは特に疑問を持たず受け入れている。ならば、10年前に高校生としてそれらの出来事を経験していたとしても何ら不思議はないはずではないか。その場合一つ前に挙げた事例とは異なり、彼女の「高校生性」に疑念が生じる理由はないだろう。
 アニメキャラクターのように年を取らないという現象と、その年齢になる以前の過去を持つという、人間に近い要素が絡みあっているために、リスナーはVTuberという存在の構造を捉えあぐねているのではないか。

 ここで冒頭に立ち返ってみる。もし今、もう一度自分の生まれ年を聞かれたとすると、椎名唯華はどう答えるのだろうか。

*1 https://twitter.com/MitoTsukino/status/1280818916642574336?s=20  
*2 https://youtu.be/qaA-m-BLtWo?t=2076 「生死を賭けた戦いとエロス【レポ雑談】」2019年4月22日

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