小さな居住者との2週間。

小さな居住者との2週間。

こんな書き出しとは裏腹に、それは死闘だった。

今後誰かの役に立てばいいなという気持ちでここに書き記しておくことにする。

2週間ほど前の日曜日。そいつは突然現れた。

その日は久々に予定がなく、1人でゆっくりと過ごしていた。銀座のSEIKO MUSEUMという施設に足を運んだり。本筋とは離れるけれど、時計の起源から今の最新技術までを見ることができる大変快適で知的好奇心を満たしてくれる場所だった。

その後はハンバーグを食べ、夕方になる前にスーパーで買い物を済ませて、翌日からの1週間を乗り越えるための自炊に精を出した。

夕食を終え、片付けをしてリビングに戻った瞬間、部屋の中央に置いている真っ白なテーブルに違和感を覚えた。なんか黒いのついてる、、、?

近づいてみると、間違いなく小バエだった。

見た瞬間、最悪だ、、、という落胆の気持ちと自分自身を責める気持ちが湧き上がってきた。就職とともに住み始めたこの家とはもう1年半の付き合いになるが、虫との遭遇はほとんどなかった。何より、それは私自身が何より虫が大嫌いだからというのが理由だ。野外で目にする虫にももちろんいい気はしないけれど、外は色々な生き物が関わりあって生きていかなければいけないことは何となく理解している。しかし屋内となると別だ。密室の中で遭遇する彼らは何故か外で見る時の何倍も気持ちの悪いものに見えてしまう。そのため、私は一人暮らしを始めてからゴミの処理、水周りの掃除、人一倍気を遣ってきたつもりだ。そのため、全く虫とは遭遇しない我が家に誇りさえもっていた。

なのに、何故。

先程行ったスーパーから生鮮食品とともに持ち帰ってしまったのではないか。それが思い当たる唯一の原因だった。色々考えてみるが、よく分からん、とりあえずすごく嫌だなあという気持ちでどうやったら排除することができるのか思考をめぐらせる。

生憎、虫の訪問実績ゼロの我が家には、ハエを撃退するためのグッズなどなく、夜も遅かったためこれから買いに行くこともできない状況だった。

真っ白なテーブルに小バエの姿がよく映える。最悪だ。小バエ自体は本当に小さく、肉眼で確認できる最小レベルのハエだ。人によっては気にならないという人もいるかもしれない。だが私にはこの一瞬も同じ空間にいることが苦痛なのだ。

とりあえずティッシュを片手に、テーブルにゆっくりと近づいて潰す作戦を決行した。

しかし想像以上に動きが早く、警戒心も強いため簡単に捕まえることはできない。何より手の大きさからして抜け穴が多すぎる。数回は手からすり抜けたことにクソっっという声さえ漏らしたが、なんとか捕まえることに成功した。ティッシュでギチギチに潰し、そのままゴミ箱にポイ。これで私の穏やかな生活に戻ることができる、よかったー。

と、喜んだのもつかの間。

翌日の夜、私はアイツとの再会を果たした。


なんで!?!?!?


それが最初の感想だった。多分、今思い返すと潰そうとした時に手からすり抜けられていたのだろうと思う。ただあの時の、私は殺したはずの小バエがまた現れた→複数いる?という結果を導き出し、戦慄した。

え、無理なんだけど。オワタ。今日もハエ撃退グッズ持ってないし。

とりあえず、またティッシュで潰す作戦を実行。ふう、疲れたけどこれで彼はお亡くなりになっただろう。そんな気持ちで洗面台に向かうと、なんと始末したはずのハエがちょんと洗面台に乗っている。

この時点で私のHPはゼロだった。下手したらゼロ以下だった。私は発狂しそうな気持ちを抑えて、ティッシュ作戦を決行。(早くハエ撃退グッズ買いなさい。いま書いててまず初めに思うことだろと自分に情けなくなる。)

ハエを今度こそ始末したと思ったが、翌朝の朝食を食べている時に近づいてきたヤツを見て、もう全てが信じられなくなった。

朝食は急いで撤収。一旦会社に出勤し、冷静にヤツのいないところで色々と対策を練ることにした。

色々そこから調べ、いつの間にかわたしは小バエマスター(すごく嫌な響きではある)になっていた。

大変お待たせしたのですが、ここからが有益な情報のターン。せっかくなので得た知識をアウトプットしておく。

◎小バエって4種類いんねん。

まず、最初にへえと思ったのが、小バエという名前の虫はいなくて、主に有名な4種類のハエを総称していること。それぞれ出る理由が違ったり、対策も変わってくる。全然知らなかった。

・ノミバエ:わたしの家にいるやつ。小さくて、すばしっこいのが特徴。ノミみたいに背中が丸まってるのが名前の由来だとか。

・ショウジョウバエ:他のハエと比べて赤っぽい姿が特徴。出る場所は基本ノミバエと同じで、生ゴミや食べ物。

・チョウバエ:野外のトイレで見かけたりする羽が大きめで丸っぽいハエ。水周りに出没しやすい。

・キノコバエ:主に植物なんかの緑や土のあたりにやってくるため、日常生活で緑と交わらない生活をしてる人は遭遇確率低め。

小バエ対策のグッズも、だいたいノミバエとショウジョウバエに効く、とかで括られてることが多い。

まず今回わたしはここから入って家にいるのがノミバエとわかったのは良かったが、今でも予測変換で「こ」を打つと小バエ、「の」でノミバエが出てくることが本当に気分を悪くさせる。

◎家であるもので作れるハエ取りグッズ

次に簡易的に試せる方法を見つけた。いやハエ撃退グッズの市販の買えよ自分。この時謎にお金を使うことを渋っていた自分がいました。意味が分からない。

自作したハエ取りグッズはめんつゆトラップなるもので、ペットボトルと麺つゆ、水、食器用洗剤のみでいいというシンプルな構造。

ペットボトルの底から少し厚みを持たせてカット。工作でもする小学生の気分だった。そこから麺つゆと水を一対一で入れて、食器用洗剤を3滴ほど垂らすだけ。ほんとにこれでいいの??という気持ちでテーブルに設置するも、口コミが意外と高評価だったため藁にも縋る思いでめんつゆトラップに全てを託すことにした。

ここから、本格的な戦いが始まる。

この日の夜、帰宅して既に1匹のあいつを確認済。相変わらず元気だな。早くこのプールに沈みやがれ。

この日からわたしはキッチン飯を始めた。リビングでの飲食はあいつを呼ぶ行動に等しい。そんなの落ち着いてご飯が食べられるはずがない。キッチンで立ちながらご飯を食べる。冷蔵庫から案外距離も近く、片付けもすぐできるため衛生的だ。次の日ももちろん朝食を立ち食いした。

寝る前、あいつが動き回るテーブルを観察すると、興味をかなり示しているようだった。それもそのはず、麺つゆの香りはなかなか部屋に充満しているため、人間より遥かに鼻のいい虫がこの匂いに気が付かないはずはない。近づきはするものの、なかなか中には入ろうとしない姿を見てわたしは大変ヤキモキしていた。新しい玩具を買ってあげたのに新品の匂いがして遊びたがらない飼い犬を見ているような気持ちだった。さあ、早く入りなよ。楽しいよ。そんな呼び掛けも虚しく、一向に入る様子は見えなかった。後からわかったことだが、ノミバエには麺つゆより香りの強いお酢の方が適してるらしい。

そして、わたしは数日間にわたる小バエとの共同生活に、完全に疲弊していた。ノミバエとの和解を目指すべく、直接交渉を始めた。何言ってんのと思った人が正しく、ここからの話は誰に言っても大爆笑される。

続ける。わたしはノミバエに向かってあくまで落ち着いたトーンで、決して上からな態度はとらず、論理的な主張を心がけながら話しかけた。

・この家では基本的に私が認めたもの以外の来訪を許可していないこと

・わたしが好きで、その好意を示すため付き纏ってくるのであれば、それは逆効果であること。視界から消えてくれることが何よりわたしを喜ばせること。

・今すぐ出ていくか、明日の朝までに家賃の半額を振り込むかどちらかを選んでもらいたいということ

つとめて穏やかに、わたしはノミバエに語りかけた。まるでストーカーを追っ払うかのように。

対話に疲れた私は、翌日の麺つゆトラップの結果を楽しみに待ちながら寝ることにした。

ちなみにここまでで、小バエの行動範囲は限定されていた。1Kの我が家のリビング約9帖を4分割した時、窓側かつ片側のワンブロックのみに集中していたのだ。それが主にソファやテーブルのあるところ、いわゆる生活のメインスペースだったため私の生活は大きく脅かされた。この日も、寝具を広げて横になってからなるべく自分の顔を出したくなくて、布団を半分くらい顔に被せたまま寝た。暑苦しい。不快だ。でもハエはもっと不快だ。

次の日の朝、ヤツはプールに沈んでいなかった。落胆した。やっぱりネットの情報は100パーセントを保証するものでは無いのだ。半ば投げやりになりながら出勤した。このあたりから、家に帰ることが憂鬱になっていた。仕事帰りに恋人や可愛い犬が自分を待っているならどれだけ心が癒されるだろう。しかし、我が家で待っているのは小バエだ。辛い。全く可愛くない。煩わしい。

誰かにこのことを半分ネタ半分本気の相談として話したかったが、なんとなく恥ずかしさもあり、割となんでも話している一人暮らし歴の長い同期にさえ打ち明けられないでいた。

ただ、その日の夕方にひとつ上の先輩と話す機会があり、割と暇そうにしていたため思わずその事をバーーーーっと話した。ハエと直接交渉をしたことに関しては本当にこの後輩大丈夫かという顔で見てくれ、大変面白がってくれたので自分自身も報われた気持ちだった。その日、退勤のタイミングでご飯を家で食べたくないから外食して帰ろうと思っていると言ったら、一緒に夜ご飯を食べてくれた。そういう優しさが大好きだ。

その帰り、今年はほんとに虫の運が強いなと思う出来事があった。マンションでいつものようにエレベーターを待って、さあ乗り込もうというところで、、、ドアが開いた途端、左側の外階段から凄まじい速さで何かがエレベーターに乗りこんだ。その瞬間、もう死ぬかと思った。

エレベーターのボタン横に、成虫のG。

なるべく予測変換に虫関連の単語残したくないのに。でも打つ。

さすがに気持ちが悪すぎて、誰かに言わずにはいられなかった。何故か動画に撮り、信頼している友人のみと繋がっているインスタのアカウントでストーリーに載せている自分がいた。みんなごめん。配慮のつもりで一応動画の大きさは80パーセントくらいにしておいたから許して。次の日からエレベーターにも乗れなくなった。不便すぎる。

つかの間の平穏

話は戻り、帰宅し、麺つゆトラップを何気ない気持ちで見たところなんと収穫があった。

プールに虫のご遺体があったのだ。ただ、数に問題がある。3匹ほど沈んでいた。え???1匹じゃないの???え???そんなにいたの???

正直引いたが、これで本当に小バエはいなくなった!平穏は取り戻されたのだ!と心は晴れやかだった。今月で1番嬉しいな、なんて麺つゆトラップに感謝していた。なんて安堵したのもつかの間、その数時間後に新たな1匹と遭遇した。

この時の絶望感といったら近年稀に見るものだった。何故なのだ。何故絶滅していない???小バエの戦略にも疲弊していた。複数いることは分かったが、1匹ずつ出てくるあたり、団体戦のように先鋒から大将までメンバーが組まれているような気さえしてきた。さすがにもう無理だと泣きそうになりながら、何故かわたしはアナログのティッシュ作戦をまた決行していた。いい加減市販のグッズを買うべきだったと猛省している。

次の日は夜、同期の家に泊まった。大好きだった自分の家が、なるべく滞在したくない場所に変わっていくのが辛かったが、このままだとストレスが溜まって仕方がなかった。

次の日、同期の家からの帰路でやっとアースジェットを購入した。スプレータイプの赤い缶で、自宅に常備したいデザインとは言えないが、購入してからの安心感が違った。今までは丸腰で戦いに挑んでいた初期装備の主人公は、武器を手にした戦士になったのだ。そんなRPGプレイヤーの気持ちだった。

帰ってから、おはようの挨拶と共にあいつを見つけた。早速アースジェットの登場だ。勢いよくハエ目がけて噴射すると、ハエの動きはみるみる鈍くなり、床に落ちた。念の為もう数秒噴射しておく。よし、これで消えたね。アースジェット最強!思わず同期にLINEで写真を送ったほどだ。ステマ以上にステマのムーブメントをかましてみせる。アースジェット心強すぎ。そして、本格的に家の掃除を行うことにした。原因と思われる場所は全て潰す。麺つゆトラップを厳重に蓋をして処分し、シンクのネットを変え、燃えるゴミを捨て、掃除機をかけた。水周りとシンクに少し冷ましてからお湯をかけた。卵が産みつけられる可能性があるため、そういった場所は熱湯を流して死滅させるのがよいそう。ただ排水溝が痛むため、沸騰してすぐのお湯はNG。60℃以下とかだった気がするけどわたしは気持ち水を入れる感じでブレンドした。

この日は後輩が2人遊びに来て大好きなAAAのLIVE DVDを家で観ることになっていた。だからこそ、全てを掃除した。綺麗な床、完全に小バエがいなくなった我が家に久々に平和が訪れ清々しい気分だった。

後輩が来て、わたしは約1週間ぶりにリビングのソファに腰掛けた。はあ、いいなあ。ソファ。後輩の第一声も綺麗なお家ですね!というなんとも救われる褒め言葉を投げかけてくれた。リビングで素麺を食べる、なんてないことだが、そういういうありきたりな日常が戻ってきたことに泣きそうになっていた。

後輩の1人が持ってきてくれた高級そうなプリンを食べながら、私たちは映像を最後まで楽しんでいた。プロジェクターで見ていたため、若干照明を落として鑑賞していた。さあそろそろお開きかなと電気をつけたところ、嫌な影を見た。あいつ!?まさか……!いや、間違いない、1週間を共にしたのだから。

 我が家から全滅させたはずのノミバエが、復活していた。おいなんでだよ。

ヤツは後輩が食べ終わったプリンの瓶の中でカラメルの部分にコアラのように引っ付いた。見せたくなかったが……仕方がない……

後輩の前で、アースジェットを手に取り「ごめんね!」と言いながら瓶に向かって全力でスプレーを撒いた。ハエはもちろんご臨終。瓶は後輩を送りながらすぐ捨てた。最後に恥ずかしい気持ちにさせられ、今はもう亡き小バエを恨んだ。何でいまなの、来客中は大人しくしようよ???

これで、私の家のハエの原因となる場所は分かっておらず、そこへの然るべき対応ができていないことが分かった。ただどこも綺麗にしたはずだし、カラメルの香りに誘われてどこかから来ちゃったんだろうな、うん、そうだ、もう私には最高の武器アースジェットがあるんだから、もう見たらそれで撃退すればいいじゃない、ということでそれから次の日以降見かけた何匹かをアースジェットで彼らを毒ガスの中にお見舞した。プリンなくてもまだ湧いちゃう。いや原因ほんとにどこなんだ。

また、わたしはアースジェットと別でノミバエをワインの香りで引き寄せるバルサンの小バエ撃退製品も購入した。バルサンといえばそれこそGを一網打尽にするグッズを販売しているメーカーで、大変信頼できる。Amazonのお急ぎ便で翌日に到着した。迅速に配達してくださった配達員の方には心から感謝だ。とりあえずメイン出没スポットとなっているリビングの角に配置した。翌日既に1匹入っているのを確認し、あまりの早さにこちらに関しても引いた。ただ、これだけ効果があるということは、戦わなくていい敵はこちらで対応してくれそうで安心だ。効果は40日続くそうで、バルサンの公式から変える時期の通知が来るように設定もした。メールでその後小バエうんたらを購入したあなたへ〜のようなものが来て件名で不快になるが致し方ない。ちなみに効果は抜群で、3日後には10匹程度中に入っていることを確認済だ。なんでそんなにいるのか。気持ち悪すぎる。この頃になると、ご飯や飲み物に関しても、食べる時飲む時以外はラップをかけるという、徹底的にハエ絶対進入禁止の体制をとるようになった。

判明した本当の原因

戦いが始まってから1週間半が過ぎ、気づけばお盆休みがスタートした。もう小バエのいる生活に慣れてきている自分がおり(大変嫌だが)白いテーブルには不信感をもって近づいてしまう。朝カーテンを開ける時に、充電コードをまとめているケースについているのを見た時はお互い「わぁっ、いらっしゃったのですね!」みたいに飛び退いたが、リビングで久々にご飯を食べたらやはり近づいてきたところを冷静にアースジェットで撃退したり、ストレスを抱えながらもなんとか対応できるようになってきた感じはあった。電気ケトルを沸かしたまま放置してしまったら、帰宅後にその辺をうろつかれてケトルが使えないものになったり、箸にとまってアースジェットをかけたため使えなくなったりともちろん害がないわけではないが。そんな中、燃えないゴミを出そうと玄関の袋に近づいたところ、

ノミバエと思われる影が2つほど袋の中に。

そこで全てが繋がった。燃えないゴミの袋やん!!!彼らの拠点!!!急いで袋を縛ろうとしたところ、まだ生きている様子だったため急いでアースジェットを噴射。環境悪化につきもちろん抵抗してきたが、死にものぐるいで袋を縛る。このうち1匹はゴミを捨てたあと発見したため、取り逃したようで最悪だったが私にはアースジェットがある。かかってこいやあという強気マインドである。

全てのゴミとおさらばし、共に家を出た。

そして、今に至る。お盆期間は実家で過ごしており、本日帰宅予定だ。果たして我が家はどうなっているだろうか。食材は家に置いていないため、生きている個体がいたとしても餓死してくれていることに期待する。これからも小バエと遭遇することはあるだろうが、今まで蓄えた知識と共に懸命に戦っていきたい。

そして何よりこの体験から学んだのは、当たり前の日常の尊さだ。ご飯をリビングで食べられることが、どれだけ幸せなことか。今これを読んでくれている人がリビングでご飯を食べられているのであれば、それは大変素晴らしいことであることを伝えておきたい。そして当たり前の日常は一瞬で崩れる。その当たり前の日常を守るために、ゴミはすぐに縛って捨てること。色々と書いたが、これだけ覚えておいてほしい。

虫が大嫌いな自分だからこそ、撲滅すべく知識を蓄えることができた。憎しみは時にプラスの方向に働くこともあるのだなあと改めて感じた。なんていうのは嘘。世の中の小バエよ絶滅してくれ。

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