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患者中心の医療とは?〜疾患と病いの違いに目を向けよう〜

 在宅鍼灸師のためのマガジンをご覧いただき、ありがとうございます。このマガジンの「プライマリ・ケア」を担当しています、てつこと長岡哲輝と申します。

 前回の記事では、プライマリ・ケアについてざっくりと解説しました。

 今回は、プライマリ・ケアの核となる「患者中心の医療」にフォーカスしてみます。

患者中心の医療とは?

 「患者中心の医療」と聞いてどう思いますか?患者の要望を一方的に受け入れるサービスでしょうか?また、患者の訴えに真摯に耳を傾けて優しく対応する接遇のありかたでしょうか?

 患者中心の医療の本質は、下の図にあるように「患者の背景や文脈を理解し、健康問題の解決に向けてともに協働していく」ところにあります。

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「疾患」と「病いの体験」を探る

 昔、「患者満足度の高かった医者」の診療プロセスを解析した研究がありました。その結果、患者の生物学的診断(疾患)を明らかにするのと同時に、その症状は患者自身にとってどのような意味をもっているか?(病い)を明らかにしていることが分かりました。

 ある日、「頭が痛い」といって鍼灸院を受診した40代の男性。「ココ最近、後頭部が締め付けられる感じ。」「お風呂で温めるとマシになる」と言っています。「これは間違いなく緊張型頭痛だ!」と考えて〇〇などの経穴に治療をしました。痛みはNRS10から6に軽減。説明もしてバッチリ!しかし、この患者さんは2度と鍼灸院に来ることはなく、別の病院を受診していました。実はこの男性、親戚がくも膜下出血で急逝したばかりで、最初の症状が頭痛だったと聞いて「もしかして自分も、くも膜下出血では?」と心配していたのです。

 鍼灸師が「これは緊張型頭痛だ!(疾患)」と考えていても、患者は「この頭痛はなにか重大な病気では?(病い)」と考えているかもしれません。このギャプを埋めるプロセスこそ患者中心の医療の醍醐味なのです。

 つまり、わたしたち鍼灸師は、頭痛を緩和させる役割と同時に、「クモ膜下出血では?」という心配に耳を傾け対応する、2つの役割があるのです。

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 先日、「ぎっくり腰」で来院した50代の女性。1週間前に部屋の片付けをしていたら急に腰が痛くなって動けなかった。すこしずつよくなっているけど、まだ違和感がある。近所だったので、一度受診してみようと思った。簡単に問診を済ませ、動作などを確認し、「筋筋膜性性腰痛」と判断しました。治療後、痛みは軽減して、めでたしめでたし・・・だったのですが。

 診療の途中で、「なんでこの患者さんはよくなってきているのに来院したのだろう?」という疑問が浮かびました。そこで、帰り際「どうしてよくなってきているのに鍼灸を受けようとおもったのですか?」と聞きました。すると、「実は、長男家族が年末に遊びにくるのです。孫が先月生まれたばかりだけど一回もあえてない。抱っこしたいし、美味しい料理もつくってあげたい。それなのに腰に痛みがあるのが不安で・・・」とお話してくれました。受診理由を探るだけで「腰が痛い」ことの意味や、その背景が見えてきました。

 ただのよくある筋筋膜性腰痛(疾患)だったとしても、孫を抱っこできないかもしれない不安を感じていて(病い)家族を大切にしている(価値観や健康観)女性であるとすれば、関わり方が変わってくると思いませんか?

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「病いの経験」を探る4つの質問

 「病いの経験」はかならずしも、患者さんがすべて話してくれるとは限りません。先ほどの中年女性のように、意図的な問いかけをすることで初めて患者の背景が立体的にみえてくることはよくあります。そこで、病いの経験を探る4つの質問を紹介します。

感情:なにを一番心配していますか? 希望:どんな治療を希望していますか? 解釈:今の状況をどう考えていますか? 影響:日常生活にどんな影響がありますか? (頭文字で「かきかえ」と覚えよう!)

 正直、この質問をみてどう思いますか?こんな風に聞いたことないですよね?笑 しかし、病いの経験を探る質問は、このようなオープンクエスチョンを有効に使うことがかなり重要です

 これらの質問は事務的に聴取するものでは決してありません。なかには単純に腰痛の治療だけをしてほしい人もいます。家族のことを話したくない人もいます。

 1回の診療で患者の「病いの経験」をすべて把握するのは不可能です。というか、把握する必要はありません。医療者ー患者という、「対人関係の継続性」を形成するなかで少しずつ患者さんのことが分かるようになるのです。これをInterpersonal Continuityといって、患者中心の医療を特徴づける要素です。

患者中心の医療」のベースはコミュニケーション能力です。医療面接技法ともいいます。苦手意識を持っているひとは多いです。わたしもその一人でした。コミュニケーションは訓練すれば必ず上達します!

医療面接のおすすめ書籍

  ぼくが個人的にめちゃくちゃ読みこんだ医療面接の書籍をご紹介します。

わたしが医療面接やナラティブに興味を持つきっかけになった衝撃の一冊。医療面接においてこれ以上の書籍はありません。鍼灸師は“必ず”読んでください!

日本で初めて医学教育にOSCEを取り入れたといわれる伴信太郎先生。エビデンスに基づいた内容になっています。医者は患者の話を8秒で遮るとか(笑)薄いのでサクッと読めます。

心理学に基づいた質問の技術が超わかりやすい。質問がうまくなると、患者さんの理解がぐっと深まります。常に机の上に置いといて時々チラ見してます。

在宅緩和ケアで有名な小澤竹俊先生。苦しむひと向き合うすべての人へ。在宅ケアに関わる鍼灸師は必読です。「誰かを支えようとする人こそ、一番支えを必要としている。」

まとめ

①患者中心の医療は「患者の背景や文脈を理解し、健康問題の解決に向けてともに協働していく」ことに本質がある。

②「疾患」と「病い」の違いを理解しよう。

③「病いの経験」を探る質問「かきかえ」を覚えよう。

④「患者中心の医療」のベースとなるコミュニケーション能力を鍛えよう。

今回、説明しきれなかった部分は次回につづきます。

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