キーマン@nifty第20回 2003年8月8日掲載「荒稼ぎをする人達」

以下の小文はキーマン@nifty第20回 2003年8月8日掲載「荒稼ぎをする人達」の再掲載です。
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前回のコラムで利権の分配に暗躍するアメリカ国際開発局を紹介しましたように、アメリカの対イラク戦争は大量破壊兵器の破壊という先行の大義名分をあっさり放り出して戦争集結宣言を出しました。結局のところ、イラクを破壊して、新たな土建屋仕事を増やすことが対イラク戦争の本当の目的であると認めてしまっている。では最初のお題であった大量破壊兵器の話はどうなってしまったのか。

共同通信が6月18日に報じた記事にこんなのがあります。それは、イラク中部にある核施設ツワイサ原子力センターを警備していたイラク軍が消えた途端、施設が略奪の被害に会い、施設には国際的に管理されている粗製ウランであるイエローケーキの入ったドラム缶が強奪され、イエローケーキは砂漠に捨てられ、ドラム缶は飲料水容器になってしまった。この事実は6月7日に同施設を調査にきたIAEA(国際原子力機関)によって確認されたが、付近住民は放射性物質の危険性を認識しておらず、警告を書いた看板すら設置した日に無くなる状態であると共同通信は報じている。
 この記事は大変重要な事を伝えている。それは、アメリカ軍は核施設を差し押さえに行かなかったという事だ。イラクの核施設や生物研究施設の場所はアメリカの非政府組織「アメリカ連邦科学者協会」のWebサイトの中には詳細な地図と共に施設について紹介されており、知らなかったでは済まされない。

しかもこのサイトにはイラク関連の政府機関レポート、それはCIAだけではなく、CIAより上級機関である国家安全保障局(NAS)のレポートまで閲覧できる。そして、ここにあるレポートの殆どが結果として握りつぶされ、違う価値観で戦争が遂行された事が結果として判る。
最初から油田確保に動き、世界的な環境破壊を招く核施設の保安を放置した事実は非難のそしりは免れない。これが生物兵器の研究施設でアメリカが売り飛ばした細菌や病原体がまき散らされていたら問題はもっと深刻になったであろうが、幸いな事に生物兵器関連についてはトレーラーに載せられた移動式研究施設がアメリカ軍に差し押さえられたという報道があった以外、今の所、略奪などの被害に会ったという報道はない。

さてアメリカの対イラク戦争の事はさておき、日本に近い話題の国、北朝鮮こと朝鮮民主主義人民共和国である。そもそも朝鮮戦争の停戦協定は北朝鮮とアメリカ、正確には朝鮮戦争派遣国連軍参加各国と北朝鮮との間で結ばれた歴史があり、今も停戦中の戦争が、いつ再開しても誰も文句は言えない。それは、日本はもちろん韓国も北朝鮮と停戦協定を結んでいる訳ではないのでアメリカと北朝鮮が勝手に戦争再開しても当事者ではないので文句は言えない。だから北朝鮮の交渉相手は必ずアメリカであった。
 そのアメリカは何かに憑かれた様な戦争大好き政権が統治している。だれしもイラクの次は北朝鮮と思っていたが、最近になってイランに矛先を交わし始めた。例えばCIAことアメリカ中央情報局が去年1月に出した「大量破壊兵器に関する獲得活動」という報告書ではイラクよりイランに重点を置いて、いかに大量破壊兵器を獲得しようとしているかを北朝鮮よりも力をいれて記述している。しかも報告で脅威の順番はイランが第一位でイラクは第二位にランクされ、CIAはイラクよりイランの方が脅威としては上だとしている。しかしブッシュ政権はイラクを第一位として戦争に持ち込んだ。
 日本に話を合わせると、一番の脅威は北朝鮮になるのだが、CIA報告書では第三位に位置しているので、それなりに認められている存在ではあるが、上記報告書では具体的記述に乏しく、核兵器生産に必要なプルトニウムを1ないし2個分生産したとしている。この記述が新聞や週刊誌を飾った記事のネタ元となり、今も多くの識者と呼ばれる人達が振りかざしている。
 しかし、このCIA報告書を額面通りに受け取るならば、北朝鮮は2001年の時点では核兵器を実用化していないということになる。報告書によれば、核兵器を弾道ミサイルに積んで飛ばせるのは核保有五ヶ国の他はインドとパキスタンしかないと報告書は述べている。それは日本で言われるような北朝鮮が弾道ミサイルに核弾頭積んで飛ばせる訳ではないと遠回しに言っている事になる。
 アメリカから見ると中東は聖地エルサレムに近いので注意を払うが、北朝鮮は遠い極東の辺境の国でしかない。だが、アメリカから見たら辺境の国の一つである日本は軍隊を維持する経費の一部をいわゆる「おもいやり予算」でまかなってくれる唯一のスポンサーなので極東を無下にはできない。でも差し迫った脅威がないとなれば、次は管理された脅威を演出してスポンサーからの出資を円滑にするのがアメリカの国益にかなう。そこで出てくるのが「アカの恐怖」論である。
 五月上旬の世間の話題にクルクル教ことパナウェーブ研究所がありましたが、彼らは真っ白い布で覆い、スカラー波は電磁波だから危険だと主張していた事は、まだ覚えているでしょうが、では誰が攻撃してくるかと言うと、彼らは共産主義者だと誰も取り合わない敵を担ぎだしておりました。 いま一つ紹介しますサイト。これもパナウェーブ研究所を主催するかの団体のもう一つのサイトで、荒唐無稽が更に磨きかかかっており、彼らは存在しない敵「共産主義者」の他に、共産主義者を目の敵にしている世界基督教統一神霊協会こと統一協会が運営する「勝共連合」も攻撃している。冷戦期の時代、アカの恐怖を煽り立て、勢力を増した勝共連合。一般的には新興宗教団体「統一協会」に入信して財産を巻き上げられるとか、不法就労させられるといった問題が社会問題化していましたが、冷戦の崩壊と共に説得力を失い没落しつつあります。
 そんな「アカの恐怖」をネタに荒稼ぎしていた連中の一つに、パナウエーブ研究所もあった事を知ったのですが、スカラー電磁波で攻撃してくるという着想は、さすがの勝共連合も荒唐無稽すぎて考えも及ばなかった。 勝共連合は日本では思想新聞や世界日報、そしてアメリカにはワシントンタイムスという新聞社を抱えて言論界に殴り込みをかけていた。しかし現実に日本ではプロパカンダ新聞として有名な聖教新聞に遠く及ばず、世間の論調を左右する有力紙読売新聞の前には屁にもならない。
 たしかに偏った主張を掲げる出版物は世間では少数派なので問題はないのですが、これらが大同団結するとタチが悪くなる。日本の多くの右派は今でも陳腐化した「アカの恐怖」を主張し世界でも唯一の国家態勢を取る北朝鮮をネタにし、中国を薬味にしながら今日も「アカの恐怖」の布教活動を続けている。地味な布教活動の中で一番成功している所と言えばフジサンケイグループ。月刊誌「諸君」やワンコイン新聞を売りにしている産経新聞は、それなりに発効部数もあり、ある程度は世間の論調に影響力を与えている。しかし共産党フリークしか喜ばない様な中国・北朝鮮ネタコラムの存在は、目くそ鼻くそ笑う様で、はてこんなニュースが何の役にたつのだろうか。
 共産党フリーク相手の記事は、それなりの存在理由が説明できるのだが、日本国内の赤化を告発するとか大上段掲げつつ、今も細々と出版されている知る人ぞ知る定期刊行物に「月曜評論」という週刊誌がある。内容は朝日新聞のあげ足取りに終始している様な存在自体に首を傾げてしまうのだが、この読者層というのが、いわゆるインテリ層である事が問題視されている。
日本のインテリ層と呼ばれる地位ある人達にも深く根を下ろしている「アカの恐怖」論。本当に信じているとは思えないが、精神世界は判らない。中にはダシにしている北朝鮮と間接的につながりを指摘されている人達もいる。それはアンダーグランドな世界での商取引に起因する地下銀行や麻薬密売、そして援助利権にマネーロンダリング。当然、発覚すれば一大スキャンダルになるのだが、滅多なことでは表沙汰にはならない。
 例えば、 北朝鮮に対する食料支援にしても「古米は失礼だ。新米を送るべきだ」と発言した国務大臣がいた中、支援する量を巡って50万トンを言い出したのは鈴木宗男議員、最終的に北朝鮮への支援米の輸送と保管の利権を獲得したのは鈴木宗男議員の親分である加藤紘一議員の関係する会社であり、北朝鮮領海内でのベニズワイガニ漁操業許可の窓口という操業利権まで手中に納めている。今や故人となった金丸信が北朝鮮からの鉱物資源や川砂利輸入の利権を手に入れていることが有名な話だったか、加藤紘一議員の利権獲得は、それを更に上回るものだ。
 小泉首相による日朝国交正常化の裏にはコメ支援利権は言われていたが、更に一歩踏み込んで、中国国境の豆満江流域開発プロジェクトという経済特区として総合開発を推進する為だという話もある。このプロジェクトは森派を主導にし、日本の商社に仕切らせて発電所やインフラネットワークの整備という巨大利権を手中に納めようとしている。
過去の事例でいうとインドネシアの開発に児玉誉士夫が持っていた東日貿易という商社が暗躍し、多大な利益が転がり込んだ過去がある。この時、赤坂にあったコパカバナという高級バーのホステスだった根元七保子はデビという名前で東日貿易の秘書として送り込まれてスカルノ大統領に接近し、東日貿易に有利になる様に様々な工作活動をし、デビ自身はスカルノ第3婦人となりスカルノの末っ子を生んだ。今、彼女はインドネシア国民から暴利をむさぼるスカルノ一族の一人として持ち慣れない大金の使い道に困っている様子だ。
 そのコパカバナはロッキードやマクドネル・ダグラス、グラマンやノースロップといった航空機メーカーの重役達を初め、高級官僚やエンドユーザーなどが連れ込まれる飲み屋として有名で、航空自衛隊がグラマンのF11F-1Fの調達決定直前にロッキードF104に機種変更したり、海上自衛隊がロッキードの対潜哨戒機P-3Cや、全然売れなかったネタの旅客機と殆ど変わらないUP-3C電子戦演習機の購入決定になったのも、全日空がロッキードのトライスターになったのも、震源地はコパカバナであった。
 なぜ、どんでん返しが起きたか。その結論はロッキード疑惑として表面化した通り、かつてCIAに雇われていた児玉誉士夫がロッキードに有利になる様、ロッキードから工作資金を受け取り、コパカバナを舞台に、あらゆる工作をした成果だった。そして児玉誉士夫は契約成立の度にCIAから更に謝礼まで受け取っていた。当然、国会にも取り上げられ、国会での追求は児玉誉士夫の裏工作で1回目は追求から逃れる事に成功したが、2回目は失敗し田中角栄を初めとする政府要人がイモずる式に摘発されていった。
 もっともグラマンにしても1978年に日米証券取引委員会(SEC)がマクドネル・ダグラス社のF4EJファントム戦闘機売り込みに対する対日不正支払い、いわゆるリベート支払いの事実を告発した折に、1957年(昭和32年)の第一次防衛力整備時にF86F戦闘機の後継選定時に1958年4月、グラマンから岸内閣にF11戦闘機1機あたり1000万円のリベートが岸信介の総選挙費用と総裁選対策費として支払われたという疑惑も明らかにされている。
 そんな調子で各社の闇献金が暴露されても、結局は良いものは売れるという資本原理に従い、ロッキードは民間航空機事業ではマクドネル・ダグラスやボーイングの敵ではなかった。例えばロッキードの主力商品はアメリカ空軍やCIAに納めるU-2やSR-71といった国防機密上の問題から他国に売れない偵察機や海上自衛隊にも納めた対潜哨戒機P-3Cといった軍用機製造を経営の軸にしていた。一番の痛手はアメリカ空軍の大型長距離輸送機C-5の選定で、ボーイングではなくロッキードのギャラクシーが選ばれてしまった事であった。開発費は軍の予算から出るが、開発後の販売先のフォローはまったくない。民需に経営の軸を置いたボーイングは破れた試作機にジャンボの愛称を着け民間に売り出した所、空前の大ヒットとなった。その結果、マクドネル・ダグラスとボーイングはヨーロッパ勢のエアバスやブリティッシュ・エアロスペースと共に旧共産圏にも顧客を獲得し、北朝鮮の高麗航空ですらマクドネル・ダグラスを使っている。
 一方、軍用機という足かせがついたギャラクシーは議会の承認なしではアメリカ政府機関以外には売れない。ロッキードは日本での工作活動で倒産の危機を乗り越えたものの、トライスターの販売不振やロッキード事件発覚後、民間航空業界から総スカン食らったロッキードは民間旅客機事業から撤退を余技なくされ、今や落ち目のメーカーとなった。もっとも競合他社にしても合併して生き残っている状態で、マクドネル・ダグラスはボーイングの傘下に、グラマンはノースロップと合併するなどアメリカの航空業界再編は進んでいる。 (次号に続く)

キーマン@軍事・edit:高木規行

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