無題

 「泣かないでって言ったのに」
最後のひとことは、泡になって溢れて消えた。

 出会ったとき、まだらな葉影が真っ白な岩肌に揺れる8月。何も映っていないような瞳のあなたは、その口元だけで笑っている気がした。
 約束もないのに、そこに君がいるという予感で沢を登れば、いつも全く同じ顔でそこいる。

「かなしいね」
胸に寄せた、湿った、

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