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1067勝

 近年はAIの台頭が目覚ましい。米オックスフォード大学の研究によれば、今ある職業のおよそ47パーセントがあと20年でAIが取って代わるという。そのAIの波はスポーツの世界でも確実に広がっている。統計学的指標を基に分析を行い、選手のコンディション管理もAIが行うとはひと昔では考えられなかっただろう。

 AIは膨大なデータを基に考えうる選択肢を導き出し、その中から最適な答えを導く、いわば確率論だ。故に、最善手を提示することは出来ても勝利を担保することは出来ない。一方で現場に目を向けると、絶対の勝利を求められている瞬間がある。データによる合理的な判断は勝利を呼び込むだろう。しかし、そこから実際に勝利を得るには選手自身の気持ちが必要不可欠である。昨日、読売巨人軍通算歴代最多勝監督となった原辰徳監督が示してくれた。

 積み上げた「1067」勝には様々な表情がある。原監督は相手のミスをきっかけとした偶然の勝利には全く喜ばない。むしろ敗北以上に苛立ちを表に出すという。また自らの采配が的中して良い結果を生んだ際も、至って冷静にしているそうだ。一方でビハインドの場面で選手が逆転打を打った際には、大きな喜びを爆発させる。自らの振る舞いひとつで、勝利へのおごりを無くし、選手の自信、チームへの貢献意欲を生み出す光景はまさに名将ここにあり、だろう。

 原監督は選手のプレーを辛辣に語ることも多い。明らかに憤りを押し殺しているといった表情だ。監督の雰囲気を選手が感じ取らない訳はなく、何とかせねばと本気で考える。いわば監督の感情が伝播する中であるべきチーム像を作り上げているのだ。

「いい選手やうまい選手はいらない。強い選手を求めている。」これは原監督の言葉だ。勝手ながら私なりに解釈すれば、AIが導き出した最適解を忠実に再現できる選手はいい選手だ。しかし、その上で勝利への執着心を持った選手を強い選手と表しているのではないだろうか。まさしくAIが幅を利かす現代において、我々人間が持っている「感情」のパワーを感じた次第である。


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