一足飛びの果て Epi.

後味の悪さを抱えたまま、パソコンでパズルゲームを延々とする。今日の講義は全部サボった。今夜はバイトもない。シフト制で働く彼は、同じ部屋で相変わらずぼうっとしているようだった。昼前に帰って来た私に少しの不信感を表した以外は。ポン、ポン、ポン、と、パズルゲームのSEが鳴り続ける。こんな事をしている場合じゃないのに、コンティニューを選ぶ動作が止められなかった。
「あのさ。」
彼の呼びかけを無視する。私は操作を止められないので、ポン、ポン、と、SEが変わらず鳴り続ける。
「なんで昨晩泊まりだったの?」
画面から目を離せられない私は、少しだけ首を動かして彼の言葉を聞いているそぶりを見せる。
「遊んでて、終電逃して。」
ちょうどよくゲームオーバーを迎えたので、少しだけ物悲しいBGMが部屋に響く。
「ふうん。」
彼がどんな顔をしているのかをちらりと見る。いつもの、何を考えているのかがわからない無表情ぶりだった。彼にさえ興味を失った私は、そのままゲーム画面へ目を戻してコンティニューを選ぶ。
「あのさ。」
「うん。」
私の指は止まらない。ポン、ポン、と、音が鳴る。
「別れようか。」
「いいよ。」
待望の一言だった。何度ケンカをしようとも、今までずっと相手からは出てこなかった言葉だった。パソコンのゲーム画面を閉じて、私はすっくと立ち上がった。
「えっ?」
相手の驚きをあえて無視したまま、私は押入れの中からキャリーケースを取り出した。同じ押入れの上段に入っている下着や洋服を次々と詰め込んでいく。
「いや、ごめん、嘘。」
「私は前から別れたいって言ってたじゃん。」
引き止めていたのはあなたの方だ。それがなくなったのなら、円満なる破局が成立する。元から転がり込んだだけの部屋だったから、私の荷物はそれほど多くない。
「やめてよ。」
「やめない。」
あっという間に必要最低限のものはまとまった。パソコンはひとまず置いていく事にした。
「じゃ、さようなら。」
カギはリビングの机の上に置いたまま、玄関のドアを開けて外へ出て行った。無理やり腕を掴まれて引き止められることもなく、私はあっけなくこの部屋から抜けられた。アスファルトの上で鳴るキャリーバッグを引く音を聞きながら、思ってたいた以上に絶望感を味わっているのを自覚した。
タカアキに好かれている自覚はあった。
カナメ君に好かれている自覚もあった。
二人とも、本当に私なんかを好きなのかと、疑ってもいた。私はほんとうにロクでもない女だ。平気で嘘をつくし、嫌いだと感じながら愛想笑いで誤魔化すこともできる。そうやって目の前のことをやり過ごして、嫌われないようにする事をしている。そんな最低な女を見てもなお、好きだと言えるような男はきっといないだろう。だからわざと私の最低な部分を全部見せてやった。私なんかへ長い時間を割いて、その人生に無駄となるような日々を与えてしまうのは、心苦しい。二人とも、私ではない誰かともっと幸せになった方がいい。私と同じような最低な人間にこそ、私との時間を過ごすのがお似合いだから。
がらがらがら。
バックを引く音が、私の道のりをよく表してくれているようだった。

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