一足飛びの果て 3

電気が消えている部屋の玄関が開いた。時刻は夜11時ごろを回っていた。玄関の電気が点けられた後に、ドアが閉められた。
「ただいま。」
女が独り言のように呟いた。迎える言葉はなかった。靴を脱いで、リビングへ向かう。リビングの電気も点けて、カバンを机の上へ置いた。女はため息をついて、同居人のパソコンを眺める。電源は落とされていた。スマホを取り出して、未読メッセージの確認をする。いくつかの返信を送った後に、じっと画面を見つめていた。
「…おやすみなさい。」
女は画面の向こうの誰かへ言うように呟いて、スマホをテーブルの上に置き、バスルームへと向かった。

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男はぼんやりとした様子で動画サイトの映像を眺めていた。キーボードの横にはハンバーガーが入っていた箱とポテト、紙カップに入ったコーラが並べられていた。画面の中のコメディアンが数人でトークしている様を、無表情で眺めている。
「タカアキ、明日も仕事でしょ?早く寝なさいよ。」
男の母親が彼の背中へ向けてそう言って、すぐに自室へと戻っていった。追って男が母親のいた方へ顔を向けた時には、もう誰もいなかった。パソコンの画面へと向き直った時、スマホの通知音が鳴った。画面を見たままスマホを取り上げ、ちらりと通知欄を見る。メッセージを送ってきたのは、男の彼女だった。友人との飲み会で同席して、意気投合してそのまま付き合い始めた、年下の彼女。
『今度の土曜日、友達と出かけてくる。』
その文面を特に気にしもせず、返事も作らないままに男はスマホの画面を机に伏せた。冷えてしなびたポテトを口に運び、ディスプレイの右下に表示されている時計を一瞥した後、再生されている動画へと戻った。

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