分解と腐蝕のあとがき

本記事は以下の作品のあとがきです。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18871722

以下は一応あとがきという立ち位置ですが、作品の蛇足になってしまう可能性もあると判断したので別の記事で公開することに決めた文章になります。

「分解と腐蝕の間に躊躇う恋をする嘘、眩い本当」に関しては、コロセラムがアレーンへの理解を深める過程を描いています。なので、情報量としてはアレーンの情報が、カップリングの二次創作物としての心情の描写はコロセラムのものが多くなりました。

全体を通して、アレーンの要素である「機能不全家族育ちで回避型愛着スタイルの、愛着障害になりかけの子供」という部分にかなり重きを置いていて、アレーンがまだ成長途中であるという情報から彼を導く存在として、対角にいる「普通の大人」という存在であるようにコロセラムを描きました。
ドクターって「普通」の視点を描きづらいんですよね。多分普通のことを知っていて導くことができるけれど、その発言に重みを持たせようとするとどうしてもドクターが普通の人間ではないという点が引っかかってしまうので。他のオペレーターを見ても、普通を体感したことがあって、その重みを知っている子って少ないような気がします。
現状出ている情報からだとコロセラムってクルビアのいい家庭で問題なく育ったように見えるので……もしかしたら全部違うかもしれないけど……。日本人の感覚で言う普通にかなり近いものを持っているキャラクター性をしていると思っています。そもそもクルビア自体がラテラーノより普通の人間を生みやすい気もするんですよね。感染者じゃなければ尚更。フィディアの要素が見た目のモチーフぐらいなところと、サンクタという種族が与えられている能力を比べるとサンクタはアークナイツの種族の中でもかなり特殊なほうだと思います。

そして二人の共通点に「寂しさ」があります。
アレーンは育った環境に愛情が足りなかったという寂しさを、コロセラムはいくら仕事が出来ても周囲の誰からも理解されなかったという寂しさを持っています。
コロセラムは充分な愛情を受けて育った分、愛情を与えることができる人間だと解釈しており、アレーンの寂しさを埋められると考えました。
そしてアレーンは自分の意志で銃を持たないサンクタという、周囲に理解されづらい特徴を持っています。そして本人が周囲との距離を取りたがるので、理解されないことへの恐怖が薄く、それ故に自分が理解できるということの重要性にも気が付いていないと考えています。今作でアレーンはコロセラムが自分のアーツを分析していくうちに適性や優秀さを理解して、その仕事ぶりを素直に評価しています。その無意識な信頼が、コロセラムに理解されているという実感を与えて、寂しさを埋めています。

本文中で頻出している「わかる」「分かる」「解る」の使い分けが二人の関係が深まっていくにつれて重要になっていきます。
コロセラムはアレーンのことを「解る」けれど「わからない」、つまり情報として理解はできますが同じ感情を抱くことはできません。
一方アレーンはコロセラムのことを「分かろうとしない」。この人との距離感の作り方が回避型愛着スタイルのものであるように描きました。
そして後半ではコロセラムが「わからない」ことを「解る」ようになって、それを受け入れます。わからないなりに何ができるのか、というコロセラムの責任感の強さと光属性のイメージを反映した思考パターンにしました。
アレーンは「わかる」以前の、相手の気持ちを聞き入れることが出来るようになっていく変化を持たせています。だんだんとコロセラムのことを認めて、意識的に頼るようになっていっていく中で自分の感情を表に出す能力を身に着けていきます。

アレーンについては私が以前Twitterで、「子供に子供らしい感情を抱かせたりそういう子供らしさに罪悪感や嫌悪感を持たせないことが成長の過程では大切なのにアレーンってそこらへんすっ飛ばしているし、たぶん周囲もしっかりした子だなあと思ってしまうからそういう子供らしさの欠落に気づいてあげられていないと思う」「今のアレーンに必要なものは安心できる居場所だし、内面を知っていった時の反応として共感と憐みは毒にしかならないから納得はできなくても理解してあげることだったりただ受け止めてあげることで彼自身が問題点に気づいてくれる日を待つしかないんじゃないかなあ……」という発言をしており、今作のコロセラムにはアレーンに年相応の子供らしさがあることを見つけさせたり、安全基地になろうと努める様子を描いたりしました。
親ではない安全基地とは、学校の先生、友達、恋人などが挙げられます。違うものをもって生まれて、違う環境で育ち、違う生き方をしてきたとしても、自分の気持ちを無条件に受け止めてくれる人。共感ではなく、自分とは違う気持ちを持つ人の存在を認められる人であるとされています。アレーンにとってコロセラムがそう映るように発言を調整しました。
そして、愛着を獲得するには依存と自立のバランスを取る必要があり、プロファイルを読む限りアレーンはかなり自立に寄っています。なのでアレーンがコロセラムに頼る描写が後半に行くにつれて増えていきました。

コロセラムは自分が欲深い人間だということを認めており、特に求められたいという欲求が強く見られます。以上のことから、まず初めにケルシーがコロセラムを理解し、その能力を求めている描写を入れました。なのでコロセラムは初めからアレーンに協力的な姿勢を見せて、ケルシーの期待に応えようとします。ちなみにここのケルシー構文をどうしようかかなり悩んだのですが、あんまり長くしても本筋から逸れてしまうのと、そもそも私の文体的に話が長いので諦めました。
そしてここからはカップリングの話になりますが、本文中にも書きましたがコロセラムの心情の変化としては「初めは命令だった。それが同情に変わって、だんだんと理解になっていって、心の中で体積を増やして」いったように描いています。この中の理解まではコロセラムの大人としての責任故の感情ですが、心の中で体積を増やしていったという描写に関してはだんだんと恋愛感情を抱いていったことを表現しています。つまり、この文章以降はコロセラムは明確にアレーンを恋愛対象としても見ています。
一方アレーンは「……初めて、あんたの言ってることが分かった」という台詞まで、自分の心情に気づいていません。本来親から与えられるはずだった安心を与えられた充足感や、コロセラムの包み隠さない感情を受けた時の心の揺らぎで、だんだんとアレーンは抑圧されていた無意識に気づいていきます。そしてその台詞以降は能動的にコロセラムを求めるようになりますが、その時点ではまだ自分の心情を認識するようになっただけです。なぜ欲しいと思うのか、という部分には気づいていません。アレーンは身体的にコロセラムとの繋がりを得ようとしますが、コロセラムが本当に救おうとしていたのはその奥の心です。最後の、部屋での対話のシーンでそれは成されて、アレーンは心からコロセラムのことが好きなのだと認めます。

以上、執筆中に意図していたことや、前提となる単語や知識の部分をまとめてみました。
特に私の描くアレーンの持つ思考パターンが、愛着障害のうち、回避型愛着スタイルの傾向があるという部分は説明しないと伝わらない人にはとことんぴんと来ないだろうなと思ったので改めて書いておきました。愛着障害については特に参考にさせていただいたサイトがあるので、掲載させていただきます。是非皆さんに読んでいただきたいサイトです。
愛着こう【https://attachment-kou.jp/】

作品を読んでいただいたうえで、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます。作者冥利に尽きます。
私にとってもこの作品が始まりになるように精進して参りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

無理な金額は自重してね。貰ったお金は多分お昼ご飯になります。