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フォルクスワーゲン・up!  『福野礼一郎のニューカー 二番搾り』

2012年9月19日/9月25日

ドイツやばい

 フーゴ・ボーヒャルト(Hugo Borchardt)が1893年に設計したピストルは世界初の自動装填式拳銃だが、設計の妙もさることながら、生産を受諾したルードウィッヒ・ローベ社の機械加工と仕上げが、これまた工芸品のように見事だった。有名なルガーP-08は、そのメカニズムをなんとか小型化しようとする設計的努力から誕生した。
 しかし世界中の武器製造者が、その精緻なメカニズムと加工技術に心酔していた1940年代、ドイツ工業界は、鋼板プレス加工をスポット溶接して組み立てた廉価で簡素なボディ構造を、短機関銃MP40、機関銃MG42、突撃銃Stg44に次々に採用して、驚かせた。陸上自衛隊の制式小銃の本体部が、炭素鋼圧延材の切削加工から、ようやく鋼板プレス製になったのは1989年のことだが、ドイツ連邦軍がその7年後に採用したアサルトライフルH&KG36のボディは、もはやプラスチック製(GFRP)である。
 ドイツの機械が昔も今も凄いのは、設計技術のきらめきだけでも、生産技術の努力と工夫だけでもない。その両方が綿密にリンクしていることだ。生産技術の追求から、とんでもない革新的設計構造が数多く生まれてきた。畑村博士を差し置いてここでエンジンの設計の話など持ち出すのは、いささかもって恐懼に堪えないのだが、ポート噴射、NA、ベルト駆動という、一見「???」なニューエンジンの概要を尋ねてみたら、カムカバーの裏にカムホルダーを一体成形してラインボーリング、組み立て式のカムローブを加熱してそこに一列に並べ、きんきんに冷却したシャフトで一気に串刺しにして、カムをカムカバーの裏側で一体に組み立てているという。「しえ~」と思った。

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