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神の声を聞いた男(ときめきメモリアルSS)


本記事は、今年30周年を迎えた「ときめきメモリアル」のサイドストーリー(通称SS)となります。


あなたと幼馴染だっていうだけでも嫌なのに。それじゃ、さよなら

そういうと、俺の幼馴染だった少女は去っていった。
こちらを振り向くこともせずに。

わかっていたことではある。
が、ショックは…受けているようだ。
まぁ、俺の存在自体が許せないんだろうな、あの幼馴染は。
いや、もう元幼馴染、とでもしておいてあげたほうがいいだろう。
彼女のためにも。

少なからず受けていたダメージから立ち直ると、目の前に見知った顔があった。そういえば、俺がミスしていたら、いっつも唐突に現れていたっけ。

「よう、伊集院。まだ残ってたんだな。卒業式の日に、こんな時間まで残っているなんて、何か用事でもあるのか?」

そう。今日はきらめき高校の卒業式。
俺を含め、45期生の生徒は、今日でこの高校ともサヨナラである。

「……。随分と、まぁ、嫌われたものだねぇ」

質問には答えず、率直な感想を言ってくる伊集院。
見られていたか、と思いつつも、ここは校門前だ。誰かしらはギャラリーはいるだろう。
ただ、コイツがまだいるとは、思わなかったけど。

「…そうだな。でもまぁ、いいんじゃないか? "彼女"とは進路も違うわけだし」

「アメリカ留学、だったかな。」

「あぁ。というか、よく知っていたな」

バスケ部に所属していた俺は、3年目のインターハイに参加し、きらめき高校を全国制覇に導いた。
そのおかげで、進路はアメリカにバスケ留学である。


「我がきらめき高校の名を全国に届けた人物の進路くらいは把握しているさ。もっとも…」

「三国一の嫌われ者、だけどな。」

「…………」

黙り込む、伊集院。

「気にするな。本当のことだしな。」

「そんなことは…」と言葉を続けようとした伊集院を遮り、俺は話だした。


「『嫌!お兄ちゃんに会いにも来ないで下さいね。』…これは、バスケ部の後輩の女の子から言われた」

「……」

「他にも、教えてやろうか?鮮明に覚えているぞ。」

伊集院が黙っているのを肯定を受け取って、元幼馴染の少女に振られる前の"記憶"を話す。

詩集が好きな病弱な娘からは『嫌です。用はそれだけですか?

世界征服の野望を持った実験好きの娘からは『あなたごとき、モルモットにもならないわ。失礼。

独創的な髪型のガーギー画集が好きな娘からは『アイムソータイアード。飽きたわ。もう、帰るわね。

応援好きの運動部のヒロインと言われた娘からは『あなたには悪いけど、そんな気持ち全然ないから。ごめんなさい。

のんびりした特徴と裏腹にテニスが得意な娘からは『それでは、お父様が待っておりますので。

人魚姫の二つ名を持つ娘からは『あーっ、もういらいらする。用があるならはっきり言えよ。

親衛隊を引き連れたきらめき高校のマドンナの娘からは『貴方、何様のつもり?鏡をよく見て出直すことね。

流行に詳しい元気な娘からは『何それ?超むかつく。

恥ずかしがり屋だけど芯の強い動物好きの娘からは『・・・・・・・・。困ります。

高校からの付き合いだが、"親友"と思えた、元親友からは『悪いな。俺、彼女と帰るからさ。じゃあな。


淡々と話す俺とは対象的に、話をずっと聞いている伊集院の顔は時折ゆがむ。まぁ、言葉だけとはいえ、人は傷つくってことだな。
そんな事を考えていた俺に声をかける伊集院。

「……なぜ」

「なぜ、とは?」

「なぜ、こんなことをしたんだね。」

「……。別に俺は"何もしていない"ぞ」

「あぁ、そうだね。君は"何もしなかった"。彼女達に"何もしなかった"んだ。彼女達との下校も、デート…もね。だから、悪い噂が流れ始めた」

まぁ、悪い噂どころか、爆弾が爆発したんじゃないかってくらいの勢いで、女生徒たちからは嫌われ始めたな。
下校時に一緒に帰ろうって誘ってきた娘たちが、あっという間に校内で顔を合わせただけで嫌な顔をしてたものな。あぁ、恐ろしい。

そんな事を考えている俺を知ってから知らずか、伊集院はずっとこちらを見ている。いや、睨んでいるのか?
ポリポリと頭を掻いた俺は、話題をずらすことにした。

「伊集院さ。お前、""って信じている?」

「は?いきなり何を言い出すんだね」

「いいから、さ。神。神でないなら、仏様でも、天使でも、妖怪でも、なんなら…悪魔でも。」

「……しんじ…ないね」

伊集院の家は大富豪だ。おそらく帝王学などを学び、人の上に立つ人間としての教育を受けているのだろう。そんな輩が、まぁ神にすがるってのは、普通はないわな。もっとも、老人になって死ぬのが怖くなったら、その考えも変わるのかもしれないが。
まぁ、そんなことは、どうでもいい。
俺は自分の考えを話した。

「そうか、実は、俺は信じているんだ。」

「……」

「忘れもしない、きらめき高校の入学式の時だよ。唐突に神の声が聞こえたんだ。『お前に全てを授けてやる。これで、普段は寝て過ごしても勝ち組だぞ』って、ね。」

「……なるほど。だから、入学当初の君は、成績が良い割には、平日は休んでばかりいたのか」

「別に好きで休んでたんじゃないぞ。本当に体がだるかったんだ。それに、部活はしていた」

「……」

「まぁ、そんな高校生活を送っていたのにさ、なぜか女の子とは知り合いになることが多くてさ。でも、神がさ、俺の頭に囁くんだよ。『彼女たちを相手にする必要はない。それより、部活の合間に電話をしろ』ってね。それがどんな電話だったか、お前にならわかるだろう。」

「…あぁ。わかっているとも」

電話の相手は、伊集院レイ。
最初は1秒も話してもらえなかったけど、そのうち、金のベッドの話、ダイヤモンドの漬け物石の話、プラチナの机の話、40畳のトイレの話をしてくれたな。全部、覚えているぜ。
顔を逸らす伊集院。なんだ、急に恥ずかしくなったのか?全部お前が自分でふってきた話題だろうに。…あぁ、だからか。

まぁ、そんな伊集院に向かって、俺は言葉を続ける。

「じゃあさ。俺からの電話、何回掛かってきたか、覚えている?」

「……」

首を振る、伊集院。
そうか、そこまでは覚えてくれていなかったか。それは残念だ。

「69回、だ」

「69…かい!?」

「どうした?女生徒用の制服を用意するくらいには、びっくりしたか?」

「!!」

ビクッとした伊集院。
まぁ、唐突にそんなこと言われれば、びっくりはするだろうな。
もしかしたら、本当に用意はしていたのかもしれない。
でも、目の前にいる伊集院は、いつもの特注の制服だ。


「ある時、神は言ったんだ。『しまった!一回足りなかったか!!』ってね」

「…? どういうことかね」

「さあね。ただ、その後で神はなんて言ったと思う?」

「……」

「『せっかくだから、この状態で告白してみるか』」

「な!?」

「そこからの神の行動は早かったよ。俺に意思など気にせずに、女の子に"告白"しに行くんだ。」

「……」

「最初はさ、そりゃ傷ついたよ。そういえば、神の声も聞こえていたな。いや、あれは声というよりも、嘆きに近かったのかもしれないな。
でもな、女の子から罵倒を浴びられた後でしばらくすると記憶が曖昧になってな。気がついたら、卒業式の数日前の夜になっているんだよ。
そして、卒業式には、また別の娘のところに"告白"しに行くんだ。
まるで、夢を見ているような感じだった。
でも、"告白"のたびに、神の嘆きは聞こえた」

「…………」

「でも、そのうち神の嘆きも聞こえなくなってきた。あぁ、でも、流石にさっきの"元幼馴染"からの罵倒は応えたみたいだな。久々に、嘆きが聞こえたよ。……ザマァみろだ。」

クククと笑う俺に、哀れみの表情を見せる伊集院。
あぁ、すまないな。
今になって思えば、お前からのイヤミは、割と心地よかったぞ。

伊集院は何かを言おうとして、言い淀む。
さっきからそれの繰り返しだ。
待っていたいのも山々だが、"神"の野郎の声が、俺の頭の中に囁く。
あぁ、そういえば、まだ会えていない娘もいたな。


「さて、じゃあ俺はこれから居るかどうかもわからない女の子を探して"告白"に行かなきゃいけないんでな。"あの娘"なら、俺のことを嫌いにはならないとは思うけど…そもそも、告白させてもらえるのかどうか、わからないんだよな」

「!? ま、まちたまえ!話はまだ終わっていないぞ」

「…悪いな。まぁ、もしアメリカで偶然であったんなら、声でもかけてくれや。そんじゃーな、"伊集院さん"。達者で暮らしてくれよ」



一人残された伊集院レイ。
校舎に戻る、"彼"の背中を見続けていたが、やがて自分の頬が濡れているのに気がついた。

「……どうして。どうして、そんな不毛なことを。……どうしてなんですか、"こなみまん"さん」


こうして、「みんな 仲良し」と名付けられた男の高校生活三年間は幕を閉じた。
彼が、最後に"あの娘"に会えたのかは、誰も知らない。

しかし、どこからか、"女々しい野郎どもの詩"のイントロが聴こえてきたのだった。


というわけで、セガサターン(通称SS)版の追加システム"自分から告白"を題材にしたSSとなります。
X(旧twitter)のTLにSSが流れてきたので、思いつきで書いてみました。

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