【論文紹介】Thermal perception on lingual and labial skin

論文:Thermal perception on lingual and labial skin
著者:Barry G. Green 
https://link.springer.com/content/pdf/10.3758/BF03206361.pdf
Perception & Psychophysics

どんなもの?

 温かさと冷たさの感覚を唇側と舌側の6つの部位と指先で測定した。実験の結果、温かい刺激の強さの感じ方は、その刺激を受ける場所に依存した。(刺激温度の低い条件では朱色の唇の部分が最も温感に反応し、温度が高い条件では舌先が最も強く反応した。)口腔内の冷却に対する反応は、指先や顔の冷却に対する知覚と比較して、部位での変化がなく、加温よりも相対的に強かった。(唇の外側(毛が生えたとこ)と、朱色の唇、粘膜のある唇の内側、舌先のすべてが冷たい刺激に対して同じように反応した。)

→温熱刺激の強さの感じ方は、その刺激を受ける場所に依存することが多く、その場所の違いは加温の方が冷却よりも大きいことがわかった。
 口腔内と人差し指の比較では、口腔内のすべての部位で、指先よりも温度変化に対する反応が強かった。

先行研究と比較してどこがすごい?

 口を燃やしたり凍らせたりする可能性のあるものは食べられないものとして拒絶されるが、より穏やかな温度に対する口の反応に関する情報はない。そのため、口腔内の温度感覚の重要性や体温調節の影響についてほとんど知られてない。この論文では、唇側と舌側の6か所と指先の温度変化の知覚を調べた。

技術や手法のキモはどこ?

◎実験:温かさの知覚の調査
〇実験1
 まず、口腔内の3つの部位と人差し指の指先を加熱することで生じる温熱感覚の強さを測定した。下唇の朱色の淵、舌先の裏側、舌の内側の裏側を口腔内の3つの部位とした。
 22㎝の5本のアルミニウム棒を脱イオン水に入れて、38°,40°,42°,44°,46°の温度を使用した。皮膚接触時のプローブの温度、刺激時に生じる皮膚温度の変化を測定する。

〇実験2
 上下の朱色の唇のみに刺激を提示した。(それ以外は実験1と同じ)

〇実験3
 唇の外側(唇の下の毛が生えたとこ)、内側(唇そのもの)、唇の内側(唇の内側の粘膜)の表面の3つの面に刺激を提示した。温度は実験1と同様に制御した。

◎実験:冷たさの知覚の調査
〇実験4
 実験1-1と同様に、口腔内の3つの部位と人差し指を冷却することで生じる温度感覚の強さを測定した。28℃、24℃、20℃、16.5℃、10℃の刺激を提示する。(皮膚接触時の刺激温度は27.3℃、23.4℃、20℃、16.4℃、10.4℃) 刺激による皮膚温度の変化は実験1と同様に測定した。

〇実験5
 同じ唇の部位で冷却に対する反応を調べた。刺激方法は実験3と同じ。

どうやって有効だと検証した?

◎実験:温かさの知覚の調査
〇実験1
 温かさを感じるための閾値上の関数を作成するために、マグニチュード推定法を用いた。被験者に、暖かさの感覚に対して感覚の相対的な強さに比例した数字答えてもらった。

→刺激温度の低い条件では朱色の下唇が最も温感に反応し、温度が高い条件では舌の先端が最も強く感じられた。舌の裏側は舌先に比べて常に反応が鈍いが、高温では唇の反応と同等だった。指先の反応は、低温では比較的強く、高温では比較的弱い。
 皮膚表面の実際の温度変化という観点から見ると,指先は口腔内のどの部位よりも強かった。(皮膚表面の温度が3.5℃上がると舌先では指先の6.5倍の温かさを感じる)
 唇は中程度から大きな温度上昇には比較的反応せず、舌の裏側よりも低い。

〇実験2
→唇に触れた物体の温かさを感じる速度が40℃では約2.5倍になった。他の部位と比較して、口唇が最も反応する温度では傾きが浅くなる。

〇実験3
→湿った粘膜皮膚(唇の内側)のほうが熱伝導率が高いとされているのにもかかわらず、唇の外側(唇の毛が生えたとこ)は他の2つの部分よりも閾値以上の温熱に反応した。
 被験者が刺激の直前に下唇を舐めた場合は、唇が乾いているときよりも刺激された皮膚の温度が(平均1.5℃)高くなった。(唾液が皮膚への熱の流れをよくして、温かさの認知度が高まっている?) 唇の部位の差は皮膚温度が高いほど大きくなる傾向がある。
 口唇皮膚は、低温で最大の反応を示す温熱受容器が、高温で最大の反応を示す温熱受容器よりも充実している。

◎実験:冷たさの知覚の調査
〇実験4
→温かさを提示したときとは異なり、舌先と唇の朱色の部分は冷却すると高い反応を示した。冷たい刺激は指の川の最も表面的な層から熱を奪う可能性はあるが、角質層は明らかに冷たい受容性が存在する上皮下層からの熱の殿堂を遅らせる。温かさを提示したときはと異なり、舌先と朱色の唇の冷却反応が似ていることから、舌で先に探索した口の外物体は唇で触っても同じように冷たくみられることがわかった。より極端な温度で見られる違いは、舌の表面の熱伝導率の変化から生じるものではないこともわかった。(軽度から中程度の冷やし方では、舌の裏側と先端側の両方で同じ反応が見られ、冷たくない温度での2つの部位の反応が一致しているため。)

〇実験5
→3つの口唇部は冷感をほぼ同様に感じた。朱色の唇のなめらかな皮膚に比べて、粘膜は皮膚温度の所定の減少に対する反応性が低いことを示した。
 唇の内側の冷たさに対する機能的な反応は、粘膜の高い熱伝導性が低い神経密度を補っている。
 冷たい感覚が温かい感覚よりも急速でない極端な温度変化においては、唇の皮膚と舌の裏側では温めるよりも冷やすほうが反応しにくい。

◎全体
→唇、舌、指先の各部位で温熱反応に大きな違いがあることを示した。実験1-3では、外側の唇から内側の唇までの数センチの距離で、皮膚温度の上昇に対する反応性が4倍から1倍に変化した。
 口腔内の冷却に対する反応は、指先や顔の冷えに対する知覚と比較して、領域間での変化がなく、相対的に強かった。(唇の外側(毛が生えたとこ)と、朱色の唇、粘膜のある唇の内側、舌先のすべてが冷たい刺激に対して同じように反応した。) 舌の裏側だけが最も冷たい刺激に対して平均以下の反応性を示した。
→冷たさは唇と舌側の皮膚でほぼ同じように感じられるが、温かさは朱色の唇と舌の先端で口の中だけでなく外の温度も感じられることができる。

議論はある?

 なぜ口の中の部位は加温よりも冷却に反応するのか。
→閉じた口の中の温度が37℃付近で、ほとんどの液体や個体の温度と同じかそれ以上である。これによって、口腔内温度感受性の進化に大きな影響を与えた。また、口腔内の温度が高いほど摂取物が口腔内の組織を冷やすことになる。そのため、冷却に対する反応を発達させるための強力で継続的な環境が必要だった。

次に読むべき論文は?(気になった論文)

 The relation between saliva flow after different stimulations and the perception of flavor and texture attributes in custard desserts(未来の論文)
 Oral perception of temperature of liquids(未来の論文)
 The effect of oral temperature on the temperature perception of liquids and semisolids in the mouth(未来の論文)


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